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予感と現在(アイヒェンドルフ作) におけるエルヴィンの存在の倒置性Inversion of feeling and Erwin's existence in present 試論

作者: 舜風人

この小説


「予感と現在」(アーヌンク・ウント・ゲーゲンバルト)


における登場人物に私が妙に忘れられない人物として男装の美少女「エルヴィン」がいます。


さて、エルヴィンとは?一言で言ってしまえば、まさに


ゲーテの「ウイルヘルムマイステルの修業時代」のミニヨンなのであるが、


がしかし、もちろんエルヴィンは、ミニヨンではないというもの事実であろう。


そもそも、この「予感と現在」という小説自体が「ウイルヘルムマイステル」へのオマージュであり、

言ってしまえば、焼き直しなのだからミニヨンと同じような謎の美少女が登場しても。しょうがない?のである。まあとはいえ、

そこはアイヒェンドルフらしい、色付けというか味付けは当然なされているので、

単なるものまね?ではないですけどね。


いかにもアイヒェンドルフらしい、森と月夜と吟遊の抒情に満ちた作品です。


その前に

というわけで、

ここで少しだけ「ウイルヘルムマイステル」から「ミニヨン」をおさらいしておく。


ミニヨンとは巡業の旅芸人一座でこき使われている少女で、元は捨て子なのである。

というか実は幼いころにさらわれた少女なのだが、、

こうして今は旅芸人一座で端役をしたり下働きをさせられているという少女、

ある日それを見かねたウイルヘルムが金を座長に渡してこの少女を解放する。

しかし行き場のないミニヨンはそれからウイルヘルムを「お父さん」と慕って

ついてゆくことになる。という薄幸の美少女。

少女らしい初恋への目覚めや揺れる思春期の少女像が青いレモンのようにまぶしい少女。

ミニヨンはかすかな記憶で生地のイタリアへの憧憬を語りまた自分の心を語る。


ミニヨンは言う

「あこがれ知る人だけが、私の心を理解できるのです」と。

「レモンの実がたわわに実るあの国へ愛するあの人とともに行きたいなあ」

そんな憧れを歌うのだ。


さて寒いドイツで旅芸人とさすらうミニヨンは

実はイタリアの、さる侯爵の娘で幼い時にさらわれたということがわかるのだが

その時にはミニヨンは病気で余命幾ばくもなく、

死んでしまうのである。

というまさに薄幸の少女。

ミニヨンの考察も興味深いのだが、、、


今回は、ひとまず、おいといて、それに触発されて書かれた

「予感と現在」のエルヴィンをより深く考察してみたいと思うのである。


青年貴族のフリードリヒ伯爵を主人公にした遍歴・成長小説 (ビルドンクス・ロマン)が「予感と現在」なのであるが

そこで様々な登場人物にもまれて?精神的な成長を遂げるというのが主筋である、

そこには現実的な人物がほとんどなのだがそれでは深みがないというか平板なので

ゲーテがミニヨンを登場させて神秘さと人生の不条理性を加味したように

アイヒェンドルフも「エルヴィン」という謎に満ちた少年(男装の美少女)を登場させて人生の深淵を垣間見させてくれたのであろう。


さてエルヴィンとは、、、、あるもめごとのために、フリードリヒ伯爵が水車小屋で決闘したときに傷を受けて意識を失い倒れて目覚めるとそこにいた少年だった。

少年が語るところによると、血だらけで倒れていた伯爵を見つけて介抱してるとそこへ、女性ローザが乗った馬車が通りかかり女性が、その馬車でこのレオンティンの城まで運んできてくれたのだと。


