友達になりましょう!
大変長らくお待たせしました。久々の更新です。
読者の一人にメッセージを頂き、何とかやる気を出して書き上げました。お待たせしたことを申し訳なく思っています。
おはようございます。今日も素晴らしい快晴。心地好い光と風が穏やかに私を包み込んでくれています。私の毎朝の日課は部屋のカーテンと窓を開けて空気の入れ替えをすることです。ヴォルとライトさんには心地好く起きてほしいから、こんな子狐でも出来ることを精一杯頑張っているのです。
いや~、しかし美形の寝顔は麗しくていけませんね!窓から照らされる太陽の光が二人に降り注ぐものだからキラキラと輝いています。ご婦人方が見たら気絶ものでしょうね。
「ん……ウルウ?」
『キュン!』(あ、起きた?おはよう!)
冷たい風で起きたのか、まだ寝ぼけた表情のヴォルが上半身を起こして私を探していました。
私はピョン!と飛んでヴォルの腕の中に収まります。そして空かさずにヴォルが私をもふもふするのです。これは最早朝の恒例行事なのです。ヴォルは完全に覚醒するまでボーっとする癖があって、少し時間がかかるのです。それまでこの私が自慢の極上の毛を提供しているのです。私は甘えられるし、ヴォルは癒される。まさに一石二鳥。
「ふぁ……またやってんのかよヴォル。オレにもウルウを貸してくれ。」
気だるげに起きたライトさん。彼もまた私の毛皮の信者&中毒者でもあります。勝手にヴォルのベッドの隣に潜り込んで私をヴォルから拐います。
「ん。今日も最高の毛艶だな。」
『きゅ~……』(あ、そこ、気持ちいいですぅ……)
「こら、ライト。ウルウの身体を撫で回すな。ウルウもマッサージくらい俺がやってやる。」
ライトさんはどうやら私の気持ちいいポイントを熟知しているようで、絶妙な力加減でマッサージしてくれるのだ。首筋を優しく揉み、首筋を掻いてくれます。肉球もモミモミしてくれて、毎朝の日課とはいえ天国ですよ天国!対してヴォルは自分にはライトさんのようなテクニックがないから嫉妬して私を奪おうと躍起になるのです。しかし、私がとても気持ち良さそうなのと、健康のために手出しが出来ない状態なのです。
「オレのテクニックを習得するまではウルウをオレから取り戻せないぜ?」
「この変態が。」
「おいおい、親友に変態はねぇだろ。男たるもの、女性を扱う術を持つことは誇れる事だろ?好きな女を喜ばせたいと思うならお前もスキルを磨くんだな。」
おいおい…朝からなんて会話をしてるんだね君達。あ、ヴォルも妙な決意をしないで!まだ女なんて早いよ!!ライトさんも挑発しないで!
騒がしい朝を何とかやり過ごし、やっと平和な時間が訪れます。
今日は初めての魔獣理論の授業が始まります。先生は王宮から来てくださっている魔獣使いのエキスパートで、壮年の男性だった。顔や身体中に咬み痕や切り裂かれた傷が沢山ありました。今は半隠居らしくて、たまに厄介な魔獣を世話しているらしい。
「俺の名前はクルド。魔獣専門職を長年やってきた。今日からお前らに魔獣の恐ろしさや生態、世話の仕方を叩き込んで、どこに出ても恥ずかしくない程度にしてやる。」
クルド教官はそれはそれは厳しい人でした。でも良くできた生徒を誉めて育てる事ができる良い先生でもあったのです。流石は魔獣専門家です。生徒も魔獣と同じく飴と鞭で手懐けてしまうのですね。
「魔獣は決して愛玩動物にはなり得ない。何故なら?クリスト・ハルルク。」
「は、はい!魔獣には愛玩動物と違って我々人間と同じく高い知性と心を持っているからです。また、誇り高く、彼等は誇りを傷つけられるのを何より嫌います。」
「そうだ。奴等は誇りを何より大切にする。だから契約するときは対価を要求してくる。例えば、ウルフ種をパートナーにした場合。大抵、奴等は召喚回数を制限してくる。何故なら奴等は孤高を誇りとする種族だからだ。群れを作る種もいるが、自分が認めた人間以外と馴れ合うのを嫌うめんどくさい奴等だな。クリスト・ハルルク、良く勉強できているな。お前ならもしかしたらウルフ種と契約できるかもしれんな。」
「あ、ありがとうございます!」
クリスト君は頬を紅潮させて大袈裟なくらい教官にお礼を言って座った。
どうやら魔獣理論の授業はクリスト君の得意とする科目のようだ。だって授業中のクリスト君の表情はとても楽しそうだったもの。キラキラ輝いていた。
「クリストは魔獣理論が得意のようだな。」
『キュ!』(そうみたいだね。だってとても楽しそうだよ。)
「クリストは気がついてないようだが、この学院の訓練に付いていけているだけでも他とはどれだけ差があるか知らないだろうな。レベルを下げた学校に行けば自分が他とは違うことを嫌でも気づくだろう。」
『キュウ?』(そうなの?そんなにヴォル達って化け物染みた人間なんだ?)
