渡り鳥は家をつくらない
「主。大丈夫?」
「酷い怪我ではあるけれど、きっと大丈夫。ほら、早く準備準備」
「わかった」
不安そうに聞いてくる獣人の少女――ルミナスの頭を撫でて、その行動を促す。元気なくしおれかけていた耳は、改めて気合いを入れたらしい彼女に引っ張られてピンと天を突いた。パタパタと部屋から出ていく彼女を見送って、俺は目の前の存在――ベッドで苦しそうに呻いている翼を持つ少女に向き直る。
身体の至るところに付いた傷。今も尚突き刺さったままの矢は、滑らかな肌を容赦なく食い破っている。
「誤射じゃないな」
流れ弾に当たったにしては刺さった矢が多すぎる。まず間違いなく、飛んでいたところを狙い打たれたのだろう。
少しどころじゃなく荒々しくなるが、先ずは矢から抜いていく。肉に食い込んだ矢尻には、恐らく返しがついているだろう。躊躇いなく引き抜いた矢の先を見て、予想通りの形に顔を歪めた。
「まぁ、雁股だよね」
特徴的なその矢尻は、狩猟によく使われる形の横に広がる矢尻である。本来は内側に刃があるものだが、これは両側に刃が施されていた。
「魔力の痕跡も無し……。こういう原始的なのは、却って特定しづらいんだよな」
ぼやきながら残る矢も引き抜いていく。五本の矢が地面に転がり、傷口のひとつから吹き出した血が顔に跳ねた。内臓まで傷付いている可能性が高い。迂闊に傷口だけを塞いでしまえば、ろくなことにはならないだろう。
しかしそこは魔術の出番。かつては生傷絶えない、どころか洒落にならない怪我も数多く経験してきた。なので、単純な外傷に関しては最早お手の物である。
ちょっとした事情があり、気軽に自分には使えなくなってしまったのが玉に傷か。
「血塗れ」
「おっと」
「平気。見慣れてる」
いつの間にか戻ってきていたルミナスに濡れタオルを押し付けられ、それで自らの顔を拭う。結構スプラッタな光景でも怯まない辺り、その言葉に偽りは無いのだろう。彼女が奴隷として囚われていた組織、場所はかなりえげつないところであった。既に壊滅したらしいので、もう思い返すこともないが。
「……もう治した?」
「身体の方はね」
「わたしの時、すぐにやってくれなかった」
「あれは君が拒否してたから」
治癒魔術自体の効力は高いとはいえ、それ専門のエキスパートではない。受ける側に拒否されると自分では満足に治療することが出来ない。だから不満そうにされても仕方ないのである。
頬を膨らませながらも、彼女は血に濡れた翼の少女の身体を拭き始めた。その間に、此方は翼の治療に移る。
翼の方は身体よりも損傷が酷い。此方には魔力の痕跡が残っているようだ。この風穴は魔力弾によるものか。解析し、覚えつつも治療をしていく。
しかし、ここで俺は酷い頭痛に襲われた。魔力切れによる初期症状だ。全く不便な身体になったものである。
「ルー、ごめん」
「ん。呼んでくる」
完全に治すには魔力が足りない。昔はこんなことに悩むことなんてなかったのだが。それこそ駆け出しの、単純に魔力量が少ない頃ならともかく、今は魔力量そのものは人より多い。なら何故こんなことになっているのかといえば――まぁ、そんなことは今はどうでもいいか。
「お父さん、呼びました?」
「シルク。ごめんよ、魔力が足りなくてね」
「そんな。役に立てるならいくらでも」
彼女のお父さん呼びにも若干慣れてきてしまった――そんなことを思いながら、振り返って微笑みかける。
まるで良いところのお嬢様のような佇まいでそこに立っている少女は、その七色に輝く蝶の羽を優しく羽ばたかせた。放たれる光の鱗粉は、魔力となって此方の身体に染み渡っていく。
「……うん。もういいよ、ありがとう」
「そうですか? まだ完全には」
「使いきれるくらいでいいのさ。余しても仕方がないから」
