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何も知らない世界の君へ  作者: 瓜戸たつ
第一章 最後の日常
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第五話 冒険者








『あの人』の服が見つかる数時間前。















 ユニは早く『あの人』の話を聞こうと、いつも以上に朝ご飯を早く食べ終え、いつも以上に掃除を早く終わらせた。少し雑かもしれないが、彼の話と掃除を天秤に掛けた結果、欲望が勝ってしまったから仕方がない。

 母親が朝ご飯の片付けと昼ご飯の準備を同時進行している厨房の勝手口から外に出て、バケツの水を草叢に捨てた。捨てたというより、撒いたに近い。水がなくなったバケツと雑巾を手に物置へ急ぐ。

 宿屋から、少しだけ離れた物置。とにかく何でも置いておくから物置と呼んでいるだけで、そう広い建物ではない。物置の目立った色の扉を開けた時、つんとした洗剤の匂いが鼻を突き、ユニは顔をしかめた。物置を洗浄する為なのか、父親が友人からもらった消臭剤とかいう謎の物体を置いてから、この部屋の中は不思議な匂いが漂っている。


 あまり、好きじゃないんだよなあ、この匂い。


 ユニは息を止め、バケツと雑巾を扉のすぐ横に置いてすぐに物置から出た。早く、早くと気持ちが焦り、自然と『あの人』達が泊まる部屋へと向かう足が早くなる。

 外へ出た時と同じように勝手口から中に入って、朝アリゼと話した部屋の前で深呼吸をした。そして、今から向かう部屋にいる『あの人』について思い起こす。







——彼は名前を教えてくれない。正確には、呼ばせてもらえない。アルベルトさん、と呼ぶと無視をされた事から今は冒険者さんと呼ぶようにしている。そんな彼はその身一つで冒険者として活躍しており、商人の隊や王族のような位が高い人の護衛、悪さを働く盗賊や悪党の掃討、反逆者の撃退といった、とにかく何でもこなすような人だ。

 ユニはそんな彼に憧れて、何度も武勇伝を聞いた。今回の話は彼の話ではなく『醒石』についてだったから、正直とても驚いている。そしてまた「集団で行動するのは気が引けるし、誰かといるのは堅苦しい!」と何故かいつも誇らしげに言っていた『あの人』がマナシィという名の女性と話しているのも驚いたし、意外だった。




 ふう、ともう一度大きな深呼吸をし、 階段を上りかけたところでユニは思考を停止する。



「おっ、ユニトレイア?」



 野太い声が、上から降ってきた。ハッとして階上を見上げると、宿に泊まっている大勢の冒険者がちょうど下に降りてきているところだった。人数に驚きつつも


「皆さん、お揃いでどちらへ?」


と、尋ねる。


 金髪の男性が「何って、『醒石』探しだよ」、黒髪の男性が「それ以外、俺らが出掛ける事ァねえよ」、眼帯をした女性が「ええ、この村には石の探索に来たんですもの」と口々に答えた。

 冒険者達はけらけらと笑い声を上げながら、楽しげに会話を続ける。根も葉もない噂に、よくもまあこんなに人が集まるものだ、とユニは半分腹立ち、半分宿を使う事への有り難みを感じながら彼らの会話を黙って聞く。



「本当にな。……それじゃあ、ユニトレイア。俺らは『醒石』探しに行ってくるわ」




 会話に一段落がついたのだろう。そう言って冒険者達は受付の主人に一言声を掛けて、大勢で外へ出て行った。





 彼らが出て行った事で静まり返る家。そこで「ユニ、お前はもう休んでいいぞ。掃除が早く終わったんだろう?」と、宿屋の主人が言った。



「え、マジで」


「良いぞ、もう休憩で。その代わり、お前が言う『あの人』は……」


「分かってるって、話は間に受けんなって事だろ?」


「違う」


「はあ?」



 二度同じ事を言われないようにと気を付けたのに、主人が即答して違う、と言い切った事にユニは素っ頓狂な声を上げた。



「あの冒険者は出掛けたぞ。お前が片付けしてる時に」


「……マジで?」



 ユニはあからさまに肩を落とした。現実とは厳しいものであるという言葉を改めて咀嚼する。



「ふーん、そうか。じゃあ良いや、俺はマナシィさんに話を聞きに行こうっと」



 『あの人』と一緒に行動するような女性だ。彼女も相当の実力者だと見てとれる。父親の反応を気にしないまま、ユニは上りかけていた足を動かした。



短いです、すみません…。

次の話は長くなる予定です。

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