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完全である事自体が、不完全なのだ。2

「精神的な違いだからな。現実じゃ同性愛者は、どうしても差別の対象にならざるを得ない。


 対してボーイズ・ラブ、ガールズ・ラブは創作物だ。区別はあれど差別はなくせる。一種のファンタジーでもあるから、二者には明確な違いがある」


「差別」


 亜理紗が、そこで表情をしかめた。


 中学一年生にとって、差別という言葉はあまりいい意味に捉えないだろうし、俺も別にいい意味の言葉で語っていない。


「まあ――男性同士の恋愛や、女性同士の恋愛は、如何に綺麗な言葉で着飾っても、【生物学的には】間違っているって事だ。これは否定できない」


「そ、そんな事……っ」


 美馬がそこで、少しだけ声を荒げた。しかし、続く言葉を放つ事が出来なかったか、力なく項垂れ、そして再び席についた。


「美馬を傷付けたとしたら、それは謝る。ごめん。


 でも、この居残り授業は亜理紗に『性的用語や性的行為に対する正しい意味を教える為』のものだ。これを説明しないわけにはいかない」


「美馬くんも、ゲイ・セクシャルになるって事?」


「ああ。もちろん美馬が女の子も好きな可能性はあるから、バイ・セクシャルの可能性も捨てきれないけどな」


 男子と女子を天秤にかけ、それでも尚、俺に好きという感情を伝えてくれた可能性はあるのだ。それを否定は出来ないだろう。


「では相沢。ゲイ・セクシャル等の同性愛者と異性愛者――どちらが正常だと、お前は思うのだ?」


 ふふ、と笑みを浮かべつつ、杉崎が訊ねてくる。


 ――言葉の意味によっては、本気でコイツへ怒鳴りつけなければならないので、内心穏やかではないが。


「杉崎、お前」


「怒るなよ? 私はお前の意見を聞きたいだけだ」


 しかし杉崎は答えない。


 ――そして俺も察してしまう。きっと杉崎は、こう言いたいのだろう。


「……俺は、どちらでも正常だと思う」


「でも、さっき武君は『生物学的に間違ってる』って」


 ああ、そうだ。確かに同性愛者は『生物学的に』過ちであると、言わざるを得ない。しかし――


「それはあくまで『生物』として正しいという一点でしかないんだ。人間が人間を愛するという気持ちに、決して嘘や過ちなんて無い」


「お前はそれが、例え『同性』であったとしても、間違いなんかじゃ、決して無いと言うのだな」


「ああ」


 俺はどんな時代、どんな世界であったとしても、一個人が一個人へ恋心を、愛情を抱く事を、否定する事は出来ないと思っている。


生物として間違っている? そうであって、何が悪いと言うのだろう。


「互いが互いを想って抱いた大切な感情だ。


 それを否定するのは、そいつの否定に他ならない。


 そんなに生物学とやらが大切なら、ソイツらだけで繁殖してればいい。


 人間は、そんなチャチな生き物だと、俺は思いたくない」

 