治療に目処がつくくらいに回復したところでストップをかけると、シルクは何故か不満そうに羽を震わせる。パラパラと光の粒子が落ちて、その瞳は灰色よりも濃い色になっていた。不満の色である。
「シルク。主はシルクを気遣ってる。多分」
「……えぇ、きっと。だから不満なんだけど」
はぁ、と頭を垂れてしまうシルクだったが。以前よりも遥かに感情豊かになってくれたことに喜んでしまうのは不謹慎だろうか。呆れられて喜ぶのも変な話だ。
シルクは珍しい妖精族の少女である。その出生は蝶の虫人から産まれた隔世遺伝。身体に走る色鮮やかな模様はどの虫人にも例が無く、新種、または突然変異と見られて不気味に思われた両親に捨てられた少女。
それから紆余曲折を経て今に至るわけだが、何をどう思ったか父としてこの自分を慕ってくれているようだ。
「……でも確かに、私の魔力量じゃお父さんを全快にするのは厳しいんだけど」
「わたしはその辺りわからない。そんなに?」
「率直に言えば、とんでもないと思うよ。でもそのぶん、疑問もあるんだけどね……」
「ま、色々あってね」
「私は役に立てるからいいんですけど」
言いながら、また羽を震わせるシルク。もういいというのに。
補充された魔力を使い、残された羽の怪我を治療していく。
「ちなみに。シルクのそれ、誰にでも出来る?」
「出来ると言えば、出来る。私の魔力は、この羽と同じでどの色にも変わるから、恐らくはどんな相手でも吸収した時点でその人の魔力に馴染むから。でも簡単には出来ないよ。これはお父さん相手だから、楽に出来ているだけで」
「つまり特別。羨ましい」
まぁ、もっと言うなら繭の中にいた頃にシルクは俺の魔力を吸収していた訳で。多分そのお陰でその辺りは感覚的に楽なのだろう。
ちなみに繭になった虫人に魔力を流して成長を促すあの行為は、普通ならば親がやるものである。虫人ではないとはいえ、同じ過程で産まれてきたシルクが自分を父と呼ぶのも、多分そこから来ているのだろう。
「よし、と。毒物反応も無いし、このまま安静にしていれば目を覚ますだろう」
「ん。じゃあ着替えさせる。主は回れ右」
「はいはい」
「シルクは手伝う」
「うん」
女性陣二人に背中を押され、苦笑しながら部屋を後にする。どの道、一先ずのお世話は二人に任せるつもりであったし、こっちはこっちで彼女が何の種であるのかを調べなくてはならない。おおよそ予想はついているが、調べるに越したことはないだろう。
少しだけ振り返り、二人の様子を閉められた扉の窓から伺う。その姿はまるで姉妹のようで、非常にほほえましいものだった。
「逃げた」
「らしいね。風通しが良くなった」
「そういう問題では……」
「この結果は予想してたしね。それが遅いか早いかの違いだけだったわけで」
翌日。
明朝にけたたましい音が響き、三人揃って彼女が寝ていた部屋に駆け付けたところ、待っていたのは破られた窓に散らばるガラス。そして数枚の羽がベッドの上に残されているだけ。
元気になって逃げたのならばともかく、そうでも無いのに逃げたとしたら多少心配が残る。
それにしても、逃げるのは想定内だったがなかなか荒々しい逃げ方を選んだものだ。
「知ってた?」
「知ってたというか……まぁ、普通は逃げるでしょ。ルーならちょっとわからない?」
「……言われてみれば」
敵意丸出しだった頃のルミナスを思い返し、懐かしいものだとしみじみ頷いてみた。背中をポコスカ殴ってくるあたり、恥ずかしがっているのだろう。
「ルミナス、逃げようとしたことあるの?」
「……最初だけ。昔の話」
「そうなんだ。想像できないね」
「昔話は後にしよう。先ずは片付けないとね」
風を起こし、散らばったガラスや木の破片を一ヶ所にまとめてしまう。一際軽い羽が舞い上がり、
「持っておくかい? 珍しいものだよ」
ちょうど三枚あったので、ひとつは自分の手元に。残る二枚を二人の元へ飛ばす。
