嘘の檻
どこからどこまで嘘とか、そういうものじゃないんだと思う。この世界が嘘でできてるんだよ。
「どういうこと!?」
君は分かってない。
「何で死のうとするの!?」
本当に分かってない。
「生きてよ!」
分かってないんだ。誰か一人でも嫌な思いになってしまったら、全員そうならなきゃいけない運命なんだ。
君は後で気づくよ。僕がどんな気持ちでここに立っているか。この行動がどれだけ偉大なことか。
全員嫌な目に会えば、それが…それが全ての始まりになるんだ。だから…
…僕が全てを終わらせる。そして、全てを始める…
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「なあなあ、体育館倉庫にイタズラしに行こうぜ。」
またアイツらだ。松山と中村と秋山。こういう時はあまり関わらないほうがいい。下手に関わって濡れ衣でも着せられたら面倒なことになる。本でも読んで聞いてないふりをするのが得策だろう。そう思いバックの中から本を取り出す。
「おい、そこの本読んでるやつ、ちょっとこい」
うわさをすれば、だ。こういう時は行くしかない。
僕は仕方ない、と言った感じに返事をして、本を置く。3人の方を向くと、いつにもまして真剣な顔をしている事が分かった。
「お前ついてこい」
恐らく3人の中の中心人物であろう松山が人差し指をクイッと自分自身に向けて曲げる。ここはクラス内。3人は目立つので、この行動はクラス全員が見ているはずだ。その中で、僕が真っ先に見た親友の横山は眉毛を少しあげて「ドンマイ」というように苦笑した。
「俺たちは今から体育館倉庫に行く。」
3人は僕に目を合わせる気配もなく前を見て歩く。このイタズラの結末は大体わかっていた。イタズラ、という時点で3人がとる行動は大体予想がつく。どうせ、なんか壊して先生呼んで、濡れ衣を着せようとしてるのだろう。最後はバレて3人が怒られるのだ。それなのに、なぜ何度もやりたがるのだろう。
「入れ。」
ハイハイ、と倉庫に入る。入ったことが無かったので知らなかったが、外から見るより倉庫内は広く、寒かった。何がイタズラされたものだろうか、とあたり見回す。その瞬間ドアが閉められ当たりが暗闇になった。微妙に寒い空気とドアの隙間から来る風に冷や汗をかいたが、不思議と気持ちは落ち着いていた。濡れ衣を着せられたってきっとクラスメイトが手伝ってくれる。
「先生。アイツがやりました。」
ドアが開いた瞬間声が聞こえた。やっぱりか。いきなりの明るさで少ししか目を開けることが出来なかったが、松山がこちらに指を指しているシルエットはしっかり見えた。
「何を僕がやったんですか。」
僕は至って冷静という言い方で先生ではなく松山に向かって言う。
「とぼけるなよ。」
松山はそういうとドンドンと足をならしながらこちらにやって来る。目の前で一瞬睨んだと思うと、横に避けていき跳び箱の一段目を開けた。
「…」
中身を見た瞬間僕は唾を飲み込んだ。自分は決して関係していないのに、音が立たないように慎重に唾を飲み込んだ。微かに倉庫に流れ込んでいた風は吹き止み、沈黙した。
黒髪のロングヘアーが跳び箱から少し出ている。少しパーマをかけているようで、髪に隠された顔は見えなかった。ただ、跳び箱の中に染み付いている赤い色と鉄の様な臭いで状況はすぐに脳に焼き付いた。
そこには死体があった。
一瞬の沈黙…そして僕は我に返る。
「僕はッ!」
やっていない、と言おうとしたが口が回らない。
「おや、なんでそんなに焦ってるのかな?」
慣れた言い方で口説くように発せられる言葉には緊張感なんてなかった。
「お前こそなんで驚かないんだよ!」
手を震わせながら言う。死体を見て焦るのは当たり前だ。どうせこんなこと言ったって知らないふりをする。でも、自分が隠しているように見せたくなかった。相手に話の先導権を与えてしまえばまたたく間に犯人扱いだ。
「そりゃ、体育館倉庫行ったらお前がいてその横に血がついてるんだ。一回見たんだから驚かないさ。」
手の中の汗は次第に怒りに変わっていく。こいつら狂ってやがる。死体があるにも関わらず言葉には一言一言、僕を犯人にするための説明を入れている。流石に人殺しはやりすぎだ。濡れ衣とかそんなこと問題じゃない。目の前で人が死んでいる、ということが1番大変なのに僕達は何もしない。何も出来ない。締めることができない口を閉ざす方法すら見つからない。それが問題だ。
「…」
もう何も言えない。言ったところでこの子が生き返るわけじゃない。
「先…生。救急車を…。」
緊張を抑えても途切れ途切れになってしまう言葉を宥めながら先生に言う。
先生は我に返るとすぐさま携帯を持ち電話をかけた。でも、3桁の数字を押す先生の手は微かに揺れていた。
先生が電話をかけている間、松山は見下すような目線で僕の顔を見た。まるで、どうするんだ?、と言うように。
