神殿に行きます
おはようございます。今日はヴォルと約束した神殿に行く日です。初めてのお出掛けを後押しするかのように晴れです。
『クンクン!』
「こら、大人しくしろ。」
初めて部屋から出たんですよ?それに綺麗に刈り取られた芝生のなんて気持ちいいことか。思わずヴォルの周りを駆け回ってしまいましたよ。まあ、アシルドさんにすぐ捕まえられましたけど……。
ヴォルに抱き締められながら豪奢な馬車に乗せられて三時間くらいかな?質素ながらも美しい外観の神殿に到着した。道中、ヴォルがアシルドさんに復習として神殿についてテストをやらされていました。勿論、ヴォルは全問正解でしたよ。流石です。
二人の話を聞いて分かった事があります。
まず、この神殿は大地の女神「リリクレア」様を祀っているということ。リリクレア様は世界を創造された神の娘で、この世界を神から託され、自らの力で大地を創り、数多の命を生み出したそうです。
私達、魔獣も人間も全ての生き物はリリクレア様の子供。だから神殿に行ってパートナーになることのお許しを貰わなくてはいけないらしい。
何故、神殿に許可が必要なのかは分からないけど、多分役所や保健所にペット登録するような感じじゃないかなって思うのです。ほら、魔獣って狂暴らしいし。制御できるような何かを得るためにヴォルは神殿に行くのだと思う。
「ウルウ、とりあえずお前は大人しく俺の側にいろ。大人しくしていたらご褒美にライのクッキーを買ってやる。」
『きゃん!!』
大人しくしてます!絶対貴方の側を離れません!!
ライのクッキーとは、地球で言えばアーモンドの入ったクッキーのことです。アーモンドの事をこの世界ではライというの。香ばしくて甘くて美味しいの!沢山食べたいけど太るし栄養バランスが悪いからってアシルドさんに制限されているの。彼っていい調教師になりそう。
話は変わるけど、ヴォルに抱かれて神官?らしき人に案内されて奥の礼拝堂に通されました。中はキリスト教の協会と変わらない気がする。奥の壁にはリリクレア様の銅像があって、その足元には祭壇があって、供物や蝋燭、銀の杯とかあった。周りは木の椅子があって巡礼者のための物だと思う。現にヴォル達が座ってる。
祭壇から中年の神官が近づいてきた。
「これはこれはヴォルティス様、お元気でしたか?」
「ヤシル神官長もお元気そうで何より。早速だが、このウルウとの契約をしたい。」
彼はヤシル神官長というらしい。穏やかな聖職者って感じですね。腹黒のキャラも捨てがたいですが、この世界というか、人間に慣れていない内は穏やかな人がいいですね。
「これは見たことない魔獣ですね。フィニックではないのですか?」
フィニックとは母様の種族の事だ。狐の魔獣のことをフィニックというらしい。前にヴォルに図鑑を見せられて知ったの。
「どうやら親がフィニックらしい。だが、特徴が違うことから突然変異種だと思われる。人懐こく性格は穏やかだ。まあ、お転婆なのは狐故だろうと思うが。」
「ふふふ。お転婆ですか。ヴォルティス様にも遂にパートナーができたのですね。あれほど魔獣のパートナーを退けられていたのに。」
え?そうなの?
「意地の悪い言い方をしないでくれないか?全てあの父親が寄越した質の悪い魔獣だったではないか。あんな魔獣なんぞパートナーにできるか。」
どんな魔獣だったかはしらないけど、相当嫌だったのでしょう。ヴォルの顔が怒りで歪んでます。まあ、迫力が増した美少年になっただけですけど。
「それより早く契約したい。準備をしてくれ。」
「分かりました。ではこちらへ。」
祭壇の近くに魔方陣が彫ってある床があった。どうやらあれが契約するための場所らしい。
「魔獣をその輪の中に。後、血を貰ってください。」
え?血って必要なの!?
ちょっ、ちょっとヴォルティスったら!そんなナイフを私に向けないでよ!
『クゥーン……』
へにゃり……
耳と尻尾、お髭がしなるのが分かる。ヴォルティスがプルプルと震えているのも分かった。それが笑いたいのか、緊張なのかは分からないけど。恐らく笑いたかったからだろう。でも実際は……
(何だこの可愛さは!?反則だろう!ああ、耳があんなに萎れて……。尻尾も股の下に隠れてる。プルプル震えてなんて可愛いんだウルウはっ!?)
ヴォルティスは内心でウルウの可愛さに悶えていたなど本人は知らなかった。
「さあ、一瞬だからね。少し血を貰うだけだ。大人しくしたらミルクにイーゴの実を入れてやろう。」
『キュ!キュ!』
イーゴの実とは苺のこと。苺ミルクを楽しめるとはなんて豪華なのでしょう!痛いのなんてもう気にしません!一思いにやっちゃってください。私の気が変わらないうちに。
「何とも食い意地の張った魔獣ですな。」
ヤシル神官長、それは乙女に言ってはいけないですよ。
チクッと耳にナイフで傷つけられました。ギュッと目を瞑っていましたが、どうやらナイフの先に血が採れたようですね。
「その血を契約する媒体に塗りつけてください。そして貴方の血も媒体に。そして女神に宣言なさい。」
媒体は首輪になりました。翡翠色の五百円玉位の大きさの石です。この世界ではロロア石という名前らしい。あ、ヴォルはウルウ石のネックレスを媒体にするらしいよ。地球の色に似た美しい石でした。
媒体に互いの血を塗りつけ、最後に魔方陣に塗りつけました。すると、魔方陣から不思議な力が溢れ出しました。
『キュ!?』
「大丈夫だ。」
だって魔方陣が光ってるし、風が下から吹き付けてくるんですよ!?異世界初心者の私が慌てても仕方ないと思うのですよ。
「我誓う。女神リリクレアに生み出されし我が兄弟と我が命が尽きるその時まで共に生きることを。支えることを。我、ヴォルティス・シェライザーとウルウはリリクレアに誓うものなり。」
『キュ!』
何となくだけど私もリリクレア様に誓った。私の気持ちもリリクレアに聞いて欲しかったから気分とノリで。
光が収まり、気がつくと私の小さな首にはロロア石の首輪が付けられていた。ヴォルにもウルウ石のネックレスが。
「これで俺とお前は正式なパートナーだ。これからも宜しくな。」
『キュ!キュン!』
こちらこそ、役立たずにならないように頑張るよ!これからもずっとずっとよろしくね!
こうして私、ウルウとヴォルティスは正式なパートナーになった。
まだここは出発点に過ぎないけど、ヴォルティスと一緒なら異世界生活もなんとかなりそうだと思う。
ヴォルティスと幸せを見つけたいな。