それを受け取った二人は、互いの顔を見合わせた後に、取り敢えず懐へしまったようだ。
案外、助けてくれたことへの恩返しだったりして。
そんなことを思いながら、割れた窓の外。彼女が飛び立ったであろう空を眺めた。
「……うーん」
「なんだよ、浮かない顔してんな」
とある受付の前。目の前にいる男にそんなことを言われてハッとする。
話をしているところで他所に意識が向かっていたことにばつの悪さを覚えて謝罪すると、男は別に構わないと首を振った。
「お前が言ってたハンター組な。黒だった」
「そうか」
「違法狩猟に密売、裏の方への横流し。罪を上げれば枚挙に暇がない。情報提供感謝するよ」
「たまたま目につくところがあっただけさ。今の俺じゃ手に余りそうだったから、そっちに投げた。礼を言うのはこっちだ」
「よく言うぜ。その気になりゃあ組織のひとつぐらい潰せるだろうに」
「昔とは違うんだ。身の程を弁えてるだけさ」
煙草の煙を燻らせながら言う男に、苦笑しながらそう返す。
彼は此方のことをそう言うが、その言葉はそっくりそのまま返してやりたいところだ。
自分よりも頭ひとつ大きな身体は、強靭な筋肉に覆われている。潜ってきた死線を物語る傷痕は痛々しいものではなく、却って彼の強さを裏付ける証拠になっていた。
かつての仲間……いいや、今でも勿論仲間だが。頼れる前衛として誰よりも先陣を切っていた彼は、今では似合わぬ受付員とは。将来とはわからないものだ。
なんて考えていたところで、背後から騒がしい音が響いてきた。どうやらいざこざが起きた様子。
「またかよ。全く冒険者って奴は血の気が多くていけねぇ」
「誰よりも血の気が多い奴がよく言うよ」
振り返ると、二人の男が破壊されたテーブルのそばで掴み合い罵りあっていた。頭をがしがしと掻いた彼は、のっそりとした動きでカウンターから出ると、のしのしと二人に近付いていく。
そして、その大きな身体から生まれる影に二人が呑み込まれ、同時に顔を上げようとした瞬間に――
「うぇっ……」
岩石のような拳が、両者の頭に振り下ろされるのを見て思わず頭を抑えて苦い声を出してしまった。あの拳骨はとんでもなく痛い。どんなに頑丈なやつでも絶対に悶える。よく王女様と二人で地面を転がり回ったものである。
懐かしい痛みを幻痛として思い出し、何故か口元が緩むのが自分でも可笑しくて。
「じゃ、俺は行くよ。頑張れ、ギルド職員さん」
「おぉ。たまには飲みに付き合えよ。昔を懐かしむには早い気もするが、思い出話も楽しいもんだ」
拳から煙を上げる元伝説の傭兵は、あの頃よりも随分と柔らかく微笑むのだった。
それから更に数日。
最近覚えて凝り始めたらしいルミナスが淹れてくれたお茶を飲みながら本を読んでいると、膝元の耳がピクピクと動いているのが目に入った。
「主。気付いてる?」
「うん。でもまぁ、気にすることは無いと思うよ」
「……もしかして、結構前から?」
「うん」
「……失態。今初めて気付いた」
「充分鋭いと思うけどね。多分、目に見える距離にはいないから」
しょんぼりし始めた耳ごと頭を撫でる。元々感覚が優れている獣人の中でも、ルミナスは過ごしてきた環境のせいか一際警戒心が強い。なので、周囲の異常にはとりわけ敏感なのだ。
そんな彼女は自分の言葉に顔を上げて首を傾げる。どうやら、遠方からの視線には気付いても、それが誰のものなのかまではわからないようだ。当たり前か。
「……危険じゃない?」
「きっとね」
「本当に?」
「本当に」
仮に危険だったとしても。少なくとも、ルミナスとシルクは守る。口に出すと何となく膝元の彼女がむくれそうだったので言わないが……と、ちらりと本から膝元に視線を落とす。……既にむくれていた。何故か。
「私は、主のことを言ってる」
「えーっと……」