救急車は三分で来た。そして、僕と松山たちは理事長室に呼ばれた。
僕は必死にやっていない、と主張した。理事長や校長先生は優しくて、彼らが嘘をついてる可能性を真剣に考えてくれた。すぐに授業に返してくれてクラスメイトに何があったか聞かれた。僕は一言、「アクシデント」とだけ言い、質問に答えなかった。
その後、松山たちに会った。3人も授業に返されてるようだ。気を抜けば前に突き出してしまう手を押さえる僕に、平然と松山は言った。
「マダイって知ってるか?生まれた頃は全部メスなのに、いつの間にか半分オスになってるんだぜ。」
松山はそう言うと薄気味悪く口角をあげ、お疲れ〜、と去っていった。その時、僕は彼が僕に何を伝えようとしたか分からなかった。残り2人も分からなかったようで、「気持ち悪」とか「俺もメスになれるかなー」とか適当な相槌をうっていた。
でも、次の日、その言葉の意味を理解することになっる。
ピンポーン、と家に音が響いたのは午前5時。宅急便にしては早く、来る人に全く心当たりは無かった。家のインターホンには画面がなく、声しか聞くことが出来ない機種なので、わざわざインターホンの所に行く必要ないだろう、と思いドアを開けに行った。
鍵を開けた瞬間、自分側ではなく相手に扉を開かれた。そこには5人の制服を来た大人がいた。
そいつらはヒラヒラと手に持つ紙を目の前で揺らし、残念だったな、というように口角を上げて苦笑する。そのA4サイズの紙は見せられた後、すぐにしまわれた。
「逮捕状だ。着いてこい。」
一瞬のうちに頭が真っ白になった。自分の手にはめられる輪を見ながら、自分がやったのか、とやってもいないことを考えてしまう。
事件系のドラマで連行された犯人が途中でやっていない、と叫ぶシーンがある。視聴者側の僕はいつも、そんなこと逆効果だよ、とつっこんでいる。でも、それは仕方ないことだった。こんな何が起こっているかも分からないうちにいつの間にか何も無い部屋に入れられ、時間を失っていくことを考えると、叫びたくなる。
「僕は…やってないのに…」
叫びたい気持ちを抑えて、静かに言う。僕を直接誘導している横の2人には聞こえているはずだ。でも、2人は少し下を向いただけで何もしてくれない。
「だから犯罪者が減らないんだよ…」
今度は少し大きめの声で言う。犯罪を起こす理由として、1番多いのが怒り。そんな怒りを警察が作っているなんて、あってはならない事だ。でも、今現在自分の怒りの発生源が警察であり、そいつらは俺の気持ちに気づいていない。パトカーのサイレンはまるで自分の気持ちに比例するかようにして次第に大きくなっていく。
「絶対復讐してやる。」
この言葉が僕の周りの全ての人に届けばいいと思った。警察=正義、という証明もされてない固定観念を捨てることの出来ない人々全員に。
俺はマダイだったんだ。嘘から誠は出ないかもしれない。でも、嘘が誠になってしまうことならある。一般大衆のメスだったのに、犯罪者というオスになった。彼の言った「マダイ」という言葉はそういう意味だったのだろう。
「さて、どうしてやった?」
何も無い部屋にテーブルがあり、それをまたいで1体2で座った。
「やってないです。」
相手の目を見て答える。すると、テーブルをどしんっ、と叩いて
「今認めれば刑は小さくなるだろうな。」
これが誘導尋問か。小さかろうが大きかろうが、「刑」と言っている時点で認める訳にはいかない。強盗くらいならまだいいかもしれないが、人殺しを認めた時点で人生が変わってしまう。
「それでも…僕はやっていません。」
この人にとって人1人の命はそこまで大事じゃないのかもしれない。死んだ人に起きた真実を知ることよりも、僕をしっかり説得して認めさせるよりも、早くこの事件を終わらせることを目的としている。
「証拠は出ているんだよ。」
はぁ、とため息混じりにいう言葉の奥に、「早く認めろ」という本音が見える。
「凶器にあった指紋がお前のものだった。」
全く身に覚えの無い事実に、思わず全身が震えた。
「このナイフ、見覚えあるか?」
それは僕の家のナイフだった。普段学校に持っていくことは無い。それを持つことが出来るのは鍵を持っている人、つまり僕だけだ。「あります。」と言うことが急に怖くなる。この言葉を言ったらもう戻れなくなる気がする。僕は言葉の代わりに少し下を向いた。
「あるよな。お前のナイフだもんな。」
まるで心を読んでいるような言い方をする。お前のことは全て知っているんだよ、と心の底で笑っている。
「まあ、そんな訳で100%お前が犯人な訳だ。」
こいつ…僕の話も聞いてないくせにひとりで進めてやがる。こんな尋問いらないくせに形だけ作りやがって。おかしいんだよ。人殺しってそんな仕事的に解決出来んのか?そんなに簡単なものなのか?
