私はすべての人間を、毎日々々、恥をかくために生まれてきたものだとさえ考えることもある。6
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
「いや怖いよ!? オレが服脱いだだけでそんな鼻息荒くすんなっ」
「だ、だって目の前には武君の半裸があって、布一枚隔てた先には武君のモノがあるんだよ!? 正直興奮で頭フットーしそうだよぉ!」
「くぅ、タオル取りたくねぇ……っ」
「湯舟にタオルごと浸かるのはマナー違反だぞ武。おっぴろげてしまえ、男同士だ」
そういう恭弥は恥じらいもなく素っ裸だ。
「そう、そうだよ武君! 僕たちは男同士で、男同士には裸の付き合いも必要でしょ!? だからほらハリー、ハリー!!」
「分かったよたくっ!」
意を決してタオルを脱いで、裸になった俺は、一足先に浴室へと向かい、シャワーで体を洗い流した後に、浴槽へダイブ!
あまり人の家でやるには褒められた行為ではないけれど、今回ばかりは見逃してくれ杉崎!
「まぁ脱ぐ所をビデオカメラで撮影してたけどね」
「今すぐデータを消して貰おうか!?」
「ふむ、そもそも【ピー音】を見たり見られたり等、何が良いのだ? よくわからん」
「んー、この辺は性知識に繋がるしなぁ。亜理紗にも教えたい所だけど、先んじて恭弥にも教えとくか……」
ちなみに、俺の次にシャワーを浴びて湯舟へ入って来たのは枝折だ。俺の向かいで膝を折ってちょっこりと浸かっている姿は、本当に美少女と同伴で湯舟に浸かっているようにしか見えないのが悔しい。
「そもそも性器ってのは、生殖行為を行うためのモノだ。これは分かるな?」
「……」
「そもそも生殖行為ってのがわからんか……」
「田坂君ってば、保健の授業真面目に受けたのか訝しいほどに性知識皆無だよね?」
「保健か……体育以外は退屈で、思わず眠ってしまうのだ……」
まぁ興味の無い事へ無関心になってしまうのは人間の性だ。オレだってそうだししゃーないな。
「まず生殖行為ってのは、所謂子供を作る為の行為。男と女がこの行為をして、男の精子を女性へ排出し、女性は膣という器官にそれが入って、卵子へと精子を授精させる。これが生殖行為――所謂セックスだ」
「男女による行為か」
「どこか忘れたけど、どっか国だとセックスのやり方自体を映像で教えたりするらしいけど、日本だとやらないな。まぁAV流すみたいなもんだし、倫理的にNGなのかも」
「フランスだと、二時間くらいの講義で男女による身体の違い、性的快楽、避妊の重要性や道具、更にはLGBTの意見とかも含めた統括授業をするらしいね」
「あぁ聞いた事ある。まず最初に『一人一人の意見が違う事を理解しよう』ってところから始まるんだよな」
その点、日本は性教育に対して怖がりだと思うんだよなぁ。しっかりと性教育を行えば、それは自信にも繋がってくるし、タブーを恐れすぎていると思う。
おっと、話が逸れてしまった。
「性器ってのは人間でいう重要な器官だ。だから基本衣服などで人はひた隠す。でも、隠されたモノってのは、何だかんだ気になっちまうよな?」
「うむ、それは分かる。鶴の恩返し等、俺がもし『絶対に開けないで下さい』と言われれば、襖が閉じられた瞬間に開ける自信がある」
「その場合まだ鶴は織物してないと思う」
「案外悪くない状況かもね」
「また話が逸れたが……人の性器を見るっていう行為は、そういう性的分類もある位メジャーなもんだ。視姦や露出って言って、他人の性的な部分を見て興奮を覚える、または見られて興奮を覚えるジャンルだな」
「見るだけか」
「そうそう。この辺はサディズムとマゾヒズムにも近しい所があるが、その辺はまた今度な。
それはさておき、性器ってのはそもそも性行為に近いというより直接関係する器官だ。それを見る事によって性的興奮を覚える事は難しい事じゃないし、見られた側も、見られた事によって性的行為を連想させる結果、興奮を覚える人もいる。
ただこの辺は人によりけりかな。見られる事に嫌悪感を覚える奴もいるし、見られる相手によって変わる事もある」
「つまり性器を見る事によって興奮する人物は、その行為そのものを連想して、という事だな」
「概ねそんな感じだと思う。まぁこの辺はちゃんとデータが取れたモンじゃなくて俺の考えだけど、近いと思うぜ」
杉崎なんかはこのパターンだと思う、というのは彼女の名誉を思って言わないでやるけど、既に彼女の立ち振る舞いによって、この気遣いは遅いものだとは思う。
「……その気遣いは、中村さんにしてあげてね、武君」
突然、枝折がそんな事を言ってきたので、俺は首を傾げて「亜理紗に?」と問う。
「なんでそこで亜理紗が出てくるんだ?」
「まだ内緒。――どうせ、杉崎先生が、手を打ってるでしょ」
枝折は僅かに面白くなさそうに、しかしどこか嬉しそうにそう言って、それ以降は黙った。
なので恭弥の次に俺が洗い、出る頃に枝折はのぼせてしまったので、ビデオカメラを回収してデータは削除しておいた。




