4.白女神ミレーユ
いきなり黒い穴に落ちたウチ達。
その先には、ひたすら真っ暗な空間が広がっていて、その空間に三人とも浮いていた。
そして、目の前が白く光ったと思ったら、その光がだんだん人の形を作っていき、一人の女性が現れた。
足首まで届くようなキラキラした長い金髪に、澄んだ海の色の青い目、ウエディングドレスを思わせる純白のドレスをまとった彼女は、儚げな顔をしてウチ達を見ていた。
その彼女をよく見てみると、顔立ちは先ほど一組の教室で固まっていた同級生の緒方美代に似ていて、まるで緒方美代と同一人物のようだった。
「伝説の八宝玉達よ、私の世界を救ってください」
そう言った、緒方美代そっくりな彼女。
その声はソプラノの高い声で、緒方美代と一緒だった。
「美代?美代なの?なんでそんな格好をしているの?ここはどこ?」
「今日子達を連れてきたの、美代なの?なんの冗談?」
動揺した声で言った加古川さんと白木さん。
しかし、緒方美代とそっくりな彼女は、はっきりとした口調で言った。
「私は貴方達の言う“緒方美代”ではありません。私の名前はミレーユ。白女神ミレーユです」
「白女神…ミレーユ?」
「美代と同じ容姿なのに別人?」
「ご説明しましょう。私は貴方達の世界の“緒方美代”と同じ魂を持つ存在です。“緒方美代”は、貴方達の世界で、人間として生きていますが、この世界の“緒方美代”である私は白女神ミレーユとして生きています。貴方達の世界と、私の世界は違いますが、同じ魂を持った人達がどちらの世界にも多くいるのです。その為、私と“緒方美代”のように容姿の似た者が存在するのです」
それを聞いて、しばらく黙っていたウチ達。
何がなんだか理解できず、混乱していた。
「ご理解できたでしょうか?」
「…それで、白女神ミレーユ。貴方はウチ達に何をしたいんですか?何のためにこんな事をするんですか?」
「貴方達に私の世界を救って欲しいからここに呼び出しました。貴方達は私の世界では伝説の八宝玉です」
「八宝玉?」
「八宝玉とは私の世界、ヴァルフィールに伝わる、伝説の救世主の事です」
「…何のRPGですか?」
ウチは信じられなくて、吐き捨てるように言った。
伝説の救世主だと?何の冗談だ!
「RPGなどではありません。今起きていることは現実です。お遊びではないのです!」
強い口調で白女神ミレーユは言う。
「八宝玉の伝説を説明しましょう」
世界が闇に包まれる時、神々に導かれし、それぞれ八つの宝石を持つ救世主達が現れるだろう。
紅のルビー
蒼のサファイア
翠のエメラルド
黄のトパーズ
紫のアメジスト
銀のパール
黒のダイヤモンド
白のオパール
その者達、八宝玉なり。
と、白女神ミレーユは神々しい感じで言った。
「そして今、私の世界ヴァルフィールは、魔界にいる大魔王オリオンによって、人間界が支配されようとしています。私はそれを阻止するため、伝説に従い、手元にあった八つの宝玉をもう一人の女神と共に世界に向けて放ちました。しかし、いくら探しても、蒼のサファイア、緑のエメラルド、黄のトパーズ、紫のアメジストを持つ者は現れませんでした。そこで、私は宝玉の行方をたどって行き、あなたたち三人に行き着いたのです」
「それで、自分達がその八宝玉だというんですか?」
加古川さんが聞くと、白女神ミレーユは、〝はい、そうです〟と答えた。
「だからと言って、なんでウチ達が貴方の世界を救わないといけないんですか!」
「そうだよ!それに今日子達、宝石なんて持ってないよ!」
ウチと白木さんがそう言うと、白女神ミレーユは右手を伸ばし、手のひらをウチ達に向けた。
すると、だんだんと体が熱くなったと思ったら、いつの間にか胸の前に宝石が現れていた。
加古川さんは蒼い宝石で、白木さんは黄色い宝石、そしてウチは翠の色をした宝石が出てきた。
「それが、貴方達が伝説の八宝玉であるという証拠です」
「…いつの間にこんな宝石が自分の体にあったの?」
「私ともう一人の女神が八つの宝石を世界に放った時に、四つの宝石が世界を超え、そのうち三つが貴方達の体に宿ったのでしょう」
「四つの宝石が世界を超えた?でも、ウチ達は三人で、宿っていたのは三つですよね?後一つはどうしたんですか?」
「後一つも見つかりました。見つけたのは私ではなく、もう一人の女神ですが」
「もう一人の女神?」
「ヴァルフィールには女神が二人います。人間達が信仰する白女神ミレーユ、つまり私と、魔界の魔族達が信仰する黒女神イレーヌです。黒女神イレーヌが見つけたということは、八宝玉の一人はきっと魔族なのかもしれません」
「ちょっと待って!敵である方に自分達と同じ救世主がいるって言うの!?」
「多分そういう事になります」
