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誰の友にもなろうとする人間は、誰の友人でもない。-02

 喫茶店は、少々入り組んだ道の先にある小さな店だった。


コンセプトは「隠れ家的なカフェ」みたいな雰囲気が醸し出されているモダンチックな内装と、開けた空間に幾つか点在する席は半分近くが埋まっており、客層は女性二人客が一組と、カップルが三組だった。


「完全にカップル用だな」


「ここのお店は二人分のパンケーキが売りなんです」


 店員の案内に従い四人掛け用のテーブルに二人で座る事とした俺と源。


彼女はおしぼりと水を運んできた店員さんに「本日のパンケーキセットと、アイスティで」と頼み、俺は五秒位メニューを見て「アイスコーヒーでお願いします」と注文する。


「アイスティはミルク、レモン、ストレートとありますが」


「ストレートでお願いしますです」


「ガムシロップはお付け致しますか?」


「無しで大丈夫です」


「アイスコーヒーにフレッシュとガムシロップは」


「お願いします」


「お飲み物はすぐにお持ち致しますか?」


『お願いします』


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


 店員さんは最後まで笑みを崩さずに注文を聞き届け、最後に俺たちから遠ざかろうとした所で、わずかに小声で綻びが出る。


「ふふ、可愛いカップル」


 おそらく無意識に出た独り言だろう。それにこの店の主な客層はおそらく全員成人済みか近しい年齢だろうし、中学生男女の二人組を見たらそりゃ「ちょっと背伸びしてカフェテリアデートをする可愛いカップル」と思うだろう。


しかし源はいつものしかめっ面をそのままに顔面を真っ赤にして水をガバガバ飲んでた。俺の分まで飲み干した。


「焦りすぎだろ」


「あああああ焦ってなんかかかかか」


「分かりやすすぎるぞ……」


 ホントにこいつは変わってない。小六の頃からこんな感じだった。


 赤くなったり青くなったり冷や汗を流したり、涙を流したり……それをムッツリ顔のまま。ある意味器用だと思う。賭け事は絶対にしない方がいいタイプ。


「お前さ、やっぱ去年の夏休みの事、覚えてんのか?」


「……」


「忘れてんなら丁度いいし、覚えてたって、まぁどうでもいい事さ。子供によくある他愛もない話だろ」


「……今も私たちは子供です」


「そう。だからあの時の事は忘れて、今を楽しめばいいんだ。他人の顔色や評価なんか気にする事はないし、そう考えた俺の事も、気にする必要なんかないだろ」


「貴方は、卑怯です。そうやって、いつだって貴方は」


「卑怯でもいい、間違っててもいい、でもあの頃の俺は、何時だって正しいと思う事をやっただけで、今もこのスタンスは変わってない。亜理紗の時も、枝折の時も、恭弥の時も、お前の時だってな」


 源は、俺の言葉を聞いて、いつものムッツリ顔をそのまま、しかし僅かに落ち込むように顔を伏せた。


「もしかして今のお前を作ったのは俺かもしれない。そう考えると、若干胸が痛いんだ。


 小六の頃に俺ができた事は、あの程度の事なのかなって、どうしても考えちまうし、今でも時々悶絶したくなる。


 あの時の俺はカッコつけすぎた上に、決まってなかったし」


「……考えすぎです。私はあの頃から何も変わっていませんです。いえ、正確に言えば、好みのタイプが変わった、という事くらいです」


そこで、初めて源が冗談を口にし、わずかに表情を綻ばす。


「そっか。あの頃から好みが変わったか」


「はいです」


「じゃあ、喜ばしい事だな。俺なんかより、立派な女を見つけて」


「はいです。中村さんは、天使です」


 パンケーキが届く。ふわふわのパンケーキに生クリームやジャム、イチゴなどの果物が贅沢に使われたとても美味しそうな一品で、俺と源は二人でそれを分けて、食すのだった。



**



「思い出した」


 恭弥が突如、その言葉を吐いたので、有果は「何をだ」とだけ問う。


「小六の夏休みに、一度だけ源が事の発端になった事件があったな」


「イジメやケンカに繋がるような事か?」


「いや、そうではなかったと思う。しかしその件で、武は女子達から酷く嫌われた事を思い出した」


「何があったんだ」


「俺も現場にいたわけじゃないから詳しい話は知らん。武の家に複数人の男子で遊びに行って、友達と喋りながらそういう話になったというだけだ」


「え、武君の家に行った事あるの田坂君」


「泊った事も何度かあるぞ」


「何それボク嫉妬で狂いそうなんですけど」


 話が逸れると厄介なので「何があったか話せるか?」とだけ有果は聞いた。




「源が武に告白した」




「……は?」

 

誰より真っ先に表情を真っ青にしたのは勿論枝折だった。彼は背中から地面に倒れ、亜理紗に介抱されながらも「処す……処す……」と呟いていた。


「しかし源は相沢に特別な感情どころか、友情すら感じていなかったではないか。それに相沢も普通の友達と接するように源へ接しているぞ」


「何、簡単な話だ。告白は源の嘘だったんだ」


「――ああ、なるほど」


「嘘? 源ちゃんが、武君に嘘の告白をしたって事? それは、源ちゃんが悪いんじゃないかな。何で武君が女子から嫌われなきゃいけないの?」


「当時、小学生最後の夏休みなのだから、好きな男子に告白して思い出をいっぱい作ろう、みたいな感じで、多くの女子が夏休みに男子を呼び出して、告白する行事が流行ったんだ」


「あ、なんかそれ知ってる。いっぱい六年生カップル出来てたよね」


「俺も興味が無いからスルーしていた。何度か呼び出しもあったが『武と遊ぶ約束してるから無理だな』と断っていた。もしかしたら告白だったのかもしれない」


 話が若干逸れたと言わんばかりに首を振り、恭弥が続ける。


「その行事はウチのクラス……六年三組だったのだが、ウチが事の発端でな。当時クラスの中心にいた三沢という女子が他のクラスの男子へ告白してOKを貰った事が、起爆剤だった」


「そんな中、武君は源ちゃんに嘘の告白で呼び出されたって事だよね」


「概ねそんな感じだ」


「でもやっぱり、それで武君が女子に嫌われる理由ないんじゃないかな? 例えOKでもNOでも、源ちゃんは武君に嘘の告白をしたわけなんだから」


 亜理紗は、口調こそ普段のおっとりとした感じを変えずに発言していたが、表情は当人が気付いているかはさておき、若干怒りを含んでいた事に、少なくとも有果は気付いていた。

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