~31歳から始まる別れ~
「イワサさん!イワサさん!」
医者がユージの体を上下に揺らし起こした。
「なんだようるせえなあ」ユージは目をこすりながら医者のほうを見る。
「落ち着いて聞いてください昨夜、時間帯は不明ですがイワサさんのお母様がお亡くなりになりました」
「.....」
ユージは言葉が出なかった。少し経ち思い出したかのように涙がこぼれてきた。
「今は一人にしてください」と言うと、では30分後また来ますと医者は病室を後にした。
ユージは声にならない声で咽び泣いた。
無理もないユージの父親は早くに亡くなり母親が女手一つで自分を育ててくれた唯一の存在なのだから。
30分後失礼するよと医者が入ってきた。
「落ち着いたかい?」
ユージは生気のない声でまぁと答えた。
「母に一度合わせてください」ユージはどうしても最後に母を見ておきたかった。
しかし、
「合わないほうがいいと思うよ」と医者は言った。
「なんでですか!!」ユージは興奮気味に説いた。
「君の母親は.....」医者は言うのを戸惑っていた。
ユージは立ち上がり興奮気味に「もういい!!霊安室に行けばいるんだろ!!」と病室を走って出て行ってしまった。
勢いよく出て行ってしまったが、霊安室の場所をよくわからなかったので受付の看護師さんに聞いた。
場所は地下にあった。
「ここか」ギィィと音を立てながら開けた扉の先には複数の棺桶が置いてあった。
「気味がわりぃな、当然か遺体だもんな」ユージは棺桶の名札を確認していった。
【イワサ コハル】「これか」ユージは棺桶を開けようとした瞬間。
大きな音を立て霊安室の扉が閉まった。
「困るよユージ君勝手に研究所にはいられちゃあ」薄ら笑いを浮かべた医者が近づいてきた。
「研究所...だと」ユージは冷や汗を垂らしながら確認をした。
医者はコツコツと棺桶の周りを歩きながら「そう、全てはあの方のための研究所ってわけだよ。
ところでこの棺桶の中身を知りたくはないかい?」狂った笑いを浮かべている医者におびえながらも
「......」頭の中が混乱していてなにも答えられなかった。
その応答に対し高笑いしながら「答えはこれだよ」と棺桶を次々開けはじめた。
中にはスパルトイサージェントやスカルビースト。中にはエルダースパルトイソルジャーもいた。
「なんだよこれ...」ユージは膝から崩れ落ちてしまった。そして恐ろしいことを考えてしまっていた。
もしも、棺桶の中の母親がこうなっていたらと。
「開けないのかい?君が会いたがっていた母親がそこにいるよ」と医者は言った。
ユージは開けられなかった。開けたくなかった。母親があのような奇妙な生命体になっているかもしれないという恐怖が彼にまとわりついているからだ。
「開けないのなら私が開けてやろう」医者は近づいて棺桶の蓋を投げ飛ばした。
そこには元の姿のままの母親がいた。
ユージは安堵していた。『よかった』とホッとした瞬間、医者は母親の頭を掴み一言「まだだったか」と言い放ち呪文を唱え始めた。
「ㇱ ン ィ ニ ト マ ㇱ コ ダ ス」
「やめろぉ!」ユージ歯医者に体当たりをしたがビクともしない。
「邪魔だ!」と医者に一蹴されてしまったユージは無力にも母親がマイニュに変えられてしまうのを見ていることしかできなかったのだった。