エルヴィンと名乗るこの美少年は、この時点ではまだ女だとは誰もわかってはいないのだが、、。

この城はレオンティンとローザという兄妹のお城なのだが、


ところでフリードリヒがエルヴィンの素性を尋ねると「僕は孤児で、仕事を探して渡り歩いてるんです」という。

「じゃあ僕の従者になるかい?」というと少年は「喜んで」と答える。

それからというものエルヴィンは彼のお供をすることになるのだがこの少年は決して室内で寝ないという習慣を持っている。ギターの名手でもある。

こうしてフリードリヒはレオンティンという友人を得てまたエルヴィンという従者も得て

これからますます人生の遍歴へと進んでゆくことになるわけである。


ただ、、その遍歴のあらすじを追うだけでも相当、複雑・錯綜していて難儀なのでここではただエルヴィンだけについて筋を追ってみたい。


ある夜、外でエルヴィンの歌う声がする、それを聞くとフリードリヒはふと強い郷愁に駆られて、どこかで聞いたことがあるような感覚にとらわれる。

エルヴィンが、ふと見せる表情には、何か重大な秘密を隠していおるのではないかという疑問が沸き起こるのだった。

(この時点ではまだエルヴィンが女だとは誰も知らないのですよ)


フリードリヒ伯爵はやがて都会へとたどり着きそこで過ごすことになる。

ある日のこと、伯爵が帰ってみるとエルヴィンがソファで寝ていてそのそばには書きかけの手紙が、

そっと手に取ってみるとそこには謎めいたポエムがしたためられていた。


「絶え間なく流れる雲よ、おまえは僕をどこにつれてゆくの?僕はいつも一人ボッチで、ずっと昔

遊んでた女の子ももうどこにもいない、それ以来、僕の心を理解してくれる人は誰もいない」


フリードリヒはそっとそれを元に戻した。


やがてエルヴィンは目を覚ます。

「いったいどうしたんだい?」するとエルヴィンは目を輝かせて

「町を捨てて人々から離れて深い森のかなたまで行きましょう。」

大きな森の奥には清冽な小川や

不思議な死者の住んでる尖塔や、その他、、、、、

少年は取りつかれたように早口で語るのだった。


それはまさにフリードリヒの少年時代の模糊とした思い出そのものだった。

感極まって少年を抱きしめると少年は激しく接吻を返すのだった。

そのキスの味は、奇妙な魅惑があったことを感じるのだった。


そのころからエルヴィンは病気がちになりふさぎ込むことが多くなった、

確かに自然児のエルヴィンにとっては大都会での暮らしはその喧騒の中では病むしかなかったのだろう。

フリードリヒ伯爵はエルヴィンの幼少期について聞いてみるのだが


エルヴィンは「それを誰かに知られたら僕は死ぬしかない」と言って頑として話さないのだ。

エルヴィンの様子はますます悪くなり伯爵はとうとう医者を呼んだのだ。

しかし医者がエルヴィンの部屋に入るとエルヴィンはぶるぶる体をふるわせて一切、体を触れさせなかった。


そうしたある日レオンティンが誘いに来た「遠い山の町へ行こう」と。

皆は馬車に乗って旅立つのだった、途端にエルヴィンは生き生きとして山の街にたどり着くころにはすっかり元気を取り戻していた。


ある日漁師たちと船下りをした。すると嵐が来て雷鳴が、船を岸につけるとそこには見知らぬ漁師が、それを見るとエルヴィンは大きな叫び声をあげて船からざんぶと川に飛び込み向こう岸へと消えていった。