世の中腐ってる。資本主義なんて辞めてしまえ。何もかも…平等なら…
「おい。100%ってなんだよ…。ナイフ一つで100%なのか?あきれる。じゃあ指紋鑑定の結果は100%なのか?機械が壊れていない保証はあるのか?そのナイフは僕のなのか?完全なんてないんだよ。ただただ確率が高いだけで人は人生をメチャクチャにされる。そういうもんなんだろ。社会って。」
もうどう思われたっていい。自分の思ってること全て言って、捕まるなら気持ちよく捕まる。ドラマみたいな展開は望まない。僕はバッドエンドというハッピーエンドを迎えるためにしゃべり続ける。
「お前みたいな固定観念の塊みたいな人間が世の中を動かしてるから『犯罪』が無くならないんだよッ!見方によっては悪が正義にもなるだろう。どうせ今お前は思ってるよ。こんな自己中心的な考え方してる子供が、知ったように何言ってるんだって。でも、実際どうなんだよ。こんな考え方出来ない頭じゃないだろ。答えろよ。」
心做しか、部屋の蛍光灯はさっきよりも明るく見えた。何も悔いはない。これで相手が何を言うかだ。どうせヘリクツとか思ってるだろう。でも、気持ちが伝わったならいい。
「そうか、お前の言う通りだな。」
少しの希望が舞い降りた。でもそれは表面だけで中は黒かった。
「そういう考え方する奴が犯罪って起こすんだよな。」
警察官は椅子を下げて立つと
「遠回しな自白をありがとう」
と言い、部屋を出ていく。するともう一人の警察官があーあ、というように目を大きく開きながら唇を噛む。その後僕は何も無い部屋に連行された。太陽の代わりのライトと、人の歩く足音がこれからの僕の人生を語る。警察官の言った「そういう考え方する奴が犯罪を犯す」という言葉。確かにそうかもしれない。だって今、無性に人を殺したい。でも、今更殺してもイメージが変わる訳では無い。人を殺したことになっている僕には何をしても悪いイメージになってしまう。他人1人の命で自分の命が変わってしまうのなら、自分の命が変わっている今、誰かの命も変わっているのだろう。自分の命の責任は自分では取れない。だから僕は他人の命の責任を負う必要がある。
「本当にしたの?」
棚先日和。この言葉を言っている彼女が僕が責任をとるべき人なのかもしれない。
「してないよ。」
彼女は斜め下を見る僕に疑問を持っているのか納得してるのか分からないような顔を見せてくる。
「なら本当のこと言いなよ。」
簡単に言わないでほしい。彼女が僕を救おうとしてくれる気持ちは伝わってくるが、僕は彼女に救われたいなんて思ってない。なぜなら彼女はいわゆる元カノというやつで、1年間くらい付き合っていたが彼女が引っ越したことがトリガーとなり振られたからだ。別れる際、僕が言った「仕方ない事だもんね」という言葉に「まあ、そろそろ潮時だったんだよ〜」と笑顔で答えたのは今でもしっかり覚えている。
「お前は彼氏いるのにこんな所来ていいのか?」
別れた後、彼女にはすぐに彼氏が出来た。きっとそいつと付き合うために僕と分かれたのだろう。引越しなんてただの言い訳だ。
「良いんだよ〜。だって彼、馬鹿みたいにオタクじゃない?学校で見たらいい感じだけど付き合ったら色々わかって…」
この言い方だと、きっとああいう系のオタクなんだろう。
「だから多分私がここにいたことがバレても、彼はもう既にたくさんの女の子に一方通行恋愛してるからいいの。2次元って怖いわね〜。」
「10代のお前が40代の言い方するな。」
僕がつっこむと彼女はうっすら笑い、また元の顔に戻る。その様子を見て僕は少し笑う。彼女が来てくれて内面すごく嬉しかった。元気がない僕を直接的ではない方法で慰めてくれる彼女は、元カノより大事な存在だった。
ちなみに僕達がこう話せるのはこの30分が面会時間でありガラス越しではあるが顔を見て話せるからだ。
「負けないでね!バイバイ!」
面会時間が終わった。何に負けないで、とは言わず一言「負けないでね」。たったその一言だけでも頑張ろうと思えてしまった。
そして僕は何も無い薄暗い部屋へと戻った。通るたびに冷汗をかかせる看守の足音と、ドアの隙間からうっすら漏れる風の音はやはり、不気味で居心地の悪いものだった。
でも、彼女は言った。「負けないで」
例えそれが心にもない、表面だけの慰めだとしても僕は信じる。少なくとも彼女はわざわざここまで来てくれたし、色々と話を聞いてくれた。それによって僕も今、力を貰っている。彼女は本当に優しい。こんな僕に、優しくしてくれるなんて…
…それだけなら良かった。でも、彼女のことを考える度、少しずつ不安が浮かんできた。いつも笑顔の彼女に不安なんてあるはずないのに。
