表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約破棄モノ

全ては『聖女様の為』ですよ

作者:

ふと思いついたのをダーッと勢いだけで書いちゃいました

ある日、父親から『聖女召喚』を近々行うという話を聞いた。


わが国では数百年に一度、異世界から『聖女』なる少女を召喚する。

それは歴史書にもしっかりと記されている。

異世界から召喚とは異世界から誘拐してくることではないのか?と昔、家庭教師の先生に質問して困らせた事がある。

だが、先生は私の質問を曖昧にせず、いろいろと調べてくれた。

異世界から召喚されてくる少女……わが国では『聖女』と呼ばれる者は天涯孤独で元の世界に身内や親しい人たちがいない者がこちらの世界に呼ばれるとのこと。

『聖女』はわが国で神の力を借り、人では解決困難な天災などの問題を解決し、そのまま我が国に根を下ろすという。

元の世界に帰った『聖女』は歴史書が記す限り一人もいない。


そして、『聖女』は王族又は上位貴族に嫁いでいる。

平民に嫁いだ『聖女』は1人もいない。

どの『聖女』もその当時、優秀だと言われていた者達の間で熾烈な争奪戦の末に最も好いていた相手に嫁いでいた。

……なら最初から一番好きな人の所に嫁ぎなさいよと歴史書を読みながら突っこんだら先生に苦笑されてしまった。


『聖女』に関する歴史書を読むたびに『少女漫画や乙女ゲーみたいだな』と思っていたが、『少女漫画』『乙女ゲー』というものがなんだかはよくわかっていない。

ただ『一人の少女を複数の男性が愛でるモノ』といった漠然としたイメージと共にその単語が浮かんでくるだけだった。

先生にそれとなく質問してみたが先生も『わからない』と首を傾げていた。


さて、話を戻そう。

父親から『聖女召喚』の話を聞いた瞬間、ストンとあっさりと幼い頃から感じていた違和感が解消された。

先ほどの『少女漫画』『乙女ゲー』の意味もすんなりと理解した。

そして知りたくもない情報も得た。

まさか、自分が……と思いたくもないが、様々な事が『事実』だと知らしめる。

ならば、私がとる行動はただ一つ。



「お父様、『聖女召喚』が行われるのでしたら、私と殿下との婚約は一度白紙に戻した方が良いと思います」

興奮気味に『聖女召喚』の話をしていた父が急に黙った。

「アリス?突然どうしたの?」

黙り込んだ父を横目に母は紅茶が入ったティーカップを持ち上げる。

「過去、『聖女』様の9割が王族……王太子様に嫁いでおります。『聖女』様は15~18歳頃の少女ということですので、現在王族で『聖女』様と年齢的に会うのは第一王子のみ。もし、私と婚約を結んだままでは殿下と『聖女』様の婚姻の妨げになってしまいます」

母の眼を見てはっきりと告げると母はにっこりと笑みを浮かべると

「わかりました。それとなく陛下様に進言しておきましょう」

笑みを浮かべつつも、その瞳には『絶対に婚約は白紙に戻して見せましょう』という母の気持ちがありありと見えました。

もともと、私と第一王子の婚約は我が家が筆頭侯爵家で殿下と年が近いからというただそれだけの理由。

互いに想いを寄せているわけではありません。

一応婚約を結んだ時は、殿下に恥をかかせない為にと頑張りましたわ。

逆効果でしたけど……

殿下の私を虫けらのように見る視線に耐えられなくなり、母に泣きついたら『無理に会わなくていいのよ。アリスの努力は陛下も王妃様も重鎮達もご存じだから……あとは陛下たちが殿下を教育し直すだけです』といい、妃修行という名目の週一で王城に伺候することはなくなりました。

後日『ごめんね、アリス。殿下とアリスの婚約破棄まで話を持っていったんだけど……殿下を鍛え直すから破棄だけは保留にしてほしいって陛下に頭下げられちゃったから、もうしばらく殿下の婚約者でいてね。あ、でも王家主催の催し以外は殿下の傍に居なくてもいい様に約束は取り付けたから、殿下とは年に1~2度会うだけだからその時だけは我慢してね』

