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私がこの国に来たのは三ヶ月前。王様の即位を祝っての大舞踏会が開かれた。
近隣諸国から集まった自薦他薦の姫君たちは、この時初めて全員が玉座にいる王様にお目通りしたのだ。もちろん私も大舞踏会に参加した。
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私は珍しい縁起モノという立場なので特別枠的な扱いだ。
目通りの直前まで別室にて待機、そして目通りの際はベールを被らされ、衆目の中、舞踏会場の真ん中まで引っ張り出された。
ここまで特別扱いされて嬉しい?って?
ま・さ・か!
この世界の人たちは黒以外のいろいろな髪や瞳の色をしていて、顔立ちは彫が深くて長身。地球でいうならヨーロッパ系ってかんじかな。だから各国から自信満々できた姫君たちは、抜群のプロポーションと美しさを持つハリ○ッド女優やらスーパーモデルみたい人たちばかりなのだ。
そんな姫君たちを差し置いての特別枠だよ?
もう正直、消えたかったね。消えてしまいたかったね。
有無を言わさず、侍女さんに手を取られて舞踏会場に連れて行かれ、玉座に向かって片膝をつき礼の姿勢をとる。そして、その場の全員が注目する中、いよいよベールが取られた。
シーーー……………………………ン
折れた、心がボッキリ折れた。
王様が玉座からおりて近づいてくる。
見つめる先の、初めて見る王様も男性でありながら目を見張る美しさ。
その時点で私は全身が小刻みに震え、片膝をつく礼の姿勢をとっていることも出来ず、あまりの居たたまれなさに座りこんで下を向いてしまった。
王様は何も言わずに私の横を通り過ぎると、集まった姫君たちに労いの言葉をかけ舞踏会が始まる。
会場に音楽とざわつきが戻る。
私は侍女さんに抱え起こされ、舞踏会場の一角に作られたひな壇のようなところに座らされるとまたベールを被せられた。
舞踏会の間、誰かが私に話しかけてくることはない。むしろ、程よい距離をとって、何やらヒソヒソと会話し合いこちらをチラチラと見てそれ以上近づいてこない。
しばらくして落ち着いてくると、ベールの中から会場を見回す余裕がでてきた。
男女ともに足元まで隠れる長い衣装の正装でさざめき合っている。
男性は着物のように襟を合わせた長袖の衣装だが、胸元をゆったりと大きく寛げ大ぶりの装飾品を幾つも首から掛けている。帯も色や模様が様々だ。身分や財力によって意味があるのかも知れない。
女性は胸元と背中が大胆にあいたイブニングドレスのような衣装だ。みな凝った装飾で胸元や耳、手首を飾っている。
私もお世話になった国の王様からもらったそのようなドレスを着ているが、中身が私なので姫君たちと比べ完成度が全く違った。
五百人ほどはいそうな会場のそこここでは、みんなおしゃべりや食事、ダンスを楽しんでいる。
王様も姫君たちに囲まれて楽しげに会話している。
その様子を遠くから眺める。
少し気持ちが落ち着いてきた。
「はぁ~怖かったぁ~」
同じ女性……いや、同じ人間とは思えないほどのスタイルと美しさの女性たちの前で、満を持して紹介される怖さ。
あの静寂はここの全ての人たちの落胆だろう。
黒いだけの小さな娘―――――
あー泣けてきた。
こんなデッドスペースみたいな場所のひな壇にお飾りか……
まあ、あの場に放り出されても激しく困るんだけど。王様と談笑しているハリ○ッド女優やスーパーモデルさんたちを押しのけて王様に話しかける勇気ありますか?
ない!絶対ないっ!
***
大舞踏会後すぐにこの後宮の邸宅に入れられた。
あの日以来王様の顔は一度も見ていなかった。
この邸宅は、動物園で言うところのパンダ舎かコアラ舎みたいなもんだ。
私の場合、「こんなのでも『瑞兆』だ。一応珍獣だから特別舎にでも入れとけ。縁起モンだから死なすんじゃねーぞ!」てな感じだろう。普段の過保護もそういうことだ。
私はここで生きていればいいだけの存在なのだろう。