 人間だって本来は動物だ。生物だ。繁殖をしなければならない、という自然の摂理に従う事は、当然かもしれない。


 けど、杉崎もこう言っていた。



『完全である事自体が、不完全なのだ』――と。



 俺はこうして感情を抱いて、今ここに居る。


 もしかしたらこの感情は、完全でないかもしれない。不完全であるかもしれない。そもそも感情なんてもんが、不完全であるのかもしれない。


でも、人間は『不完全であるからこそ、誰かに恋をし、誰かを想う事が出来る』のだ。


 この感情を否定する奴は前に出ろ。ぶん殴ってやる。


「美馬、丁度いい。お前にされた告白の返事、今するぞ」


「え、あ……うん」


 黒板の前で熱弁していた俺。そして美馬は立ち上がって、向き直る。


唇をキュッと閉め、両手を結んで、今か今かと、告白の返事を、待ち続けている。


「――ごめん、俺はお前の想いを、受け取る事は出来ない」


「それは、相沢くんが、女の子を、好きだから?」


「ああ。でも、でもな」


 息を吸い込み、意思を込めて、喉に力を入れた俺は――しっかり、美馬の目を見て、言葉を語ろう。


「お前の気持ち、俺はとっても嬉しい。俺は誰かに好かれる人間で、誰かに想ってもらえる男なんだって、そう感じる事が出来た。


 だから、俺はお前の恋心を、否定しない。もしお前をバカにする奴がいるなら、俺の前に連れてこい。俺はそいつを、絶対に許してやらねぇから」


 ニッ、と。俺は今出来る満面の笑みで、コイツへ告白の断りを入れた。


けれど――俺を好きで居てくれるコイツの【友達】で居たいと言う感情が、俺を突き動かした。


「俺はお前の、好きな人で居れて、嬉しい」


 ボウッ、と。表情を赤めて、両手で頬を隠すようにした美馬の姿が、カワイイと思えた。コイツホントに美少女――間違えた、美少年だな。


「じゃ、じゃあ……っ」


「え」


 ズイッ、と俺の眼前へ迫った美馬。俺は思わずたじろぎ、黒板へ背を付けた。


「相沢くん……ううん、武くんって、呼ばせて?」


「あ、ああ」


「あ。ボクの事は枝折って呼んで」


「お、おう。枝折だな」


「武くんは、女の子より男の子の方が、好きになる可能性も、ある?」


「まぁ、否定はしねぇよ?」


 そりゃ今は女の子って条件が絶対だが、将来を含めて異性愛者であるという保証はない。こう言う曖昧な返答になるだろう。



「じゃあ――ボクと、一回エッチしてっ!!」


『ハッ、ァ――ッン!?』



 おい俺と杉崎今どういう発音したもう一度言ってみろいや言えねぇけど。


「ボクが武くんを気持ちよくしてあげるよ!? ボクも男だから、男のどこが気持ちいいか知ってるから、ホント、ホントに一回だけ、ね!?


 女の子より男の子の方が快楽に身を浸せるよっ!! 絶対に後悔させないからっ!!」


 思わず膝を折ってしまった俺。しゃがんで両手を俺の頭上横に伸ばし、壁に手を置いた美馬――いや、枝折。


 何だこれ、何で俺壁ドンされてんだ。なんでこんな美少女、あれ、コイツ男? いや、女?


 いやもしかして 俺 は 女 だ っ た ?


 思考回路も定まらない。思考どころか自分の性別すらあやふやとなるこの状況で、枝折は俺の膝へ、手を置いてきた。


「ね……? 武くん」


 フゥ……と、俺の耳に温かな息を吹きかけて来た瞬間、俺は顔を真っ赤にしつつ、逃げ出す為に枝折の両手を取るが、コイツ見た目に反して力強ぇっ!?


「い――いやだぁ! 初体験が男なんて、俺ヤだぁっ!」


「大丈夫だよ、気持ちよくするから……っ! 何だったら先っちょだけ、先っちょだけ挿れさせて! それで男の味を覚えるよ、たぶんっ」


「ちょっ、ちょっと待て!! ……オレが、お前に?」


「ううん。ボクが、武君に」


「俺受けかよォ――ッ!?」



 どったんばったん大騒ぎを続ける俺達男組。そんな俺達を見据えつつ、杉崎はハァハァ言いながら、亜理紗へ言い放つ。


「中村、はぁ……よく、覚えておけ……はぁ、はぁ……っ」


「なんですかー?」


「ああやって、双方の同意無しに、無理矢理性行為へ及ぼうとする事を……ハァ、ハァ……、レイプと呼ぶ……っ」


「勉強になりまーす」


 綺麗にまとまり、亜理紗が帰り支度を整えた所で、俺が美馬の股間へ重たい蹴りを入れ、この場は収まった。


女子の皆、もし男に襲われそうになったら、マジで股間蹴れ。コレ、お兄さんとの約束な。

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