2.変化
変化があったのは、あれから約六時間後。
五限目の授業で、数学Bの授業の真っ最中。
公式を解説しながら黒板に字を書くのは、ウチのクラスの三組の担任の先生である秋丸先生。
この先生は、黒髪の短髪で、二重の目をしている。身長が百六十センチ程度しかなく、男性の中ではかなり小さい。
黒板に書いている字も、後ろから見てわからないわけではないが、比較的小さい字だ。
それに対して、説明する声は大きく、教室の後ろどころか廊下まで響き、隣のクラスにまで聞こえそうな声で説明するので、正直ボリュームを下げて欲しい。
この秋丸先生は、迫さんが所属しているバレー部の顧問でもあり、身長が低いにもかかわらず口だけでなく、自らプレイして部員に教えているという。
運動神経はいいらしい。
その先生が、かかげているスローガンは〝激熱〟で、かなりの熱血漢である。
午後の暖かな日差しの中、大きな声で解説する秋丸先生がいるにも関わらず、居眠りをする人もいて、その人たちと同様、段々とウチも眠くなり、先生をボケ~っと見ていると、急に秋丸先生の声と動きが止まった。
いきなりのことだったので、何が起こったのかわからなかった。
だが、先生をよく見てみると、まるでいきなり時間が止まったような感じで石像のように動かない。
動揺して、周りを見てみると、他の人たちも固まっていた。
動いているのはウチと同じ様に、驚いている顔をした三人、迫さんと加古川さん、そして白木さんだった。
「何が起きたんだ…?」
迫さんがつぶやくと、不安そうな声で白木さんも「何でみんな止まっているの?」と呟いた。
「どうなってるの?」
加古川さんがそう言ったが、ウチにも訳が分からずただ茫然と「分かんないよ」と言うことしか出来なかった。
「柚流、今日子、田中さんは体にどうもないの?」
迫さんがウチらに聞くが、
「自分には何も」
「今日子にも」
「ウチもだ。て言うか、普通に動くんですけど…」
ウチ達には体の変化がなかった。
「ねぇ、このクラスどうなっちゃってるの?」
加古川さんが言うが皆首を横に振るだけだ。
「て言うか、僕の後ろの席の有輝まで固まっているんだけど…」
有輝とは、藪椿有輝のことで、黒髪に少し茶色がかった髪の色の身長が低い女の子だ。
制服の着こなしはスカート丈がちょっとだけ短く、後は校則通りに着こなしている。
よくウチと迫さん、藪椿さんと三人で放課後や休日ゲームをしたりして遊んでいる間柄だ。
それより、他のクラスはどうなっているのかとウチが問うと、皆一斉に立ち上がって、慌てて教室から出た。
廊下はウチらの足音がしただけで、しんと静まり返っていて、他に何の物音もしなかった。
他のクラスも授業をしているはずなのに、先生の声すらも聞こえないなんて。
そんな中、迫さんは隣の二組の教室までずかずかと歩いていき、バンッとドアを開いた。
「ちょっとアヤ!?」
加古川さんが迫さんのもとへ駈け出したが、やがて悲鳴が上がった。
どうしたのかとウチと白木さんが駆け寄ってみると、隣の教室も三組と同様、固まっていたのだ。
「本当に何がどうなっているんだ?僕たち以外が固まっているなんて」
迫さんがそう言い、次に一組に向かった。
しかし、そこも全員が固まっていて、誰ひとり動いている人はいなかった。
「一組も二組もこんなんじゃ、学校にいる全員が固まっているのかな…?」
白木さんが一組の教室の中に入りそう言った。
「美代と広美まで固まっちゃってるよ…」
美代は緒方美代と言い、一組の生徒だ。
黒髪のショートカットで、毛先が常に内巻になっているのがお洒落だ。
普通より少しかわいい感じの顔だが、成績優秀な優等生。
制服の着こなしは白木さんたちみたいにスカート丈が若干短いが、それ以外は校則通りである。
ウチとはあまりかかわりはないが、白木さんや加古川さんは放課後よく遊んだりしていたらしい。
そして、広美とは南竹広美と言い、一組の生徒で、緒方美代と同様白木さんたちと仲が良かったみたいだ。
南竹広美は、茶色がかった薄いボブヘアの髪に、横髪の毛先が外向きにはねていて、穏やかな顔つきの子だ。
制服の着こなしは、ウチみたいに模範に着こなしている。
「愛美も固まっているよ」
いつの間にか一組の教室に入っていた加古川さんが、一人の女の子の前で言った。
彼女は橘愛美といい、よくウチ達と一緒にお弁当を食べたりしている子だ。
漆黒の髪に真ん中分けのショートカット。
パッチリ二重の目に、鼻筋がすっとした顔で、かわいらしい顔立ちの子で、とてもよくモテていた。
制服の着こなしは加古川さんたちよりも短いスカートで、それが良く似合っていて、アニメにでも出てきそうな感じの女の子だ。
「自分達が動いているから、愛美や三代、広美も動いているのかと思っていたんだけど…」
本当に今、この学年で動いているのはウチ達だけのようだ。
「ねぇ、思ったんだけどさ、あの時計秒針まで止まっているんだけど。ということは、あの時計が壊れていなかったら時間が止まっているっていうことなのかな?」
迫さんがそう言い、一組の教室の時計を指差した。
時計の針は二時十分十五秒を指していた。
「ほ、他の教室のも確かめようよ」
加古川さんの言葉で、ウチらはまた二組の教室へ行った。
そして、時計の針は二時十分十五秒で止まっていた。
その後、ウチらのクラス三組に行ったが一組と同様に同じ時間で止まっていた。
「こうなったら、手分けして学校で動いている人を探さない?何が起きているのかわからないからさ。きっと僕たちみたいに動いている人はいるんじゃないかな?」
迫さんの言葉に、ウチらは頷いた。
「そしたら、自分と今日子は後ろの校舎を回ってくる。ここの塔の校舎と体育館を田中さんとアヤで回ってくれないかな?」
「分かった」
「承知しました!」
「それでなんだけど、全部回ったら一旦この教室へ戻ることにしない?」
加古川さんの提案に、みんな頷いた。
「じゃあ、また教室で」
迫さんの言葉を最後に、ウチらは二手に分かれた。
こうして、四人で手分けして学校中を探し回って動いている人を探すことになった。