…僕は間違っていた、そんな気がしてならない。彼女の笑顔は本物なのか?彼氏がいるにも関わらず簡単に来れるものなのか?もしかしたら僕を冷やかすため…笑いものにするため…。
彼女は嘘をついているのかもしれない。そうだ。きっと嘘だ。今まで言ったこと全部。あの時だってそうだった。引越しをきっかけに別れるのを言い出して、僕の涙もいい感じに消化して…それで新しい彼氏を作ったんだ。今回もそうに違いない。まるで僕には優しいような素振りを見せてたけど、それはただ僕の口から情報を聞きたいだけで…僕のことなんかどうでもいいんだ。
彼女の言った「負けないで」
僕はたとえそれが嘘でもいいと思っていた。でも違った。嘘っていうもんはもっと怖いものだった。僕が犯罪を犯したのは嘘。松山が言ったことも嘘。警察の言った証拠も嘘。彼女の言った言葉も…きっと嘘。
もう嘘と本当なんて分からない。嘘をついたことないやつなんていない。それは誰でも分かってること。でも、そんな簡単に言える嘘って全然簡単じゃない。時には笑いをもたらしてくれるし、時には物事を簡単に片付けることが出来る。…でも、棘にだってなる。棘になって、少しずつ、胸の奥から刺してくるんだ。その精神的な痛みは次第に気持ちに浸透して言って、抗う間もなく、成長していく。そして遂には本当になって、他人にも見える花になる。…僕はそんな棘だらけの生活に見ていないふりをして、自分の中で成長させてる。こんな生活を望む人なんていない。僕もそうだったのに…種を植えられた瞬間にもう成長は始まっていたんだ。
「もうダメだよ…僕。」
ぼそっとしたため息混じりの声が小さな部屋に響く。今の言葉はきっと昔の自分に言ったんだろう。何も知らずに種を育て続けた自分に…。
零れそうになる涙をこらえて上を向く。それでも涙は出てくる。いつまでも。いつまでも…。誰も見ていないこの部屋で涙をこらえる必要が無いことは承知の上。それでも涙を出すことは自分の気持ちに負けていると思えてしまう。この暗い部屋でひとりなく僕を…僕の心は止めようとしない。だから泣き続けるだろう…いつまでも…
その時、廊下から声が聞こえた。
「開けます。」
聞き覚えのない声と丁寧語を使った口調に違和感を感じたが、絶望に浸った僕にはそんなことを考える暇は無かった。
「釈放です。ついてきてください。」
その言葉に僕は何も思えなかった。ただ、素直に喜べない何かがあった。座り込む僕に看守は付け足して言う。
「あなたの冤罪が決まりました。ついてきてください。」
神経が全く機能しない。看守が何を言っていたかも一瞬のうちに忘れてしまう。
看守はやれやれと僕の手を取り、強制的に部屋の外に出す。僕は出されたショックで何を思ったのか、足を一歩前に出しヨレヨレと歩き始めた。機能停止した気持ちとついていけない頭を置いた部屋は看守によって閉められ、どうすることも出来ない僕は足を交互に前に出す。いつまで経っても先が見えない暗い廊下をひたすら歩き続ける僕に、どこからか「良かったな」と声が聞こえる。
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…ここは何処だろう。足元を見ると見慣れない土があった。踏むと柔らかい。コンクリートじゃない。空からさす光が地面に反射してしっかりと目に届く。
「そうか…」
納得出来ない現状に嘘をついて納得する。
「僕は…釈放されたのか…」
新しい台本を初めて読むように、記憶をたどって言う。釈放…。
嬉しい、という感情は全くなかった。かと言って悲しいわけでもなかった。ただ、記憶にかすかに残る薄暗い部屋よりも、何も無い空間に、ポツンと置かれている気がしてならなかった。
「良かったね!」
耳から微かに流れ込む声に目を前に向けた。そこには幼馴染と思われる女の子がいた。…見たことがある、かな…。
思え返そうとした瞬間、何かが頭を過ぎった。そして見たものは視神経を通らず直接、運動神経に働きかけるようにして、伝達される。すると右足は重心に逆らうようにして後ろに出され、左足と右足は180度回転し、片方の足を前に出そうとする。しかし、体は追いついていかず、重心が崩れ、左手の方によろけた。途端に発生した左肩への痛みは次第に地面に吸収され、僕は地面に横たわった。
見覚えのある女の子は「どうしたの!?」と言いすぐに近づく。そして、仰向けにしようと肩に手を伸ばす。
でも僕はそれを振り払って、体制を取り直し、右足に力を入れて走り出す。僕の後ろ姿を呆然と見つめる女の子はそれを見ると、何か言いたそうにして追いかけ始めた。
結果、何度も転んだ末に起き上がれなくなった僕をその女の子は上から心配そうに見た。やはり意識もなく動かし続けた足は自分のためには働かなかった。