レオンティンとフリードリヒは慌てて捜した、岩のうえ、谷の向こう、しかしエルヴィンの姿はどこにもなかった。


そうして、エルヴィンはもう戻ることはなかった。


それからいろいろなことがあり、フリードリヒは知りあった、ユーリエという女性と、山の水車小屋へ行く、

ユーリエは疲れて眠り、、。

するとなんとそこはずっと昔のあの決闘で気を失ったそばの水車小屋だったのだ。

そのとき外でツイターを奏でる音が、、。

それは確かに子供のころどこかで聞いた音色だった。。

外へ出ると、森のなかにはエルヴィンがいた。

フリードリヒに気が付くと、叫び声をあげてエルヴィンは倒れた、

フリードリヒが駆け寄るとエルヴィンの発作はますますひどくなり息も絶え絶えだった。


「僕が懐かしい歌を歌ったのにあなたは何も覚えていなかった、僕はいつもあなたを見つめていた、

僕はあなたが大好きだったのに、今はまた病気になってしまって、僕の秘密は森の奥のあの、おとこが知ってます。ああ、僕の大好きな人、、」


そういうとエルヴィンの息は途絶えた、

伯爵は急いでエルヴィンの締め付けている胸着を開いた、と、

開かれた胸には、美しい二つの乳房が盛り上がっていた。

フリードリヒは驚き、そうして立ちすくむのだった。

エルヴィンは、うら若い女性だったのだ。


目覚めたユーリエも駆けつけてきていた。

介抱の甲斐もなく

しかしエルヴィンは二度と目を醒ますことはなかった。


ユーリエがふと、気が付くとエルヴィンの肌につけた、メダルがあった


それは8歳くらいの少女像のロケットだった。


それを見るとフリードリヒは、はっと気が付いた。


それは子供のころ、一緒に遊んだアンジェリーナという少女に間違いがなかったからである。


ユーリエはエルヴィンの亡骸を馬車に積んで城へ向かい、、、


伯爵はエルヴィンが言っていた秘密を知るという森の男のもとへと向かうのだった。


そうして森をたどるとやがて妙に懐かしい風景の場所にたどり着く。


なんとそこはフリードリヒの生まれた故郷の廃城だったのだ。


そこでフリードリヒはなんと行き別れだった兄のルドルフと再会、

そうして兄は例のメダルを見てこう話し始めるのだった。


「これはアンジェリーナだね。アンジェリーナはイタリアからドイツへ避難してきた娘で僕たちの城に滞在してたのさ、ほら、三人で仲よく遊んだじゃないか。


可愛い娘で、僕は一目で好きになったんだが、ある日ジプシー女が来てこう占ったんだよ、

「あなたとこの娘が一緒にいたら必ずどちらかが殺すことになるでしょう」、と。、


それからアンジェリーナはイタリアに帰って行ったんだけど

僕はその後

放浪の旅に出てあちこちさまよい、

イタリアへ、そこで偶然アンジェリーナと再会、

二人は駆け落ちしたのさ、そうして生まれたのが「エルヴィーネ(エルヴィン)だったのさ、」


「え?じゃあ。エルヴィンは兄さんの娘だったのか」


「でもそれからいろいろあって、ある日アンジェリーナはエルヴィーネを連れて家出して行方不明に。」


そうして何年もしてある仮面舞踏会で、アンジェリーナに再会。

そこでルドルフは忌まわしい男と決闘になり、、思わずぶすりと刺し殺してしまう。

そしてルドルフはその場を一目散に逃げさり、その後、放浪を苦悩のうちに、続けたのだった、アンジェリーナがその後どうなったのか知らない。」


そこでルドルフの話は終わった。


「じゃあ一体アンジェリーナは、そして、エルヴィンはその後どうしたんだろう?」


フリードリヒは深いものもいにふけるのだった。


と、、


これが


エルヴィンの秘密だったのですね。



こうしてフリードリヒ伯爵は深く人生と世界に考えを広げこれからの人生を模索するのだった。


レオンティン夫妻の出した結論は、新大陸アメリカへの移住であった。

レオンティンの船は出港して水平線に消えていった。



ルドルフの出した結論は「俺の心の闇は深いんだ、俺は神秘の国エジプトへでも行くよ、」

そういうと彼は大股で森の奥へ消えていった、そうして二度と姿を現すことはなかった。


詩人のファーバーは「私は彩り豊かな人生というもの味わい尽くすのです」と言って

ブドウ畑を超えて旅立ってゆくのだった。



そしてフリードリヒ伯爵はかねてより入りたいと依頼してあった修道院の庭に平静な気持ちで入ってゆくのであった、


さて、こうしてかれらはそれぞれの人生に踏み出してゆくのですが


これがアイヒェンドルフのその時代での決断でもあったのでしょうね?



いずれにしてもこうした小説の結構からあらすじ配役?までもが


ゲーテの「ウイルヘルムマイスター」へのオマージュ、

というか二次創作?であることは明瞭ですが


そこには


しかしながら


アイヒェンドルフなりの


考えや人生観も当然盛り込まれていて、また


ゲーテとは一味違った


ビルドンクスロマン(教養小説)となっていて


汲めど尽きせぬ


面白さにみちているといえるでしょうね。


いかにもロマン派の作者の、時として稚拙さも魅力となっているような、


若書きが


にじみ出たような


青春小説でもあるのですね。






























㊟あくまでも私の「記憶」のみに基づく論述であり、したがって、学問的な正確性は保証・担保できません。

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