「訳がわかんない。世界を救って欲しいと言われて、自分達が救世主と言われたと思ったら、敵に同じ救世主がいるなんて!」
加古川さんはそう言って額を抑えた。
「貴方達三人は、ヴァルフィールにいる残りの八宝玉達と共に、魔界にいる大魔王オリオンを倒してください」
「ちょっと!ウチ達は一言も世界を救うなんて言ってませんよ!ウチ達とは何の関係もない世界を救えだなんて言われて〝はいそうですか〟と素直に聞けません!」
「田中さんの言うとおりよ!」
「そうだよ!なんで今日子達が世界を救わないといけないんだ!」
ウチの言葉に、加古川さんと白木さんも賛同した。
「伝説の八宝玉達よ。貴方達に無理を言っているのは承知です。ですが、私自身、ヴァルフィールが危機に陥っているというのに、女神ゆえ直接手を下すことは出来ないのです。私に出来るのは、救世主の召喚ぐらいです。このとおり、お願いします」
そう言って、白女神ミレーユは頭を下げたが、同時に爆弾を投下した。
「もし、貴方達がこの世界を救わないのでしたら、貴方達はこの空間から一生出ることは出来ません。それに、貴方達の世界から、貴方達三人の存在が消されることになり、三人ともいなかったことになります」
一泊置き、
「はぁああ~!何だって!?」
と、ウチ達三人は声を揃えて言った。
「なので、お願いします。ヴァルフィールを救ってください!」
必死な顔をして白女神ミレーユはそう言うが、関係のないウチ達を巻き込んでおいて脅すとは、この女神、女神と言える存在じゃない気がする。
「何で自分達を巻き込むんですか!」
「そうだよ!今日子達を帰してよ!」
「すみません!もうこうなった以上、貴方達をそのまま元の世界に帰せないのです。戻る方法は唯一つ、大魔王オリオンを倒すことです」
「それで、もし大魔王オリオンを倒したとして、ウチ達に何の得があるんですか?」
「…そうですね。私のお願いだけ叶えてもらうのも不公平ですね。分かりました。貴方達がヴァルフィールを救った暁には、貴方達三人の願いを一つだけ叶えましょう。それでどうですか?」
「はぁ…納得できないことがありすぎるけど、そのヴァルフィールって世界を救わないと、ウチ達は帰ることが出来ずに、存在自体を消されてしまう。だけど、ヴァルフィールを救えば、帰れるし願いも叶えてくれる」
「はい、そうです。約束は必ず守りますので」
「あーもう!なる様になれだよ。加古川さん、白木さん、諦めよう。いくらここで話しても無駄みたいだから、白女神ミレーユの言うとおりにしよう。そうしないと元の世界に帰れないからね」
「…本当にそれしかないのね」
「嫌だ嫌だ!今日子魔王討伐とかしたくない!戦いたくないのに!」
「今日子、しょうがないよ。もう後戻りできないみたいなんだから」
加古川さんの言葉に、白木さんはうつむいた。
「……分かったよ」
白木さんが力のない声で言うと、白女神ミレーユはウチ達に〝ありがとうございます〟とお礼を言った。
「それでは、ヴァルフィールでは貴方達の名前は使えないので、こちらで与えることにします。それと、あちらの世界で貴方達は冒険者になりますので、その職業もこちらで決めさせてもらいます」
そう言って、白女神ミレーユは加古川さんの方に手を伸ばし、手のひらを加古川さんに向けた。
「まず、加古川柚流。貴方はルーシィと名づけます。職業は魔法使いです。宝石は蒼のサファイアでしたので、その髪飾りを与えます」
白女神ミレーユが言い終わると、加古川さんの体が一瞬蒼い光に包まれた。
そして次に、白木さんの方に手を伸ばして、手のひらを白木さんに向けた。
「白木今日子。貴方はショコラと名づけます。職業は盗賊です。宝石は黄のトパーズでしたので、その指輪を与えます」
白女神ミレーユが言い終わると、白木さんの体が一瞬黄色い光に包まれた。
最後にウチの方に手を伸ばし、手のひらをこっちに向けた。
「田中明日香。貴方はアーニャと名づけます。職業は魔物使いです。宝石は翠のエメラルドでしたので、その首飾りを与えます。」
白女神ミレーユが言い終わった瞬間、ウチの体は翠の色の光に包まれた。
その光が消えると、今度は三人一緒に白い光に包まれた。
「さあ、時間です。まず、貴方達三人をヴァルフィールの大神殿へ送ります。そこにいる神官に、勇者のもとへ連れて行ってもらうようにお願いしてください。勇者は八宝玉の一人です。その勇者とともに、世界中にいる残りの八宝玉を探し、その方々と協力して大魔王の幹部と大魔王を倒してください。そして最後に、私は貴方達の幸運を祈っています。生きてまた、この空間で会いましょう」
こうして、ウチ達は白女神ミレーユと別れ、ヴァルフィールへと召喚されたのだ。