「慌てないで…大丈夫だから。」
この女の子は何をしたいのだろう。何度も倒れては必死に抵抗する僕を、何回も諦めず追いかけては話しかけてくる。女の子の息は荒く、限界と言えるような顔をしている。まだ走れる力は僕に残っていた。でも、走らなかった。
「…どうしたの?頭、ひ、冷やしな?」
そう言われて僕は目を閉じる。目を閉じて見える暗闇の先に答えがあるとは思っていないけど、その後目を開けた時に何かが見えると思った。
「冷たいな…」
僕が起きて一番最初に言った言葉はそれだった。走り続けた後、寝てしまったらしい。気がついたらベッドの上で寝ていた。
「大丈夫?突然寝ちゃうから。」
自分の頭に当たる冷たい布に意識を取られすぎて、そこにいる人に気づかなかった。
「私のこと覚えてる?忘れちゃった?」
少し笑いながらその子は言った。
「お前か…」
朦朧とした意識の中ふと浮かんだ人の名前を言うと、「正解!」と笑顔で返された。その正体は日和だった。
「どうする?ここ出たい?」
また彼女は笑って言った。確か、昔もそう笑っていた。
「疲れた。もう少しここで休むよ。」
そう言うと、バカにした笑い方をして、
「三時間以内に起きてね?ここ私のベッドだから。」
ふーん、と適当な反応を返す。その後で意味を再確認し、全力の腹筋を使って起き上がる。頭の上に乗っていた布は宙をまって布団の上に落ちた。
「おっ!起きたね〜!!」
彼女は嬉しそうにはしゃぎ、肩をポンポンと叩く。僕は見慣れない部屋の風景に、少しの不快感と少しの嬉しさを感じた。
その出来事から数日が立ち、僕は今まであった出来事を彼女に聞いた。実際、本当は心の内ではすべて覚えてたのかもしれないが、何故か鍵をかけてたみたいだ。恐れ恐れ言う彼女とは違い、僕には嬉しさがこみ上げてくるほど良い気分だった。彼女が言い終わると、僕は拳を震わせて言った。
「本当に嬉しいよ!!」
その言葉を聞いた瞬間固まっていた彼女の表情は、一気に笑顔になっていった。どうやらまた逃げ出してしまうんじゃないかと思ったらしい。でも、分からないことがあった。
「どうして釈放されたの?」
その質問をした瞬間、彼女の顔はまた固まっていった。そして、急に前を見て何かを決心したように言った。
「真犯人が自白したの。」
それを聞いて驚いた。まさか3人の中の誰かが言ったのだろうか。それとも他の誰かだったのだろうか。いずれにしろ聞かないわけにはいかなかった。
「誰?」
彼女は少し間を開けて言った。
「横山って言う人。知ってるでしょ?」
それを聞いて僕は呆然とした。知ってるも何も僕のいちばんの親友だ。
「嘘だ!絶対!」
そう言うとすぐに
「私もそう思うんだけどね。でも…本人が言ってるから…」
「おかしいよ!そんなはずないって!」
「だから私も…」
そう思う、と言いかけてやめた。これ以上話してもキリがないと思ったのだろう。それに、聞いて疑うのは当然のこと。横山はクラスでも静かなほうだし、とても殺人するとは思えない優しい子だ。
「でも、証拠が!ほら僕のナイフがあったんでしょ!」
何としてでも反論しなければ。僕が疑われた時もこうした記憶がある。何も言わなければ言われるまま。でも言っても何も変わらない。それが社会のルールだ。
「横山君と遊んだことあるでしょ。噂だと、その時に取ったんだって。」
「なんで…」
彼女は俯く。それに伴って僕も下を見る。窓に当たった風が窓を揺らし、カタカタと小さく音を鳴らす。
「例え嘘でも本当でも彼は捕まってるんだよ!」
彼女は話題を僕に変えようと、事実を主張する。
「簡単に言うなよ!」
でも、僕はこんな不平等な話を簡単には止めない。
だって僕が聞いてるのは第3者から見る事実じゃない…聞いてるのは、彼の体験した事実。僕だってそうだった。第3者から見た事実と僕が体験した事実はあまりにもかけ離れすぎていた。警察の下す尋問は答えが決まっていて、僕が何を言っても影響しない。
この社会は多数決で決まっているんだ。少しでも怪しい奴がいたら、そいつを犯人に仕立てあげて事件を早く解決する。そうすることで、迅速な対応と世間に良いニュースとして取り上げられるのだろう。話の中に主人公はいない。いるのは関係もない第2者と第3者、つまりモブだ。
「あいつが捕まってるのは、あいつの為じゃない。かと言って被疑者の為でもない。そして、犯人の為でもない…関係性のない第3者らの為だ。」
それを聞いて、彼女はさっきよりも険しい表情を浮かべる。そして、悩みを打ち明けるように言った。
「じゃあ、本当の真相を掴もうよ!」
