こんな単純な日常でも、案外楽しいんだ。
「沙羅。一緒に帰ろ。」
「うん!あ、日誌書かなきゃいけないから先帰ってて。今日日直だから…。ごめん唯加。」
日誌なんてめんどくさいな。正直なところはさぼりたい。一人で学校から帰るなんて。なにより唯加を一人で帰らせたくないと思った。
「いいよ、沙羅。私暇だから、待っとく。」
「そんな、悪いよ。本当ごめん。」
「ううん。私勝手に待ってるだけだから、気にしないで、ゆっくりでいいよ。」
私は恐らく唯加のこんなところが好きなんだろうな、と思いつつ手早く日誌を書いて、教科書をカバンにつめた。
「行こっか。」
「うん。重そうだけど持つの手伝おうか?」
「いいって。これくらいならいけるよ。唯加こそ大丈夫?」
見たところ全く重そうに見えないが、一応聞いておいた。
「あぁ。私今日、置き勉。」
唯加が言ったところで、二人で吹き出して、大笑いした。
放課後の校舎にはもう私たちしか生徒はいない様で、貸切のような気分になった。
下駄箱でローファーに履き替えながら私はふと思った。
「こんな単純な日常でも案外楽しいんだ。」
普段は気にも留めない会話なのに、なんでいきなりこんなことを考えたのだろう。
きっと春の暖かさで頭がやられたのかな、などと考えて、私は今にも夜の闇に溶け込んで行きそうな校舎を後にした。