「主は私達を守ってくれる。それは嬉しい」
起き上がり、此方に向き直る。その目はひどく真剣だ。
「でも、主が傷付いたら、私達も傷付く。もしかしたら、主よりももっと傷付く」
ぽすりと彼女の頭が胸に当てられる。口調は淡白だが、籠められた気持ちは真っ直ぐだ。
「約束」
「ありがとう。ルミナスは優しいね」
「主のおかげ。……お茶、淹れなおしてくる」
ぱっと離れたルミナスは、冷めたお茶を見てテーブルからカップを手に取った。そして、少し迷ってから残っていたお茶を自分で飲み干してしまう。
「飲んじゃうんだ」
「もったいない。お残しは罪」
颯爽とさる後ろ姿。その尻尾はゆるやかに振られていた。
徐々に近付いて来ている。間違いなく、視線の持ち主は接近を試み、実行に移して、そしてそれは成功している。
これだけ聞くと多少恐ろしくも聞こえるが――
(あれでバレてないとでも思っているんだろうか)
ぱっと振り返ってみる。
ひとつの影が慌てたように一本の木の影に隠れてしまう、が。
(見えてる見えてる)
完全にその翼が見えてしまっていた。
先が黒く染まった、大きな翼。遠目に見る限り、後遺症も無く綺麗に完治しているようだ。
気のせいか、と大袈裟に頭を掻いて前を向く。多分今頃はこっそり此方を窺っていることだろう。
元々感じていた視線が、あの助けた少女――鳥人のものであることはわかっていた。敵意を感じるものではなかったので放置していると、段々と距離を縮めてきて。
こうして、外出して一人になった時には完全にバレバレな尾行を行うようになったのだ。
流石に家にいる時はかなり遠くから見るだけに留めているようで、ルミナスが辛うじて気付くか気付かないかのレベルに留まっているが……この様子だと近い内に接触してきそうである。
まぁ、だからといってなんだという話だ。単に見られているだけなのでそもそも害は無い。精々が、気付いたルミナスがピリピリして自分の傍を離れなくなる程度である。
シルクはその辺り全く気付いていないので終始リラックス状態である。たまにもう少し警戒心を持って欲しいと思うこともあるが、幸せそうに蜜ジュースを飲んでいる姿を見ると何も言えなくなるから卑怯である。せっかく七色の魔力を持っているのだから、少しでも自衛の術を教えておきたいのだが。
と、考えを巡らせながら歩いていると。
「いやっ……な、なにこれ……!」
振り返る。か細い声出したのは、当然ながら後ろをついて回っていた鳥人の少女だ。いつの間にかその身体には無数の細い糸が絡み付き、最早自由に動くことも困難になっているようだった。
あれはアラクネの糸だ。どうやら俺を追おうとして空を飛び、アラクネの巣に引っ掛かったようである。
「なぁにぃ~? なんで鳥人が引っ掛かってるのよ~……」
更にそこに巣の主人であろうアラクネ――蜘蛛の虫人が登場。どうやら巣に反応があったので見にきたようだが、予想外の獲物に困っている様子。
此方の隣に並び、二人して囚われた少女を見上げてから顔を見合わせる。
「あれ、アンタの?」
「いや……まぁ、そうかな」
「ドジな鳥人もいるもんねぇ。あーはいはい暴れないの。今ほどいてあげるから」
じたばたして更に巣に捕らわれていく少女を見てその多眼を細め、溜め息を付きながら糸をほどいていくアラクネ。数分で解放された少女は、涙目でこちらの背中に回り込んで、その大きな翼で自分を包み込んだ。……どうやら抱き着かれているようだが、見た目は此方が守られているようでどうにもしまらない。
アラクネは大きく溜め息をついてからまとめてボール状になった糸を弄びながら、
「今の鳥人ってこんな低いとこ飛ぶの?」
「いや、彼女が特別なだけだと思うが」
「だよねぇ。まぁそんなことより……」
アラクネは此方に歩みより、顔を覗き込んでくる。六つ目の全てがこちらに集中し、より強く翼に包まれた。暖かい。
