1.日常
その日も、ウチはいつもと変わらない一日を過ごしていた。
ウチの名前は、田中明日香。
県立串八木高等学校に通う三年生だ。
成績は平均並み。
容姿は至って平凡で、楕円形のレンズの眼鏡をかけていること以外は、大した特徴もない普通の高校生でいるつもりである。
身長も百五十センチの半ばだし、体重も重すぎず軽すぎずといったところだ。
髪の毛は薄い茶色がかった色をしているが、染めていないので校則違反にはならない。
前髪はやや長く、顎のラインで切りそろえている。
後ろの髪は腰には届かないが、それなりに長い為、邪魔にならないように軽く一つに縛っている。
制服であるセーラー服のスカート丈も校則通り膝下まである。
学校指定の校章バッジや学年バッジもしっかり胸ポケットと襟につけている。
ここまで校則通りにしている為、同級生達からは真面目すぎると言われているが、これが普通じゃないのか?
まあ、それは置いといて、この日もウチは変わらない日を過ごしていた。
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「おはよう!」
朝、登校して教室に入ると元気な声が聞こえた。
クラスメイトの迫彩夏だ。
彼女は肩につく程度の黒髪を一つに縛り、ウチと同じく校則通りに制服を着こなしている。
身長は百六十センチ半ばで、やや低めのアルトの声を持った僕っ子だ。
見た目は冷静そうで、近寄りがたいイメージがあるが、話してみるとそのイメージがガラッと変わり、ユニークな性格で結構なおしゃべりさんだ。
運動神経がよく、部活もバレー部に入っているが、掛け持ちでウチと同じ書道部にも所属している。
「朝から元気だねぇ」
「田中さんのテンションが低いだけだよ」
まあ、確かにそれもあるけど、教室に入った瞬間それを見逃さずに教室の端から挨拶をするものか普通。
どんだけ声デカいんだよ。
「迫さんと同じ自転車登校だけど、四キロもあるから登下校するのも疲れるんだよ」
そう、ウチの家は串八木市ではなく、隣町の地金町にある。
「四キロもあるって、僕と大して変わらないじゃないか」
…迫さんの家は串八木市にあるが、地金町のすぐ傍にある為、ウチと登校距離は大して変わらない。
「体力のあり余っている迫さんと一緒にしないで欲しいなぁ」
「じゃあ、今から体力つけるか?引退した身だけど、バレー部には通っているから、まだ間に合うよ。一緒にプレイしよう」
「…遠慮します」
「遠慮しなくてもいいのに」
心底嫌な顔をして迫さんの誘いを断った。
「おはよう。朝から楽しそうだね」
教室に入り真っ先にウチのところに来たのは加古川柚流。
彼女も迫さんと同様クラスメイトだ。
明るい茶色の髪に、肩甲骨まである髪を左サイドで一つに縛っていて、前髪には大きなヘアピンをしている。
身長は百六十センチほどで、メゾソプラノの声を持つ容姿が綺麗な子だ。
膝小僧が見える程度にスカートを短くしているが、それ以外は校則通りに制服を着こなしている。
ちなみに、髪の毛は染めているが、そこまで髪の色が彼女以外に染めている子たちに比べて目立たない為、教師たちにはばれていない。
「おはよう」
「おはよう。今日子は一緒じゃないの?」
迫さんが加古川さんに尋ねると、加古川さんは体を横にずらした。
「ちょっと、なんで気づかないの!?」
後ろから白木さんが怒ったような顔で言った。
彼女は白木今日子で、身長が百四十七センチと小さい。
ちょっと、ぽっちゃりした体形。
ウチと同じで楕円形のレンズの眼鏡をかけている。
髪の色は加古川さんと同様茶色に染めていて、肩より長い髪をストレートパーマにかけている。
制服も加古川さん同様、スカートが多少短いがそれ以外は校則通りだ。
「身長が低くて、気づかなかったわ~」
迫さんがからかうように言うと、白木さんは顔を真っ赤にして「んもう!人が気にしていることを!」と言い、迫さんの頭を叩こうとした。
しかし、運動神経のいい迫さんはヒョイと避け、白木さんの手は空を切った。
「避けないでよ!」
「避けないとあたるでしょ!」
この二人のやり取りはいつものことだ。
そしてその光景を見てウチと加古川さんは笑う。
何気ない日常。
この三人と過ごす日々が、とても楽しかった。