ほどほどに愛しなさい。長続きする恋はそういう恋だよ。6
杉崎と亜理紗は、オレ達の身体を傷つかない方法で、亜理紗の性愛思考を満たす方法を考えた。
叩いたり等の苦痛を伴う方法は、杉崎としても亜理紗としても好ましくない。であれば、精神的な恥辱を味合わせて、その表情を見て欲求を満たす事が好ましいと判断したのだ。
「そこで私は法律上問題がなく、かつ当人たちにもダメージが少ない形で出来る恥辱は何だろうと、私のドM感をなるべく封印して考えた結果――相沢には女装を、そして源には単純にエロコスを思いついた」
だが、これはこれで問題があるとした亜理紗は悩み――今日、ずっとため息を付いていたという事だ。なんて紛らわしい。いや、深刻に悩まれても困るからそれはそれで良いけども。
「今日の授業は、いわば実験だ。相沢と源には悪いと思うが、しかしこれで結果が出れば今後亜理紗がどのように欲求を満たすかの基準を測れると考えたのだ」
「それで、今後どの様に欲求を満たすか、思いつきそうですか?」
「え、えっとぉ……そのぉ……出来れば、今後も二人にこんな感じで協力してほしいなぁ、なんて……」
恥ずかしそうにモジモジと指と指を絡める亜理紗に、源が頬を膨らませて怒り始める。
「駄目ですッ! 私は確かに中村さんの為なら協力はやぶさかじゃありませんが、それでも相沢君のコレは性的過ぎますっ!」
「そこまでいけない事か?」
亜理紗の代わりに言葉を挟んだのは、杉崎だ。顎に手をやって考えるようにしており、本当に倫理的にも問題ないと思っているのだろう。
「いけない事です! 私だけならともかく、相沢君は男の子なんですよ!? 先日の脱衣トランプもそうですが、今回の女装にしたって、一歩間違えれば性行為に発展しかねません! しかも、何時だって先生が監視できるわけじゃないでしょう!?」
「むぅ……それは確かに」
そこを考えていなかったのかよ杉崎!?
「ていうか先生が監視してたって正直抑止力になってるかと聞かれれば否と答えますですっ!」
「否定できないな……」
「いや否定しろよ……」
「そういった理由から、私は相沢君が中村さんの欲求を満たす為に協力するなんて、認めませんですっ!」
今回源の意見は、全面的に正しい。
オレと亜理紗は別に付き合っているわけでもなければ、付き合っていたとしたって、中学生での性行為等は以ての外だ。
だからこそ、男女の隔たりを理解しようと諭す源の言葉に、オレは何も言う事は出来ない。
言えるとするならば、同じ女性である、杉崎と亜理紗だけだ。
「相沢は今回の問答には口出しをしない、と言った様相だな」
「ああ。今回に関しては、源の意見に賛成だ。ただ、オレは亜理紗がどう判断するかで、それに従う」
もし亜理紗が、それでもオレへ手伝って欲しいというのならば、それに従う。もし亜理紗が、倫理的に間違いだというのなら、今回の欲求解消に関しては、オレが手を引く。
「オレもなるべく亜理紗に協力したい。けど確かに源が言う様に、亜理紗の悩みは性行為に直結しかねない問題だ。オレがどうしたいじゃなくて、亜理紗がどうしたいかが一番重要だ」
オレの言葉に、亜理紗は悩むようにした。けれどそうして悩む事が重要なのだ。もし彼女がどんな結論を導き出したとしても、オレは彼女を尊重する。
「あのさ、源ちゃん」
「何ですか、中村さん」
「例えば私と武君が付き合ったとしたら、そうしたら武君にこう言うお願いするのは、アリだと思う?」
「ッ!!」
源が、グッと息を呑んで彼女の言葉を受け止めた。
けれど、オレの方が彼女の言葉をしっかりと受け止めきれずにいる。
――え? 今の言葉は、どういう意味なの?
「私、武君の事が好き」
「……知ってますです」
「え」
「私は武君と付き合いたい」
「……そうだと、思いましたです」
「は、え、は?」
「相沢、パニくっとる場合か」
「いやいやパニくるよ!?」
え、どういう事? 亜理紗はオレの事を好きだったの? 付き合いたいと思ってくれていたの? それで何で源はそれを知ってるの!?
「普通にバレバレでしたよ、中村さん」
「そっかぁ、結構隠してたつもりなんだけどなぁ……まぁ、武君には告ったのに、何か別の意味に捉えられちゃったんだけどね」
「相沢、お前……」
え、告ったって、アレ? (※「どこかまだ足りないところがある、まだまだ道がある筈だ、と考え続ける人の日々は、輝いている。2」参照)
いやでもアレって友達として好きとかそういう意味じゃなかったの!?
「最低ですね相沢君……」
「ホント最低だな相沢……」
「しょうがないじゃんっ! だって亜理紗がいきなり告ってくるなんて思ってなかったしっ」
確かにあの時考えたけどさ!? でも名前呼びがどうので結局有耶無耶になっちゃって、そんな感じなんだろうって自己完結しちゃっただけなんだぞ!? 童貞なめんなよ!?
「それで、どうかな?」
「もし、相沢君と中村さんが付き合ったら、私が二人による欲求解消を認めるか、ですね?」
「そう。もし、だけど」
「認めません。二人は中学生なんですよ? もしお付き合いをするとしても、健全なお付き合いをするべきです」
「ホントにエッチな事をしなくても?」
「そういった欲求に繋がりかねない事が誤りだと言っているのですッ!」
バチバチと視線同士がぶつかり合う女と女の戦いだ! これにはオレも右往左往するしかねぇ!
「というか相沢は、中村に返事をしないのか?」
「いや返事の前に事を見守ろうかと……っ」
「見守る動きじゃないぞ、もう右往左往というより右往左往上往下往みたいな感じになっているではないか」
いきなり女同士のキャットファイトに直結しそうなこの状況をなだめる事が出来るコミュ力は無いつもりだ。
「じゃあさ。源ちゃんは、私の為に、これからもコスプレしてくれるの?」
「……場合に、よります」
「私、武君に出来ない分源ちゃんに情欲をぶつけちゃうよ。でも、私が好きなのは武君なんだから、それってすごく屈辱な事じゃない?」
「屈辱にさせた方が、中村さんは欲求を満たせるでしょう?」
「源ちゃんは、私の事を、まだ好きでいてくれてるの?」
「大好きです。大好きだからこそ、貴女が相沢君へ情欲をぶつける事を、見逃すわけにはいきません」
「素直になったらいいんじゃないかな? 源ちゃんも」
「……何を、です?」
「私と武君が、付き合うのも、エッチな事をするのも、耐えられないって、素直に言えばいいんじゃないかな?」
顔を赤くし、源が震え始める。しかし、怒りのようにも見えるが、どこか恥ずかしがっているようにも見えた。
そんな源を放って、亜理紗がオレの下へやってきた。
オレの手を取り、彼女の胸まで持っていくと、気持ちのこもった言葉を伝えてくれた。
「私は、武君が好き」
「お……おう」
「武君は、私が、好き?」
「……好き、だぞ?」
「付き合いたいの」
「オレも、出来るなら、付き合いたい」
「なら、これから私たちは……恋人同士、でいいかな?」
気持ちの整理は追いついていない。けれど、こんなに嬉しい事ってあるのか?
頷いて、気の利いた愛のセリフでも言えばいいのか、とかそんな事を考えながら、彼女は一度手を放して、その上でオレへと手を伸ばしてきて――その手を、今取ろうとした、その時である。




