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私はすべての人間を、毎日々々、恥をかくために生まれてきたものだとさえ考えることもある。2

 時の流れというモノは早いもので、もう土曜日になってしまった。


俺は杉崎に手渡された『合宿のしおり』を片手に、小さなバックを背負って秋音市伊勢門通り二丁目を歩いている。


しおりには杉崎の家までの道のりが描かれており、俺はその地図通りに歩いてきた筈だ。


……そう、そのはずだ。


「デケェなぁ……」


 伊勢門通り二丁目は確か裕福層に向けた住宅街で、周りにコンビニやスーパー、薬局などが集中しているため、秋音市の中でも非常に人気が高いと母ちゃんに聞いたことがある。


しかもそんな高そうな場所にも関わらず、杉崎の家は通常の一軒家三軒分位の広さがあった。趣を感じさせる木造住宅。庭に池とかありそうな感じがする。うーん、こういう時に若いって不向きだな。説明する語彙が無い。


「あ、武君こっちこっちー!」


「おはようございますです」


「おはよう武君っ! いい朝だね!」


「おはよう武。今日は楽しみで八時間しか眠れなかった」


「おはよう。そんだけ寝てれば十分だろ」


 杉崎家の前には、もう亜理紗・源・枝折・恭弥の四人が集まっており、それぞれが私服で何やら大きなリュックやカバンを持っていた。泊り用のセットだろう。


「ふむ、全員揃ったな」


 杉崎がいつも見るスーツ姿ではなく、ラフな私服姿で現れた。薄手のシャツとハーフパンツという格好で、ちょっと色っぽく見えたが言ってやらねぇ。


「今日は世話になるけど、よろしくな。杉崎」


「なに、生徒と一緒のお泊りなど、私も楽しみだ。お前達が二年生や三年生なら校外学習や修学旅行があるのだが、一年の時にはそういう行事は無いしな」


 そういえば中学一年の頃に泊りの行事ってないな。小五の校外学習と小六の修学旅行あるんだから、中一でも何かやればいいのに。


「中学校によってはやるんだがな」


「え、そうなの!?」


「私は私立のお嬢様学校だったからか、経験がある」


「杉崎って中学時代女子校だったのか」


「エスカレーター式で高校と大学もな。そして教育実習を経て今の地位にいる。そのせいで男性との繋がりが無くて未だ処女だ」


「いきなり処女暴露されても……あれ、杉崎って今何歳だっけ」


「女性の年齢を聞くものではないぞ」


「年齢より処女かどうかの事を隠せよ!?」


 ちなみに、今は杉崎家を歩きながら会話をしている。家内は広く、今自分がどこにいるか教えて貰わないと困ってしまうレベルだ。


「ここが今回の勉強会に使う部屋だ」


 襖が開けられる。杉崎が言うように全員が雑魚寝で寝ても十分どころか、もう十人追加しても整理すれば寝られそうな大部屋だった。


「杉崎って金持ち?」


「両親がな。今は両親ともに田舎で隠居していて、この家は私が一人で使っている。普通にアパートで独り暮らしをさせて貰いたかった所だ」


 俺だったらこんな広い家を一人で使い放題とかワクワクするけど、その辺は持つ者持たぬ者で価値観は違うだろうし、俺と杉崎では年齢も性別も違う。相違は当然だろう。


「では荷物をまとめろ。その間に私は勉強会の用意をする。教科書は持ってきただろうな?」


「え」


 俺の口から素っ頓狂な声が出て、全員の視線がこっちに向けられた。


「……武君まさか」


「勉強道具、持ってきてないのです?」


 亜理紗と源が「コイツマジか」みたいな目で見てくる……。


「てっきり例の下ネタ授業の一環だとばかり……」


「武、先生から渡された小冊子に勉強道具の一覧もあったが」


「ごめん、ちゃんと見てなかった」


「武君、そこまで僕とのお泊り楽しみだったの!? 僕嬉しいっ」


「そうじゃないんだけど、まぁそうかも……」


「相沢は他の者に教科書などを見せてもらえ」


 俺の可愛らしいオッチョコチョイを杉崎がヤレヤレって感じで見逃してんのがなんかムカつくけど、正直今回は俺が悪いので何も言えない。


「じゃあ誰か見せてください」


 亜理紗は右腕を綺麗に伸ばしてる。


源は右手を小さく上げて、他の者が上げてるのを見て下した。


恭弥は右腕どころか全身をピーンと伸ばしてる。。


枝折に至っては両手を上げてるというかトキの有情破顔拳みたいな感じになってるのがちょっと笑える。ちなみにわからない人は「有情破顔拳」で検索するといい。


「……じゃあ亜理紗見せて」


「はーい、武君どうぞ~」


 隣に座って教科書を見せてもらいつつ、ノートの代わりに杉崎がルーズリーフを用意してくれたのでそれを使用する。


「ではどの教科を――」


 **


何がビックリって、このまま夕方になるまで杉崎が真面目に授業してた事なんだよ。


ていうかコイツ国語の授業は「私語彙力無いから辛い」とか言ってる癖に数学と理科は教えるのスゲー上手いんだよ。


「実は大学時代、理系を主に受講してた」


「何で国語教師になった!?」


「数学とかは教えるの面倒だけど国語は中学生ならある程度日本語話せるだろう理論で楽できるかなぁと」


「分からないでもないけど教師という聖職を舐め過ぎだろ!?」


 一応杉崎の名誉の為に言っておくと、彼女はテスト範囲を教える事自体は優秀で、亜理紗なんかは「先生の授業は塾の先生より教え方上手いよ」との事。


ただ、俺は毎回テストで赤点接触に近い点数なので彼女の授業がいかに優秀かを実感できた事はないが、それは単純に俺がバカなだけか。

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