出発します!
怒濤の二日後、いよいよお引っ越しです。ヴォルティスは男だから荷馬車1台と乗っていく馬車1台、使用人の馬車1台で済んだみたいです。話には聞いていましたが使用人も連れていくんだと思うとヴォルティスって貴族としては変わり種なのかもと思ったわ。庶民に寛大な貴族って素敵だと思う。
さて、現在はガラガラと街道を走っております。ヴォルの肩を失礼して外の景色を眺める。
『キュ!キュキュ!』
外の景色は一面の青草が生える草原で、牛みたいなのと羊みたいなのが草を食んでいた。
「楽しそうだな。そんなに草原は面白いか?」
『きゅん!』
ええ!楽しいわ!前世は都会育ちだったからこんな自然はテレビでしか見たことなかったの。本当に凄いわ!
「我がシェライザー公爵領は牧畜が主産業なんだ。広大な土地と豊かな土壌に恵まれているからな。王都へ近づくほど街が大きくなっていく。ここは田舎なんだ。」
へえ、田舎ですか。でも素敵な場所だと思う。何て言えばいいか、心を癒すのに最適だと思うの。でも、これからは殆どここには来られないのよね。少し残念に思うわ。
そんな私の落ち込みを感じてかヴォルは肩から降ろし、膝の上に乗せてくれた。
「ここには極力来たくはないんだ。お前には弱音を吐いてしまうが、父親とあの女がいる所に居たくない。母上の悲しみを見てきたんだ。ここは俺にとって辛い場所なんだよ。」
だから王都へ逃げているのさ……とヴォルは悲しそうに呟いた。
「それに、ここより素晴らしい観光地は沢山ある。雪山に火山地帯、湿地、砂漠、海などな。騎士になれば派遣先で仕事するようになるから楽しめるはずだぞ。」
それって凄いね!というか、この国ってそこまで広い大陸なんだ……。後で地図とか見せてもらおう。
ガラガラ……
「ヴォルティス様、王都の街道には明日入ることにしましょう。本日はシェライザー領の最大の街、ナシカルドに泊まります。」
「ああ。護衛や使用人の宿泊やその他はアシルド、お前に任せる。……後、本家に何か動きはあったか?」
ナシカルドってヴォルの両親が住んでいる場所なんだって。だから警戒してるのかな?
「長女様が少し……。ですが、メアリーナ様が押さえてくれているとのこと。問題はないでしょう。」
「……そうか。」
長女ってヴォルの半分血の繋がった妹だよね?何で彼女をそんなに警戒するんだろう?それに後妻さんまで。
分からない事だらけだけど馬車御一行様は宿泊街に到着した。
泊まるホテルはギルドが経営する「弓の弦」という何ともネームセンスのないホテルだった。それよりギルドがあったなんて興奮ものだよ!
中に入ると冒険者が沢山いた。いかにも戦士ですって感じのマッチョもいれば魔法使いですって感じの細身でローブと杖を持った人もいた。
後はエルフ、ドワーフ、獣人など様々な種族もいることが分かって更に驚いた。この世界は本当にファンタジーなんだなって実感できた。
「いらっしゃいませヴォルティス様。お待ちしておりました。」
奥から支配人のような人がやって来た。紺色の制服を着てにこやかに笑う40代くらいの男の人だった。
「ヨルゲン、世話になる。後、追加で俺のパートナーも一緒に泊まるが問題ないな?」
「ヴォルティス様のパートナー……ですか?」
『きゅん!』
ヨルゲンさん……というのですね!初めまして、ウルウと申します。
私の鳴き声に反応してヴォルの胸元を見たヨルゲンさん。私はヴォルの懐の中に入っているので頭だけ出ている感じとなっております。ヨルゲンさんはそれはそれは驚いておりました。
「パートナーのウルウだ。まだ子供だから危険はない。」
「ウルウ様……ですか。何とも愛らしい魔獣ですね。どんな種族なんです?」
「その話は後で。ここでパートナーの新規登録を済ませたい。良いだろうか?」
「ええ、大丈夫です。今から行いますか?」
「頼む。」
どうやら私をギルドのパートナー登録するみたいですね。なんだかワクワクしますよ!やっぱり異世界といえばギルドだよね!ここ以外のギルドってどんな感じなんだろう?行ってみたいな!