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いつまでもいっしょ



フッと思いついて適当に書いた短編です。


どうぞお手柔らかにお願い致します。




「わー! ママ、ママ! キレイな海が見えてきたよー!」


「あら、翠はこういう景色を見るのは初めて?」


「うん、初めて! 海で泳ぐの楽しみ! いっぱいいっぱい泳ぎたーい!」


「そうね、後でいっぱい泳げるから楽しみにしててね?」



休日の昼下がり、私は翠を連れて車で観光地で有名な海岸沿いを走っていた。天気も快晴で、海水浴をするにはもってこい日和。助手席に座る翠は車の窓から外を覗いてニコニコしている。



「あーあ、パパも一緒だったらもっと楽しかったのになー?」


「しょうがないでしょ? パパだってお仕事が忙しくて大変なの、そんなワガママを言っちゃダメよ?」



昭雄さんは現在海外に出張中。一流企業に就職し、着々と出世のエリートコースを歩んでいるので仕方の無い事。むしろ、愛する人が海外で働いているなんて私からすれば自慢の一つでもある。



「ママもこの前の絵里おばちゃんと同じ事言ってるー、ママはパパがいなくて寂しくないの?」


「それはママだって寂しいわよ? でも、パパは一生懸命お仕事頑張っているんだから、ね?」


「これも絵里おばちゃんと一緒だよー? ママとおばちゃん、本当に仲良しなんだね!」


「そうね、私達はいつでも一緒だったわ、翠もママと一緒だと嬉しいでしょ?」


「うん! ママだーい好き! ママがいればパパがいなくても寂しくないよー!」



私には双子の姉がいる。『真理』と『絵里』と名付けられた私達は見た目も声も背格好も全て瓜二つの姉妹で、実の両親でさえもたまに私達を見間違えてしまうほどだった。

私達はいつも一緒だった。家でも学校でも常に二人で寄り添って行動していた。勉強する時も、遊ぶ時も、寝る時だっていつも一緒。好きな食べ物も可愛いと思う服もみんな一緒だった。



「ママいいなー、あたしも双子に産まれてきたかったなー!」


「そう? でもね、双子って結構大変なのよ? 一人っ子の翠にはわからないと思うけど、困っちゃう事がたくさんあるんだから」



『近所一のそっくり仲良し姉妹』と言われた私達は、進学した高校や大学も同じ学校を選んだ。でも、実際には私よりも若干姉の方が学力に優れており、私は必死になって姉に追いつこうと努力した。

大学に進学した頃から次第に私と姉の差は学力だけでなく私生活にも違いが現れ始め、異性に対して少し奥手だった私はいつもお洒落で社交的な姉の後ろに隠れていた。その姿を見て、周りの人間達には『背後霊』なんて言われてしまった事もあった。


そんな時、私達は合コンで当時まだ学生だった昭雄さんに出会った。ハンサムで高学歴、そして女性をいたわる優しさを見て私は彼に一目惚れした。初めての恋だった。



「ねぇ真理、私どうしても自信が持てないの、こんな地味な私にあの人が振り向いてくれるなんて……」


「そんな情けない事を言ってちゃダメよ絵里! あなただって本当はとても魅力のある女の子なんだから、自信持って告白しちゃいなさい! 私がついてるわ、私達はいつまでも一緒よ!」



姉の励ましに推されて、私はありったけの勇気を振り絞り昭雄さんに自分の気持ちを伝えた。すると、昭雄さんは私の告白を心から受け止めてくれた。こんな私を恋人として迎え入れてくれたのだ。

地味だった私の人生は一気にバラ色に変わった。昭雄さんは私をとても大切に思ってくれて、毎日の様にデートを重ね、二人海外に旅行に行ったりもした。将来の約束もその時交わしたのだ。



「でも、絵里おばちゃんはいつになったら結婚するのかなー? おばちゃんもママに似て綺麗な人なのにー?」


「……そうね……」



姉はそんな私達を常に影から支えてくれた。喧嘩をして私が落ち込んでいる時も優しく励ましてくれて、代わりに昭雄さんに対して怒ってくれたりした。友達のみんなと一緒にいる時も、私と昭雄さんが仲良くしているのをニコニコしながら見守ってくれていた。私は姉に感謝した。姉と双子として産まれてこれた事を心から幸せに思った……。



「ねーママ、どんどん海水浴場から離れていくよー? どこまで走っていくのー?」


「……人がいない、もっと空いている所よ……」



だから、許せなかった。姉が私を利用して、裏で着実に昭雄さんと交際を重ねていたなんて、信じられなかったし信じたくなかった。昭雄さんから言われるまで、そんな事夢にも思わなかった……。



「絵里、ごめん、実は俺、真理さんと……」



私が昭雄さんと交際を始めた直後から、姉は私に隠れて昭雄さんと会っていた。内気でつまらない私より明るくて一緒にいると楽しい姉を選んだ昭雄さんは表向きでは私が恋人の振りをして、本当は姉と共に人生を歩んでいく事を選択したのだ。

それでも私は愛する彼の事を憎む事が出来なかった。嫌いになる事が出来なかった。私のやり切れない苦しい思いは、悔し涙を流す私を無視する様に幸せな挙式を挙げ子供にも恵まれた姉への恨みに変わっていった。



「返して! 私の幸せを返して!!」



だから、私は『真理』を殺してこの海岸の海の底に沈めた。姉さえこの世からいなくなってくれれば、きっとあの人は再び『絵里』の元へと帰ってきてくれるはずだ。今度こそ、私はあの時二人で交わした約束通り昭雄さんと一緒に幸せな家庭を築いていけるんだ……。



「ねーママ! まだ走るの? 一体どこまで連れて行ってくれるの!?」



その為には、まだ消さなきゃいけない邪魔者が一人いる。



「あなたの大好きなママの所よ、いつまでも一緒にしてあげる」



ー完ー

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