またもや簡単に言う。こんな大事なことを一言で片付けないでほしい。でも、彼女の目には力がこもっていた。
「うん。掴もう。」
僕は掛け布団をどけて立ち上がる。
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「やってないだろ。」
彼はいきなりの言葉に戸惑いを隠せない。少し黙った後に、さあ、と言う。
「お前は間違ってる。お前がやってる事によって救われてるのは世の中なんだ。死んだやつなんて何も変わらない。」
「そうかな…」
彼は必死に惚けている。でも、僕は最初から分かっていた。彼の顔をガラス越しに見た時点で、やっていないと分かった。それは、僕と同じ顔をしていたから。彼女と話した時にガラスに微かに反射した僕の顔と。
「そろそろ教えて。本当の真相。」
「どうだろう。」
「とぼけんな!」
そう言って僕はガラスを叩く。周りの人は一斉にこちらを見たが、お構い無しだった。
「お前が捕まることで何人の人が悲しむと思ってんだ。まだ俺が捕まった方がマシだろ。」
情熱的に語る僕の後に静かな声で
「俺が困る。」
と言った。「親友が捕まったまま生きなきゃいけない俺が困る」と。
「何言ってんだよ!」
彼の言ってることはまるで意味がわからない。どちらが捕まったって同じことだろう。
「それに、僕には貸しがある。」
「え?」
貸し、と言う言葉に聞き覚えは無かった。僕は彼に何か貸しを作るようなことはしていない。むしろ作られた側だ。
「お前じゃないよ。お前も知ってる女子。」
女子?全くもって心当たりがない。お互い女子とは話さない方だ。
「誰だよ。」
「君の彼女だった時もあるんだろ。そいつさ。」
僕の元カノは一人しかいない。日和だ。彼女は別に横山と接点があるとは思えなかったので少し動揺してしまった。でも、同じ学校な以上話したことぐらいはあるのか、と納得した。…でも、彼からは納得のつかない言葉が出てきた。
「あいつ今、僕の彼女なんだよね。」
「え?」
そう言うと横山は苦笑する。「驚いた?」と。
「で、借りって言うのは俺がオタクだとバレたこと。」
「は?」
彼女だということにまずは驚いたが、その後で出た理由にもどうしようも無さすぎて、驚いた。いきなり過ぎてついていけない話題に頭を悩ませながら言葉を発しようとする。
「そ…そんな簡単な理由で犯人になるのか?」
「もちろん他にもあるんだけどね。」
彼は平然とした口調で話し続ける。まるでこれから先のことを考えていないように。
「もう1度考え直せよ。」
「もう何度も考えたさ。」
意味の無い言葉の繰り返しに遂には僕が沈黙してしまった。そのまま何もなく面会時間は終わり、僕は外に出た。
「まさか日和が…」
小さい声でぼそっと言う。確かに彼女に今の彼氏の事は聞いていないし、見たこともなかった。でも、だからと言ってこんな近くに彼氏がいるとは思わなかった。
「それは置いとくとして、彼女への借りってなんだ?」
自分の中で話題を変えようと、必死に呟いた。僕ではなく彼女への借り。もし、彼女にオタクがバレたことで自分を恥じ、僕よりも彼氏になってはいけないと悟って、謝罪の意を表して嘘の自白をしたなら、彼女への「借り」とは言わない。彼女への借りとオタクだとバレたことが真相だとしたら…
僕は携帯を取ると日和に電話をかける。しばらく経つと向こうで物に反射して聞こえるピッ、というおとが聞こえ、間もなく彼女が話しかけてきた。
「あれ、どうしたの?」
「ちょっと用があって…今あいてる?」
彼女は平然とうん。と答える。そして僕が集合の時間と場所を教えると何も知らない彼女は「じゃあねーー」とだけ呑気に言い、切った。今浮かべている彼女の笑みは、すぐに消えることになるだろう。
待ち合わせ10分前なのに2人とも集まる状況にあ互い笑い会う。でも、すぐにその笑いは消えた…一言で。
「お前って横山と付き合ってるんだってな。」
「あっ、バレちゃった?なんか言うの気まづくて言えなかったんだよねぇ〜。」
彼女の軽い言い方に腹を立てたが、電話をかけ、実際に会った本来の目的を思い出し、気を落ち着ける。
「それはいいとして、」
「いいんだ?」
本当に腹立たしい彼女の言葉に思わず舌打ちをしそうになってしまった。それでも、昨日までは天使とまで思えた彼女だ。今は急ぐ気持ちのせいで彼女にいら立ってしまうのだろう。
「お前、横山に貸しがあるだろ」
意を決して、唐突に言った。彼女は少し間を開けて、
「なんの話?」
と言った。言葉の裏側に怒りを持ってることを知りながら
「本当に?」
と聞き続ける。
「本当だよ。じゃあもし横山君に貸しがあるとしたら、それって何なの?」
「こないだ、オタクって言ってただろ?」
