ジャージの袖
高校生活と違って東京での大学生活は楽しかった
一人暮らしも性にあったし、バイトで得たお金で好きなものを買えるのも快感だった
高校生活が今までの人生での底だったなと思う
大学のテニスサークルで知り合った男の子ともちょっとだけ付き合った
恋人じゃなくて友達として
新歓の席の帰り道たまたま隣に並んだで歩いて話をした男の子
本当にご飯一緒に食べに行ったり遊園地行ったりするだけの仲
優斗は優しい人
少し頼りなかったけど当時人気のあった俳優に少し似てた
何人かの女子には羨ましがられた
確かに優斗と出かけるのは女友達と遊ぶのとはちょっと気分が違ったな
でも彼、二年の途中で大学辞めちゃったんだよね
なんか他の大学に入り直したいとか言って
彼が大学を辞めるときに、別れようって言われた
別れるもなにも、もともとただの友達なのに
けど、きっとうやむやに疎遠になっていくんだろうと思っていたから、はっきりと面と向かって別れを告げた優斗をちょっと見直した
最後の最後で
草食系の優斗にとっては私はちゃんと彼女だったのかもしれない
今私は地元で働いている
地方の総合商社のグループ会社で住宅のリフォームを請け負っている会社に就職したから
就活の時役立ったのはマーチの次に位置する大学名じゃなくって、やっぱり地元の進学校、S高卒だったんじゃないかなと個人的には思う
入社三年目で私は一人で担当を任されるようになった
顧客が個人なものだからすごく大変
意思の疎通がままならぬ老人なんかもいる
全くリフォームとは関係のない話をひとしきり聞いてからではないと商談に移れなかったりする
私は仕事の忙しさに岬のことはすっかり忘れていた
と、言いたいところだれけど…
岬への気持は消えなかった
ずっと、ずっと
忘れたこともない
最後に会ったのは成人式の時
中学別に懇親会があってその席で
安藤雅も来ていた
やっぱり抜きん出て可愛らしかった
振り袖姿が
大学行かず、お菓子工場で生産ラインに着いているって聞いて、みんなで
「もったいない、東京に出てモデルとかすればいいのに」
「あの性格じゃあ無理か」
なんて話をした
成人式のときは大勢でわいわいして、岬とは一言二言、言葉を交わしただけだった
高校生の時、マックでせっかく岬が嘘までついて私に諦めさせようとしてくれたのに
私の岬への想いは枯れなかった
それが枯れていたら私は優斗とちゃんと恋人になれていた
多分
はあ、このままだと一生独身だよきっと
岬にしがみついたまま人生が終わるのかなあと思いながら、リフォームの見積もりをクライアントに届けて、自動車を置いたコインパーキングに向かって大通りを歩いていたら…
あっ岬!
岬が自転車で目の前を通った
「岬!!」
大声で叫んだものだから道行く人が全員私を見た
岬もびっくりして振り返えり
「ひゃー、星野がスーツ着てる」と言った
岬は地元の大学を出て中学の教師をしている、とは知人に聞いていたけど…
ジャージ着てる
学校の帰りかな
「岬、教師になったんだってね」
「学校の帰り?」
「お、お茶しようお茶!」
無意識に私は岬のジャージの袖を引っ張っていた
岬が逃げないように