とそれはそれは美しい笑みを浮かべ王城を睨みつけながら私に話をしたのでした。


ちなみに蛇足だが母は陛下の姉で、陛下は昔から母には頭が上がらないそうだ。

王妃様は母をなぜか崇拝しているので母の言う事に右に倣え状態らしい。

いいのか?国のトップがそんなんで……

一部の重鎮達に母は『陰の女王』と呼ばれているとか。

父と兄が楽しそうにそんなことを言っていた。



翌日、善は急げとばかりに母は父と兄と共に王城に向かいました。

私はお留守番です。

本当は私も一緒に行ければいいのですが、先約がありましたので言付けを頼みました。

数刻後、げっそりとした兄のみが帰宅しました。

「お父様とお母様は?」

「父様と母様は今なお、陛下と殿下を説教中」

「は?」

「アリスの言葉を伝えたら殿下が『絶対に婚約破棄はしない!』って言いだしてな。理由を聞いた父様と母様の堪忍袋の緒が切れた」

「お父様もお母様も怒りの沸点は高いはずですが……」

「あー、まあその高い沸点すら超えることを殿下が言っちゃったんだよな。まあ、アリスは知らなくていい事だから教えないけど」

明後日の方向を見る兄。

兄と殿下は一応幼馴染で学友。

兄はそれとなく私の事を殿下に話していたらしいが、私の話題が出ると機嫌が悪くなるとよく話していた。

最近では兄はそれに面白味を見つけたらしく、わざと私の話題を出して殿下の機嫌を悪くしているとか……

一体、兄は何をしたいのでしょうね。



「で、結局婚約破棄は出来なかったと?」

そのさらに数刻後、機嫌の悪い両親が帰宅し、サロンは絶賛極寒部屋になっております。

母が手に持っていた扇には数本のヒビが入っており、侍女長がため息を隠しつつ新しい扇を差し出した。

「ああ、殿下が『僕が聖女に惚れるとでもいうのか!?ふざけるな!僕はアリス一筋だ!』とかわけの分からんことを叫んでいたが、とりあえず『聖女』が召喚されるまでは保留。『聖女』を保護した後の殿下の様子を見て再度話し合うことになった」

深く息を吐きながらお疲れの様子の父に私自らがお茶を入れてあげることにしました。

貴族の子女が……と眉を顰める方もいらっしゃいますが、毒物混入などの事を考えたら自分で入れたほうが安全です。

我が侯爵家では幼少時からお茶の入れ方はもちろん、料理や洗濯、掃除等も教養の一環として習わされます。

ちなみに嫁にも婚約期間中に同じ教養を受けさせます。

合格点が貰えないとどんなに相思相愛でも侯爵家の嫁とは認められません。

さすがにお客様の前では自らお茶を入れることはしませんけどね。

「ねえ、お父様。私、耳がおかしくなったのかしら?殿下が『僕はアリス一筋だ!』と仰ったとか……」

「ああ、それは私も聞いた時、自分の耳を疑ったよ。10回くらい聞き直したかな」

しれっと答える父に母も頷く。

「今まで散々、アリスの事を蔑にしていて『アリス一筋』は無いわね。これまでの殿下の行いを一つ一つ丁寧に説明してあげたら、どんどん殿下の顔色が悪くなって、陛下と王妃様が『これ以上は……』と遮ったから全部は話せなかったのがつまらなかったわ」

面白くなさそうに吐き出す母に父も兄も私も苦笑しか浮かばなかった。

きっとネチネチと一つ一つの事柄に対して殿下があんなことするから娘は~とかいっていじめてきたのでしょう。

まあ、もっともすべて事実なので途中まで陛下も王妃様も止めなかったのでしょうね。

「ねえ、お母様」

「なあに?アリス」

「全部話せずに鬱憤が溜まっているのでしたら、それを(ねた)に物語を書かせてみてはどうでしょう。たしか、お母様付の侍女と私の付の侍女が三か月に一度程度で物語を発表しているはずです」

「ああ、ジベルとアベルの二人ね。ジベルが物語を書いて、アベルがその挿絵を描いているのよね」

「ええ、二人の作品は平民から貴族の令嬢・夫人にまで幅広い層に愛されておりますから……ね?」

母はしばし考え込んでいたが

「殿下とアリスだと分からない様にすれば問題ないんじゃないか?殿下が行ってきた数々の出来事はやろうと思えば誰でも起こせることだし、ヒロインを下級貴族または平民、ヒーローを高位貴族の子息の幼馴染カップルにすれば身分差ロマンスとしても人気でそうじゃない?」

兄の提案に母の瞳がキラキラと輝きだし、すぐさまジベルとアベルが呼び出された。

ジベルとアベルは母の提案に一も二もなく頷き、詳しい話を!と母と意気投合している。

「これでお母様の鬱憤はある程度晴らせますね」

「アリスはすごい事思いつくね」

「アベルが最近、物語のネタがないとため息ついていたので……それにジベルとアベルなら私達の事だと分からない様に、でもわかる人にはわかる様に書いてくれると信じていますもの」

母とジベルとアベルの会話を横に聞きながら私と父と兄はお茶を口にし、今後の事を話し合った。

大まかには私が計画を立て、父と兄がフォローするという形で『聖女召喚』に備えることになった。



数か月後、『聖女召喚』は無事に行われ、私の予想通りの展開が繰り広げられました。

簡単に言えば、殿下は聖女様に10日で堕ちました。

私の予想では3日以内に堕ちると思ったのですが、思っていたより長かったですわね。

ちなみに、父と母は即日、兄は14日ほどと予測して家族内で賭けをしておりました。

賭けは兄の勝ちで、私は半月ほど好物のスウィーツ禁止です。

我が家の賭けは勝者には当人の好きな物を毎日提供。敗者には半月間禁止というルールがあるのです。

金品は賭けたりしませんよ。賭けるのは食べ物のみです。

スウィーツは私の癒しなのに~!

