第2話:地上への憧れ
海は、時にはとても美しい姿で人々を魅了し、時には荒れ狂う嵐とともに人々に襲いかかる。
しかし、生きるためとはいえ、人は海とのかかわりを断つことはできない。
海は命の源といわれる母なる場所だから。
*
いつもと変わらない日々が続く。
(なにか、楽しくてワクワクするようなことないかなぁ・・・・。)
フワフワと水の中で身を浮かせながら、リティアはほうっと溜息をつく。
そのため息は、透明なガラスのような泡となって上へ上へと昇っていく。
上を見上げれば、ゆらゆらと月の光が降り注ぐ。 今日の天気は、晴れ。
こんな日には、沖にたくさんの船が出ているだろう。
(今日のお母様のご機嫌は、いいのね。)ゆらゆらと揺れる頭上の水面を見上げながら、リティアは思う。
普段は優しい笑みを浮かべている、海の女神マリアリーナ。
リティア達、海の精とともに海の神殿に住んでいる、この海の支配者。
海が穏やかな時は、彼女はとても美しい顔に微笑みを浮かべて竪琴を奏している。
しかし、嵐が近付いたり、何かあると、女神の顔は怒りに変わる。
その時は、きまって海が荒れるのだ。
(機嫌の悪いお母様は、・・・怖くて怖くて、近寄れないもの。春先は気候が不安定で、お母様の機嫌もころころ変わるから、側近のウィンドルが溜息をこぼしていたわ。)
近くのサンゴの岩に腰をそっと下ろす。
(早く・・・地上に行ってみたいわ。だって、もう地上に行ったことのないのは私だけなんですもの。お姉様たちは、楽しそうに人間の住む町に何度も出入りしているのに。)
リティアは、海の精の中でも一番若い。母であるマリアリーナは、18歳の誕生日を迎えるまでは地上にいってはならないと海の精である娘たちに厳しく言っている。
それは、今だに海の精を狙う悪質な人間たちがいることが影響している。
「海の娘」と呼ばれる海の精・・・もとい、人魚たちは人にはない不思議な力を持っている。
また、人魚を手に入れれば海を支配することができるという噂があり、それを信じて「人魚ハンター」や海賊たちが目を光らせているのだ。
マリアリーナは、18歳の誕生日を迎えるまでに己の力の使い方や変身の仕方などを娘たちに教え込み、一人前と認めたら晴れて地上へ出かける許可を与えるのだ。
何も知らないまま地上に出てしまうと、人間たちに捕まることは間違いない。
ましてや、ハンターや海賊たちだったらどんなことになるか・・・・。
過去に、すでに何人かの者たちは人間たちに捕えられ、悲惨な最期を遂げている。
晴れて人間と結ばれ、幸せに暮らした者たちも少なからずいるらしいが・・・。
「・・・早く地上に行きたい〜〜〜!!!」
リティアは水の中をクルクルと泳ぎ回る。細かい気泡がコポコポと立つ。
「書斎の本をたくさん読んでいたら、地上には素晴らしいものがたくさんあるって♪ 海では見られない生き物やたくさんの人間たち、そこで生まれるたくさんの文化・・・。
二本足で思いっきり砂浜を駆けて、人間たちの奏でる音楽を聴いてみたいわ。」
うっとりと空想に浸りながら、リティアは瞳をキラキラと輝かせる。
「どんな音楽を奏でるのかしら。お母様みたいに静かで、美しい旋律を奏でるのかしら。それとも、魚達の群れのように力強く速い曲かしら。」
空想に浸る彼女に、低い静かな声がかかる。
「リティア様、このような場所におられたのですか。」
ため息混じりのその声に、リティアはしまったと口をつぐむ。
そこには、母の側近であるウィンドルが。
「マリアリーナ様に、部屋でおとなしくしているようにと言われておりましたのに。今宵は、あなた様の誕生パーティーですよ? そして、大事な儀式もあるのです。大切な主役がいなくては困ります。」
リティアはしゅんとうなだれながら、ごめんなさいと小さく謝った。
ウィンドルは男の海の精である。海の神殿にはほとんど女性しかいないが、神殿の警護や女神の側近は男性が務めている。
「さぁ、帰りますよ。もうすぐ、儀式が執り行われます。」
ウィンドルと向かった先は、水晶で出来た美しい海の神殿だった。
まさに人魚姫の童話のような展開です。
・・・なかなか、難しいなぁ。読んでくださって、ありがとうございます!!
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