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何も知らない世界の君へ  作者: 瓜戸たつ
第一章 最後の日常
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プロローグ これは誰かの話

 


 ()は暗闇を走る。




 前や後ろはもちろん、上も下も見えない暗闇を、真っ直ぐに、何かを信じて()は走る。




ああ、()は貴方に会いたい。


会って、多くの事を話したい。



 そんな思いを胸に、走り始めてからずっと、絶望の光だけが照らしている、目の前の暗闇へ向かう。



 今まで多くの光に辿り着いた。しかし、全て暗闇に飲み込まれるのを、この目で見ている。もうこの暗闇からは光を見つけられないかもしれない。それ以前に、この暗闇を抜け出せないかもしれない。



 弾んだ息、上がらない足、腕を振っても振っても、前に進まないという思い込み、そして徐々に重みが増す身体。それらが合わさって、苦しさに目元からは涙が溢れ、後方へと流される。




 貴方は彼に会えても、絶対に救えないよと誰かに言われたっけ。


 それでも救うと答えたのは、何度も何度も繰り返すなかでも、彼だけは()を見つけ、救い出してくれたから。


 今度は()の番である。

 もし、貴方が救えなかったら……




 はっと嫌な思考をしていたと気づき、頭を空にする為に(かぶり)を振った。その時、とうとう()の限界だった足がもつれ、前のめりに転ぶ。

 小さな声を上げてしまった。

 素早く上半身を起こしても、下半身に力が入らない。小刻みに痙攣して動かない。悔しさをぶつける様に震える足を叩いて、()は叫んだ。



 何度やっても、無駄だと言うなら。

 ()の命と引き換えに、彼の命だけは救ってみせる。



 壁や山はないはずなのに、その叫びはこだました。跳ね返るだけで、当たり前ではあるが、誰からの返事や反応はない。


 ()は自分の、おそらく下であろう暗闇に目線を落とす。肩で息をしながら、拳を握りしめ、後ろへと流れていた涙が遂に頬を伝った。



 悔しい、悔しい……



 ()は目を瞑る。もうこれ以上は駄目だ、無理だ。

 きっと、自分も助かろうと思うからいけないのだ。神は、欲張りを求めない。


 自分の掌を絡ませ、天を仰いだ。




 貴方が救えれば良い、幸せになってくれれば良い。


 貴方に会えなくても良いから。




 突如として、閉じた瞼からも分かるような光が輝き始めた。来た、と緊張で胸が高鳴る。


 次は彼を救おう、()はどうなっても良い。


 目を開け、その光の中を見た途端、驚きで息を飲んだ。その光には、望み続けている自分と彼の姿、そして見た事のない世界が映っている。

 暫く見つめて、()はやっと理解した。









――ああ、そういう事か。







 神様は、本当に残酷だね。



 よろけつつ立ち上がり、精一杯手を伸ばした。身体が光に包まれ、目の前もその光で覆われる。

 きっと、彼はこの努力には気付かないし、知る由もない。存在を感じる事もないに決まっている。


 だって、()は、たった一人しかいないのだから。

 だから、届かないと分かっていても、今の()から溢れる想いを届けたい。







 願わくば、彼に幸せを。

――何も知らない彼らに、幸せを。



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