「あー言ったかもね。」
「それで脅してるんじゃないかな、って思って。」
「脅し!?」
しまった。つい言葉を滑らしてしまった。事件と関係ない方向に向けて話を聞き出そうと思ったのに…
「いや、違う…それは…。」
戸惑って言葉を濁す。
「彼女だもんね。そんなことないよね。ごめん、何でもない…」
「脅したよ。」
「え?」
いきなりの手の返しように頭がついて行かなかった。
「オタクの件もあるんだし、あんたが捕まった方が良かったのに、って言ったよ。それが脅しかどうかは分からないけど…」
「そんな…」
「でも、決めたのはあいつだよ。私は悪くない気がする。」
「でも、少しは事件に関わってるじゃん」
そう言うと彼女は黙る。しばらくの沈黙が続いて、僕が口を開く。
「本当の犯人を見つければいいんだよね。」
そう言ってカバンを持ち、
「松山のところに聞いてくる。」
「待って!松山たちは逃げたあなたを恨んでる。今行くのは危険だよ。」
「そこまで言うならお前が着いてこい。」
本当なら自分1人で行くつもりだった。ましてや幼馴染の女子を危険なところにわざと連れていくなどやってはいけないことだと思っていた。でも、今の彼女には優しさの微塵もなくて、危険にさらされてもいいと思ってしまった。
「でも…」
「いいから来い」
そして僕は手を取り強制的に歩かせる。それが暴力だろうと構わない。今気にするべきは事実だけ。
「自分で歩けるよ。」
彼女はそう言うと手を離し、歩く。
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僕たちが行った先は松山の家だった。松山の家は近所では有名で立派な豪邸で僕の家の4倍近くある。そして、誰でも入れる第一の門は開いて中に入った。
松山たちは大抵ここから右に行ったらつく、小さい庭の様なところにいると、聞いたことがある。
「行くよ」
「うん」
小さな掛け声とともに彼らのいると思われる庭に足を運んだ。
家の第2の門から続く塀の過度を曲がると案の定3人の子供がいた。恐る恐る着いてくる日和は、3人をみて震えていた。
「おい、お前らが今回の事件の犯人か?」
僕は緊張しながらハッキリと言った。でも、彼らはそれを見なかったように
「おお、自分から来るとは!」
と、僕ではなく日和に言った。
「日和は関係ないだろ!親友と引き換えに出たのは俺だ!」
僕の感情的な言葉とは裏腹に、3人は爆笑する。それを見た日和は後ずさった。
「どういうこと…?」
場にいる自分以外の4人の行動に戸惑いを隠せず、仕方なく松山に聞いた。
「お前…マジで知らないできたのぉ?それもこいつと一緒にぃ?」
笑いながら彼は言う。それと対照的に日和は今にも逃げ出しそうな様子で、静止していた。
「あのな…!いいこと教えてやるよぉ!」
松山はそう言うと、日和に指を指し
「犯人…こいつっ!!」
その瞬間3人の間に台風並みの笑いが生まれた。僕は全く理解出来ず沈黙した。
「でもっ私はこんなことになるなんて…」
日和はそう言うと、後ろを向いて走り出した。その様子をみた松山は、
「全部教えてやんよぉ。事件の真相!」
とうっすら笑いを浮かべて言った。
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プルルルルルルと響く音を鳴らしたのはダメ元だった。1日中探したがどこにも日和は見つからず、最後の希望だった電話を使うことにした。しかし、しばらくすると「ただいま電話にでることが出来ません」というアナウンスが流れた。それを聞いて、無理か、と思った瞬間携帯の向こうで音が聞こえた。
「ごめんね」
1番最初に言われた言葉がそれだった。
「あなたを犯人にしたい訳じゃなかったの。ただ、私が逃げたかっただけ。」
あまりにも都合の良すぎる言葉に返す言葉もなかった。
「横山君には迷惑かけるけど、私は自白するつもりは無いわ」
完全に善点を失くした彼女はもう既にただの殺人者だ。
「このまま何も言わないなら切るよ?何か言いたいんじゃないの?」
そう言われて口を開いた。
「じゃあ一つだけ。」
「何?」
携帯の向こうでゴクンッと喉を鳴らす音が聞こえる。
「これから学校で会えないかな。」
目的のわからない言葉に一瞬戸惑った彼女は
「そこで私を殺すの?」
と言う。
「いや、お前は殺さないよ。約束する。」
何も根拠も無い約束。それになんの信用性があるのだろう。
「約束よ。私は今から出るから丁度8時に着きそう。」
奇妙な程にすんなりと了解されることに不信感を覚えたが、今やるべき事は一つ。彼女に会いに行くことだった。
「分かった。ただしお前も殺すなよ。」
