パーティーの招待状:次男
はたして、どうするべきか。
仕事場のデスクで俺は頭を抱えていた。
「どうしました?今日は。」
変な顔ばかりしてますよ、あなた。
そう言って右手の先にコーヒーを置いたのは秘書を務めてくれている男だった。
「うん、まあ…。」
「なんなんですか、全く。そんなんじゃ他に示しがつきませんよ。」
「はあ……。」
ため息を吐くと彼は呆れたようにトレーを抱えて、なんでもいいから処理してきてください、と冷たく言った。
「どうせ家に帰ってないからどうしようとかじゃないんですか?」
「おお…大体間違ってるぞ…」
「合ってるんじゃないのかよふざけんな」
「雇い主俺なんだけど。」
すいませーんと全く謝る態度でなくそっぽを向いた奴にもう一度ため息を吐くと、組んだ手の上に顎を乗せる。
「あーどうしようかなー…。」
「あなたにしては珍しいですね、面倒な事を後回しにしようとするなんて。」
おや、と思った。こいつは本当に周りを見れる奴だ。俺の行動パターンも全部知っている。だからこその言葉に、思わず頷きかけた。
先ほどはついごまかしたが、そもそもこいつの憶測の言葉は大体合ってる。
引っ越して俺の家となった屋敷に帰っていないのも、書類上結婚して以降彼女と一回も会っていない事も、正直用件を伝えるのにネックだ。
だけど、そうだ、どうして俺はこんなに二の足を踏んでいるんだろう。
いつもの俺なら、面倒ごとを真っ先に終わらせて仕事に取り組むはず。
それなのに、妻となった彼女が関わっているから、こんなに悩むなんて、どうして。
「いい加減に新しい家に帰ったらどうですか?あなた最近ここに泊まってばかりでしょう。」
もやもやする心中を持て余しながらもそうするかと頷いたら、秘書は呆れたという顔ではい終わりましたね、悩み解決しましたね、と手を叩いた。
「お前俺に冷たくないか?わりと初めから。」
「何言ってるんですか、それこそ今更でしょうが。」
どこから出したのか書類の山がデスクに積まれて、今度こそ深いため息が出た。
その晩新しい屋敷に帰った、正確には訪れたと言うべきだろうか。
鍵がかかっていたので三重にも掛けてある鍵を初めて使って開け、向こう側から開けられた閂の音が止んだところでドアを開けた。
向こう側で出迎えたのは彼女一人だけで、そうか、夜はこの屋敷に使用人はいないのか、とどこか他人事のように思った。
驚いた顔をして俺を見上げた彼女に、手にしていた招待状を渡す。
「夫婦出席の会がある。一週間後だ。」
視線が、俺から招待状へと移った。それがどこか面白くなくて、準備しておけ、と続けた言葉があまりに突き放すようになってしまって、内心焦った。が、出た言葉が取り消せるはずもなく、どうしようかと内心で少しうろたえた末に逃げる道を選んだ。
玄関ホールの彼女に背を向けて歩き出す。
俺を追いかけるように、かしこまりました、という小さい声が聞こえた。
整えてはあるがどこか冷たい部屋に入る。初めて入る自分の部屋の慣れなさにまた気が滅入った。
もう今日は全て放り投げて寝てしまおう。
服を脱ぎ捨ててベッドに横になる。
意識が闇に沈む前、彼女の初めて見た驚いた顔がふっと浮かんだ。