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九尾の異世界転生と幸せライフ  作者: 十六夜
イグドシア騎士学院 学友編
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報告とシンクローム

翌日、私達は事の顛末を報告するために理事長室にお邪魔することになった。


理事長のエバル・クラインは入学式以来の再会なんだけど、相変わらずの鋭い目付きに厳しそうな紳士だった。紺色の軍服にグレーのオールバックの髪はとても上品にまとめられている。蓄えた髭も不潔感がないのは流石というべきか?怖そうだけど、私を見上げる焦げ茶色の眼差しは優しく感じた。


次にヴォル達の担任でもある一年教官のアーノルド・キリスイア教官もいました。今日も渋くて良い声をかけてくれました。「随分美人に育ったな。」と大人の男の魅力で囁かれました。思わずボーッとしてしまうのは不可抗力というもの。なのにヴォルったら睨み付けてくるのよ?理不尽よね?まあ、アーノルド教官は栗色の短髪に緋色の瞳を持っている男前なんだもの。前に言ったように恋愛経験値皆無の私にはハードルが高すぎのお相手なので仕方ないのです。



後は、「魔獣専門家」兼三年教官のグルシオ・ハウゼン教官と同じく魔獣専門家のクルド教官が同席していました。


これだけの人間が集まれば流石のヴォルといえど緊張をしてしまうようで、さっきからピリピリと圧力が半端じゃなかったよ。クリスト君なんか顔を真っ青にして可哀想だった。



「ふむ……ウルウを繭に包んで対処したとクルドから報告を受けてはいたが、まさか成体になるとはな。立派な魔獣になったな。」


エバル理事長は目許を和ませて私を見上げてそういった。「触れても良いかね?」と聞いてきたので、これから問題になるだろうクリスト君のために少しでも役に立てるならと自慢のモフモフをご提供して差し上げた。


理事長の手が私の毛にフワァッと吸い込まれる。理事長の後ろではグルシオ教官がアーノルド教官とクルド教官に取り押さえられているのが見えたけど、今は気づかないフリです。


「おぉ……何と気品のある手触りだ。王室の高級羽毛や毛皮のどれにも敵わない極上さだ。」


「お、俺にもっ!!」と言いかけたグルシオ教官だが、「いい加減にしろ!」とアーノルド教官に口を塞がれ、更に身動きが取れなくされていた。……そんなに触りたいなら後で触らせてあげようかな?



「……ありがとう。とても良い思いをさせてもらった。さて、君達を呼んだのは、この報告書を読んだからなのだが……。クリスト・ハルルクに魔獣の感情や言葉を読み取れる能力が発現したと。」


「は、はい。その通りです。」


クリスト君は強ばった表情で肯定した。

理事長の後ろで暴れていた三人もピタリと動きを止めてガラリと雰囲気を一瞬で変えた。流石は教官というのか?


「能力を発現させた状況について詳しく説明してくれ。」


「はい!……ウルウを繭に包んだ後、僕は資料を調べていました。しかし、何も分かりませんでした。自分には何も出来ないという事実に絶望していた時でした。急に【苦しい】という感情や言葉が僕の意識に流れ込んできたのです。その感情を辿るとライト君に抱かれていたウルウがいたのです。それに気がつくと、より鮮明に彼女の感情を読み取れるようになったのです。その後の事は……報告書の通りです。」


一通り説明した後、室内はシン……と静まった。


理事長は1度目を瞑り、程なくして背後に控えている三人に視線を向けた。三人共に頷き、再びクリスト君に視線を向けた。


「これは重要機密の話だ。三人共に約束をしてもらうが、絶対に他言はしてはならない。」


「心得ております。」


「同じく約束は守る。」


「や、約束をします!」


どれ程の機密なのか…。理事長や教官の真剣な表情を見ればそれほどの事なのだと推測できる。


「クリストの能力はパートナーではなくとも魔獣と意思疏通できる恐るべき能力だ。我々はその能力を【シンクローム】と呼んでいる。」


「シンクローム?」


クリスト君は初めて聞く能力の名前に首を傾げます。私も首を傾げました。


「シンクロームとは、《大地の女神【リリクレア】に意を背く者》という意味がある。」


「リ、リリクレア様に刃向かうなんて!ぼ、僕はそのようなことなど考えてもおりません!!」


「そうだぜ理事長!クリストはそんな反女神信仰の馬鹿とは違う普通の人間だ。」


クリスト君は真っ青を通り越して真っ白になりながら否定していた。ライトさんがクリスト君を庇おうと必死だった。


「勿論、クリスト・ハルルクの人間性を疑ってなどおらん。」


「なら、女神の意に背く者とは?」


「リリクレア様はこの大地を支える女神だ。当然、地に住まう生き物は彼女の加護の元、与えられる恵みに頼って生きている。それは人間も神獣も魔獣も同じことだ。しかし、魔獣や神獣は時として巨大な魔力や神力で争い、あらゆる大地を破壊しつくした。今も世界のどこかで争っているだろう。そんな彼等の恐るべき力を悪意を持った人間が自由に操れるとしたら?」


そんなの決まっている。巨大な力を持ったら使ってみたくなる人間だっている。ましてや悪意のある人なら尚更。


「もしかして過去にいたのですか?シンクロームを有した能力者が。」


「いた。この王朝が出来た切っ掛けになった事件でもある。他国にも沢山いるだろうな。現に、反女神信仰の犯罪者の首領がシンクロームなのだ。」



衝撃の真実だった。流石のヴォルも言葉も出ないようだった。


「り、理事長…僕は、僕はそんな恐ろしい能力を持っているのですか?……僕は、これからどうすれば……」



クリスト君は可哀想なほど震えていた。


私も自分が国を滅ぼせる程の力を持っていると、話の流れから察することができたので、その気持ちは痛いほど理解できる。



「……教えるのが遅くなったが、シンクロームはお前だけ持っている訳じゃないのだ。」


「え……?」


「神殿に仕えている神官。彼等もまたシンクロームの能力者なのだ。」


またもや衝撃の真実だった。


もしかしてヤシル神官長もシンクロームなの?


「ヴォルティス・シェライザーも知っている御仁。ヤシル神官長もシンクロームだ。」


「ヤシル神官長が……。思えば、ウルウとの儀式の時、ウルウの情報を知っているかのように色々と助言を下さった。まさか、ウルウの感情や言葉を理解していたから?」


「ヤシルはシンクローム能力者の中で5本の指に入る程の実力者だ。俺の知る限りではヤシル程の能力者を知らないな。」


クルド教官もヤシル神官長とお知り合いのようでした。しかも呼び捨てにするほどの仲のようですが、今はそこを追求する時ではない。


「シンクロームの能力者は女神に忠誠を誓う為に、また能力を外に出さないために神殿に入るのだ。」


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