まあでも、賭けに負けたので致し方ないですわね。

半月の我慢です。


あ、殿下達の話でしたわね。

ええ、殿下達です。

殿下を筆頭に、副宰相様の御子息、騎士団隊長の御子息、王宮に出入りを許されている大商人の御子息を『聖女様』は一か月でものの見事に手中に収めましたの。

各御子息には相思相愛の立派な婚約者(私は除く)がおりましたが、もはやその間に深い溝が掘られました。

たった一ヶ月で……

今では王宮の一室を与えられた『聖女様』の部屋で日々、愛の囁き合戦だそうです。

『聖女』としての役割は一応行われているようなので、神殿も王家も黙認です。

平民に被害が及んでいないからという理由です。

『聖女』が役割を放棄したら真っ先に被害をこうむるのが平民……主に農民だからです。

農民が飢えることなく平穏に暮らせている今は『静観』だそうです。


今の所、私に被害は及んでいないので我が侯爵家も殿下達の行いを放置しております。

たとえ、殿下が廃嫡されても優秀な弟王子がいらっしゃいますしね。


**


「アリス様は悔しくないのですか?」

ある日の午後、親しい友人……『聖女様』の取り巻き化とした方達の婚約者を呼んでお茶会を開くと友人たちは口を揃えて言う。

「何がですの?」

友人たちが言いたい事ははっきりとわかっている。

婚約者を『聖女様』に取られて悔しくないのかと言いたいのだろう。

「殿下の事ですわ!社交界で……いえ、この国で知らぬ者はおりません」

「ああ、私と婚約破棄して『聖女様』を娶るという噂ですの?」

「ええ、そうですわ!」

「まあ、まだ公表されておりませんの?私と殿下の婚約はとっくに破棄されておりますわよ」

平然と答える私に友人達はぽかーんとした表情を浮かべた。

「私、殿下の事を一度も愛おしいと思ったことありませんし、『聖女様』が召喚される前に婚約破棄のお願いを両陛下にいたしましたの(母がですけど)」

「婚約破棄?しかし、アリス様の婚約は王令……それを破棄したいなどと謀反の烙印を押されるのでは?」

若干顔色を青くする友人たちに私は小さな笑みを浮かべる。

「あら、過去の『聖女様』の9割が王太子殿下に嫁いでいらっしゃるのよ?今回の『聖女様』は違うとは言い切れないでしょ?なら、『聖女様』がいらっしゃる前に殿下の隣は空白にしておきたかったのですわ。両陛下も納得してくださったわ。殿下が『聖女様』に堕ちたその瞬間に私はただの侯爵令嬢に戻れたのですけどね」

ふふっと笑うと友人たちは互いの顔を見合わせていた。

「『聖女』の行動は毎回同じだと歴史書が物語っておりますわ。皆様も早いうちに手を打たれることをお勧めしますわ。相手の方を諌めるのは婚約者として当然ですが、あまりしつこいと身に覚えがない罪を着せられかねませんから、私としては断腸の思いかもしれませんが婚約者殿たちと縁を切った方がよろしいと思いますわ。今回は『聖女様』がお相手なので仕方がありませんが、もしこのまま結婚されても浮気を繰り返されるかもしれませんわよ」

ちらりと友人達を見ると友人たちは顔を青くしつつも気丈に頷くと早々に我が家を後にした。

きっと彼女達は両親に訴えるだろう。

婚約を無効にしてほしいと。

そしてひと騒動起こるだろうけど……私にとっては他人事。

私は友人たちにアドバイスしただけ。

彼等が友人達の元に戻ってもきっと元通りにはならないでしょうね。

だって、彼等は婚約者との関係に傷を自らつけたのですから。

一度芽生えた疑惑は早々には晴れない。

一度疑った相手を無条件に信じることなんてできない。

私は友人達にも幸せになってほしい。

だからあえて助言したに過ぎない。



『聖女召喚』という言葉で思い出したのは『前世(かこ)の記憶』

この世界は少女漫画の世界でも、乙女ゲームの世界でもない。

だけど、酷似はしている。

そう、WEB小説の悪役令嬢奮闘記のテンプレ設定に。

私が『悪役令嬢』になるとは限らないけど。

念には念を入れなきゃね。

予想通り殿下は『聖女様』に夢中になったしね。


私は早々に婚約破棄したことで、一応の平穏無事な生活を手に入れることができた。


そう、すべては『聖女様』のために行った結果よ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