「分かったわ」
彼女が僕を殺す可能性は限りなく少なかった。なぜならこの間松山に見せてもらった、穴があき血のついた傘と、またもや血のついた手袋。それは彼女の計画的犯行に見えたが、実際のところ掃除中にナイフを刺されそうになった彼女がそばにあった傘を盾にして止め、逆に反動のまま彼女が刺してしまった、というところだった。これらはすべて彼女の口からこぼれた言葉だったそうだが、信用することは出来た。なぜなら刺された被害者はいつも包丁を持ち歩き、周囲には先生に言ったら殺す、と言っていた危ないヤツだったからだ。
そして、そのことをいち早く感づいた松山はすぐに日和に賭けをしたらしい。「お前の1番大事なやつを犯人に出す代わりにお前は罪を問われない。どうだ?」、と。その時僕が彼氏だと思っていた松山は僕の包丁を家から取り、まるで犯行に使われたかのようにした。実際僕の包丁でも被害者を同じように刺していて証拠は十分だった。
日和はもちろん横山が捕まると思っていたが、何故か僕が捕まり、納得のいかない彼女はそろそろ別れようと思っていた横山にオタクだということと、今までしてきた自分への発言などを提示して脅し、それだけじゃもちろん応じない横山に「殺すよ」と言って犯人にしたて上げた、という訳だ。
「他に何も無いよね?切るよ?」
という声に回想を中断し我に返る。
「待って、あと一つ。」
「何?」
「絶対許さないから」
電話越しではあるが声に全ての怒りを込めて言った。それに対して「知ってる」と返される。そして、電話は切られた。
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8時。僕は今彼女と3mほど離れて向かい合っている。学校の屋上。
「要件は何?殺さないんでしょ?」
「ああ。」
何もしない、何も出来ないこの状況。僕達を包む静寂は何も語りかけてはくれない。
「あのさ、そろそろなんか言って。来た意味無くなっちゃうから。」
「じゃあ言うよ。」
そう言ってから僕は息を吐き、続けた。
「引越しって本当だったの?」
全く事件に関係の無い言葉に納得いかない表情を浮かべながら
「何?最後に何か2人で思い出を振り返ろうって趣旨?」
「さあ…」
「嘘だよ。」
彼女の目になんの迷いもなかった。もう全てを捨ててもいい、そう思ってるのだろう。
「今日の朝までの態度は?」
「騙すための嘘に決まってるでしょ。」
「そうだよな。」
「ムカついてるでしょ」
「そりゃ、な。」
何の変哲もないやり取りに不思議と違和感を感じない。でも、心のそこで湧いてくる怒りに体が震えていた。
「あのさ…」
「何?」
「立ち止まって」
「止まってるけど?」
その瞬間僕は勢いよく彼女に抱きついた。それに伴って彼女はふらつきながら…それでも、立ち止まってという言葉を思い出しバランスを取り直す。
「急に何!?」
「さあ」
彼女はきっと嫌な顔をしているだろう。それでも僕は手を離さなかった。
…しばらくして彼女は僕の方を押し「止めて!」と言いながら離れていく。それを見てはあ、と溜息をつき、僕は後ろに下がって行った。
「本当に何がしたかったの!?」
「すぐに分かるさ。」
混乱した彼女を見て僕は後ろを見て歩き出した。
ここは3階建ての学校の屋上。本来ならフェンスが張られているはずだが僕の後ろだけは無かった。
後ろへと踏み出す足はだんだん早くなっていく。
「どういうこと!?」
君は分かってない。
「何で死のうとするの!?」
本当に分かってない。
「生きてよ!」
分かってないんだ。誰か一人でも嫌な思いになってしまったら、全員そうならなきゃいけない運命なんだ。
君は後で気づくよ。僕がどんな気持ちでここに立っているか。この行動がどれだけ偉大なことか。
全員嫌な目に会えば、それが…それが全ての始まりになるんだ。だから…
…僕が全てを終わらせる。そして、全てを始める…
その瞬間、全身を風が包み込む。全ての力が頭に集中する。少したったかと思うと頭に小さな痛みが走り、次の瞬間体が分裂するのを感じた。
感じない痛みに痛さを感じ、気がつくと薄暗い部屋の中にいた。部屋の中で1人きり…
ここは牢屋か…全て夢だったのか…
無感情の僕に薄暗い部屋の空気は語りかけてくる。
でも、違った。前に入ったことのある牢屋じゃなかった。前よりも明るくて…無限に続いている…
…これが全てが終わったあと。そしてすべての始まり。…この世界は小さい牢屋で、何かに縛られて生きている。嘘で作られた檻は…全てを仕切っている…
そんなもんだろう。世の中って。
自分の気持ちを主人公に重ねて書きました。まあ、最後は走り書きだけど許して笑笑