ほどほどに愛しなさい。長続きする恋はそういう恋だよ。4
俺は痛めたお腹を慰める為にトイレの個室にずっと入っていた事は言わずに「すまん遅れた」とだけ言って、居残り授業に使用するいつもも教室へ。
そこには杉崎と源の二人が。
「相沢か。十二分三十一秒のトイレタイムとは長いな」
「小学生みたいな思考で何分か数えるのはまだ分かるとして秒数まで数えんなよ!?」
「すみません、遅れましたっ」
慌てて、という表現がピッタリな様子で教室へ入って来た亜理紗。
「何、そほど待っていないし、講師の相沢が今来た所だ。問題ない」
「どこ行ってたんだ?」
俺が訪ねると、亜理紗は顔を赤めながら「家庭科室」とだけ答えた。家庭科室に何の用だったのだろうと考えつつ、そこで杉崎と亜理紗の手に、紙袋がある事を確認した。
「持ってきたな」
「うんっ、こんなのでいいかなぁ?」
「うむ、良い趣味だ」
杉崎の持ってきた紙袋は少々大きめだったが、亜理紗の紙袋は小さめだ。そして、杉崎が持つ紙袋の中に亜理紗の持ってきた紙袋を入れた様子を見て、俺と源は視線を合わせながら首を傾げて、問う。
「今日は準備が必要な授業をするのか?」
「うむ。中村の性癖についてだな」
「その紙袋、何が入っているんです?」
「着替えだ。亜理紗にも持ってくるように先日頼んだのだ」
「へぇ、どんな?」
「これがお前の着替えだ。トイレで着替えて来い」
「え」
俺が手渡された紙袋は、杉崎の持っている紙袋だ。
「そしてこれが、源の分」
「え、私もです!?」
「ああ、お前はここで着替えろ」
嫌な予感がしたので、俺と源はその場で着替えと呼ばれたそれを、確認する。
……えー。ちょっとゴメン。内容物を明記する前に、良いかな?
「お前さ、俺等に恨みでもあんの……?」
「コレを、学校内で着ろとか最悪です……っ」
遅れたが説明しよう。
源の紙袋内に入っていたのは、簡単に明記するなら淫魔だ。
スクール水着にも似た衣装だが、所々が開かれており、肌がばっちり見えるタイプ。お尻の部分に尻尾が生やしてある上、髪留めには小さな翼にも似た飾りが付けられていて、それを着させられる源が不憫でならない。
そして、それを鑑みたら俺はまだマシな方だが……メイド服だった。それも、古き良き古典的なモノではなく、最近のコスプレ用に可愛らしさが強調されている、黒を基本色として、フリルにピンク、ストライプに白、更にスカートは恐らく膝上程度で留まるミニスカだ。
その上、これは亜理紗が持ってきた紙袋に入っていたのだが……黒の上下下着と組み合わせる形のガーターストッキングのセットと、黒髪ロングヘアのウィッグ……つまりカツラが。
「良いから着替えてこい。理由は後に説明してやる」
「ごめん二人とも、お願いっ!」
亜理紗が頭を下げて頼んでくるので、俺と源は深くため息を付きながら、着替える為の準備をする。
「……んん?」
よく考えると、俺はトイレで着替えなきゃいけないんだよな?
「こんなモン女装露出プレイじゃねぇか……っ」
「楽しみにしているぞ」
「うんっ、うんっ!」
顔を真っ赤にしてブンブンと強く頷いた亜理紗と、ニヤニヤ笑いながらカメラを用意する杉崎に、仕方なく俺は部屋を出て、トイレへと向かうのだった……。
**
田坂恭弥は図書室で勉強をしていた。
眠くなりながらも保健体育の教科書を開き、性知識に関する勉強をしている彼の姿を、図書委員以外は誰も観ていない。
「うむ……よくわからん」
うねりながら、彼は習っている筈の箇所を復習する。だがどうにも理解が出来ず、このままではどうにもならんと図書室内の本をめぐり、一冊の本を見つけ出す。
「『サルでもわかる筈の性教育』……?」
変なタイトルだと思いつつ、しかしこれ以上に自分向きな本は無いと、先ほどまでかけていた椅子へと戻り、本を開く。
そして、その名の通り分かりやすい内容だった。マンガとイラストで簡単に性教育を伝える内容に、恭弥は驚きを内包しつつも本を熟読していく。
そろそろ午後六時になる。その時間になれば図書室が閉まってしまうので、先に貸出申請を出してしまおうと、その本を図書委員の女の子に差し出す。
すると、彼女は顔を赤めながら貸出申請を受諾し、恭弥と目を合わせない様に「一週間です」とだけ言って、本を突っ返す。
恭弥は疑問にも思わず、そのまま図書室の開放時間ギリギリまで、その本を熟読するのであった。
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着れた、ハズだ。
オレは、トイレの鏡に映る自分の恥ずかしい姿を直視できず、変な所は無いかと簡単に探した上で変な所しかねぇと結論付け、着ていた制服を紙袋に入れて持ち、そっとトイレを出る。
廊下に誰もいない事を確認しつつ、ダッシュで一年五組の教室まで走り、そのままドアを開ける。
「あ」
「ひゃっ」
今まさに、源がブラを脱ごうとしている光景が目に入った。秘部はパンツで隠れていたが、しかし上下ともに下着姿の彼女がやけに扇情的で、オレは思わず彼女へ視線をやってしまう。
「あ、相沢君……ッ!」
「ご、ごめん源っ」
顔を真っ赤にして震える源に謝罪しつつ、オレは廊下へ急いで出て深呼吸。
思わぬラッキースケベだが、しかし源に嫌われたかもしれない、と複雑な気分になっていると……何やらニヤニヤとした杉崎と、スマホカメラでオレの事を連射する亜理紗の姿が、廊下にあった。
「お前ら、どうして廊下に……?」
「そもそもトイレの廊下でずっとお前の事を待っていたんだが、私達に気付かなかったようだな」
「武君すっごく可愛い――っ!!」
「亜理紗、学校にスマホの持ち込み禁止だぞ……」
注意しているオレの言葉を聞いているのかいないのか、亜理紗はありとあらゆる角度からオレの痴態を撮影している。挙句の果てにはローアングルからスカートの中を撮影しようとしたので、慌ててスカートを隠すと彼女は興奮した面持ちで叫んだ。
「何で隠すの!?」
「そりゃ隠すわっ!!」
「ほほう、これはエロいなぁ……」
と、前を隠していたオレの後ろから、ピラリとスカートをめくってお尻を眺める杉崎の行動に「ひゃうっ」と変な声が出ると共に、エルボーを叩き込む。
「きょ、教師へ暴力ぅ……っ!」
「これは身の危険を感じたが故の正当防衛だよっ!」