「……恐がらないんだ」
「君は危険な種じゃないからね」
「確かに毒持ちじゃないけど、狂暴かもしれないのよ?」
「目の前で無抵抗の獲物を離しておいて言うことかい?」
「……それもそうか」
ふぅん、と至近距離でまじまじと見詰められたまま会話をした後に、彼女は後ろに下がる。そしてそのまま背中を向けて。
「さーて、次はどこに巣を張ろうかなぁ」
そのまま、伸びをしながらその場を去っていった。何だったのか、と考えようとして、背後で震えている存在を思い出す。
……取り敢えず、放っておく訳にもいかない。用事はあったが、一度帰ることにする。
「何でずっと主を見てた」
「ひぅっ……」
「唸らない唸らない」
ここ最近視線のせいでピリピリしていたルミナスが、その原因である少女に向かってぐるぐる唸る。そのせいで怯えた少女が自分の背中に隠れて密着。更にルミナスが獣に近付くという悪循環が発生。収拾がつかなくなる前にルミナスを落ち着かせることにする。女の子がしていい顔では無いぞ。
「あの、その、うぅ……」
「ゆっくりでいいから、話してくれないかな。大丈夫だから」
ルミナスの頭を撫でながら、此方を包む翼をさすって語りかける。シルクはおろおろしながら部屋の天井を右往左往していた。
しばらくして落ち着いてくれた少女の話を要約すると、このようなものだった。
「つまり、君の種族は飛べるようになると一人で世界を飛び回らなければならないけど」
「独り立ちしたその日に、運悪く撃たれた」
「それで長い時間飛べなくなってしまって、仕方なくこの辺をウロウロしてたけど、地上には敵が沢山で怖くて仕方がない」
「で、君を助けた俺をたまたま見付けて、取り敢えず様子を見ていた、と」
三人で彼女の言葉を改めて口にして纏めたところで、三人揃って何だそういうことかと目を合わせた。
彼女の種は所謂渡り鳥。一定期間ごとに移動を続けて生きていくタイプの鳥人だ。長い期間同じ場所に留まり続けると体調が悪くなるらしいが、それが何故かは解明されていない。一説によると魔力循環機能にそれの原因があるらしいが、おおよそ一日とそこに留まることが出来ない、ある種少し忙しい種族である。
翼と同じく、白く、しかし毛先が黒く染まった髪の向こうで、瞳が不安に揺れている。
そんな彼女にルミナスが近付いていく。怯えて後退る前に、ルミナスの手が彼女の頭に触れた。
「それなら、ここを止まり木にすればいい」
「え……」
「家は基本的に安全。話通りなら、日中ぐらいは飛んでられる」
「は、はい。本当は三日くらいなら飛んでられるんですけど……」
「なら、夜中だけでも帰って来てここで休む」
いいよね? とルミナスが視線で聞いてきたので、勿論と頷き返す。
「そうやって、また元通り飛べるようになったら、改めてここから飛び立てばいい。大丈夫。多分直ぐにそうなる」
「……いいんですか?」
「というか、そうして欲しくて主を見てた。なら遠慮せずに受け入れる」
何やら有無を言わせぬ口調で少女に言うルミナスの言葉に、どうやら少女は頷くしか無かったようだ。
元々、倒れ伏していた彼女を拾ってきたのはルミナスである。きっと、責任のようなものも感じているのだろう。
こうしてまた、家に出入りする亜人が増えた。
あれからしばらく経つが思ったよりも順調なようで、今では数日に一度程休みに来るほどで済んでいる。夜中に帰って来て此方の布団に入って休むのがお気に入りのようだ。
きっとそのうち、彼女も世界中を飛び回るようになるだろう。たまに、少し疲れた時にでもここにきて休んでくれたのなら、俺としては満足である。
あ、因みに。
「お借りしてるわよ」
「……いや、まぁ構わないが」
いつの間にかあのアラクネも庭に巣を張っていたのは余談である。別に邪魔にもならないのでいいのだが……。