「他校から見れば、な。だからこそ俺達はこの学院に入学することを許されたんだ。人間というのは力を怖れる生き物だ。化け物みたいな人間がいれば排除しようとする。俺達が孤立しないのは、偉大な先人が学院と制度を整えて下さったお陰だ。」
『キュウ。』(そうなんだ。アレ?じゃあ、辞めていった人達はどうしているの?)
「彼等は国が管理している部署に就職させられる。個人の能力に合わせた所にな。だから、もし、クリストが辞めたのなら魔獣宿舎に送られたと思うぞ?」
『キュ。』(へぇ~。)
学校を辞めても生活に困らないのは良いことだよね。それに、自分に合った就職先に勤められるんだもの。
それに、こんな狭い世界で比べられて振り回されているクリスト君が不憫だと思う。比べる相手が化け物だらけじゃ落ちこぼれだと思うのはね。クリスト君だって充分優秀なのにさ。
「今の事はクリストには言うなよ?」
『キュ?』(どうして?教えてあげられたらクリスト君の悩みだって解決するじゃない。)
「自分より弱い存在がいることに満足を覚えて傲慢になって欲しくないからだ。やはり、俺達は規格外で力を使うと人を簡単に傷つける事が出来ることを自覚してほしいと思う。心を強くしてほしいんだよ。彼は優しくて素晴らしい才能の持ち主なんだ。最低な人間に成り下がってもらいたくない。」
ヴォルの言葉は難しくて良く分からなかったけど、クリスト君の事を心配しているのは理解できた。まあ、傲慢なクリスト君なんて想像出来ないけど。
授業が終わって昼食時間が来ました。勿論、クリスト君も誘います。あの日から私達はクリスト君も仲間に入れるようになりました。ヴォルとライトさんも内心では友達が欲しかったみたい。クリスト君の健気な所と優しい所が気に入っていると言ってました。
「まさか魔獣理論を得意とはな。凄いぜクリスト。」
「や、止めてください。僕はただの好奇心で読んだ本の内容をそのまま答えただけです。」
謙遜するのは彼の美徳だけど、自分の長所を自分で潰すのは勿体ないと思った。
「謙遜するな。それだけ魔獣のことを好きなんだろ?ウルウをこんなに可愛がっているのも魔獣が好きだからだ。そうだろ?」
「ライト様……僕は、その、魔獣がただ好きなだけの、それも趣味の延長みたいな感じなんです。僕の住んでいた村ではモウロウ(牛の魔獣)と共生していました。子供時代は彼等と過ごす時間がとても楽しかったんです。」
「ならば、その気持ちを長所にすればいいだろう。訓練はビリかもしれないが、魔獣に関しては俺達を超すかもしれないぞ。」
「そんな、ヴォルティス様っ!」
「それ、オレも思ったぜ。そうだよ、長所を活かせクリスト。何も騎士は剣術や戦術だけじゃねぇ。魔獣使いだって騎士にだって必須だしな。」
どんどんと二人に外堀を埋められていくクリスト君。二人の勢いに焦ってはいるが、段々と自分の長所を理解してきているようだった。
「オレ達も勢いで言ったけど、でも、魔獣理論は確かにお前の長所だ。……お前が落ちこぼれだって悩んでるのは知ってる。けど、オレ達は努力を惜しまないお前が気に入っているんだ。だから簡単に辞めて欲しくねぇ。」
「ライト様……」
「それに、様付けは止めてくれ。俺達はお前と友人なのだから。」
「そうだぜ?呼び捨てが無理なら「君」でもいいかさ。」
ウルウルと目を潤ませたクリスト君。それを乱暴にゴシゴシと拭ったクリスト君。バッと上げた顔には強い決意が伺えた。ニヤリとヴォルとライトさんが笑ったのを私はバッチリ見てしまった。
「僕は、僕はお二人の友人でいていいんですか?」
「おう。」
「俺達だけじゃない。ウルウも友人だ。」
『キュウ!』(私も友達だよ!)
「僕は、その、まだ皆さんの足手まといにしかなりません。けれど、いつか絶対に追い付いてみせます。胸を張って友達だって言えるように!だから、これから宜しくお願いします!ライト……君、ヴォルティスさ、いえ、ヴォルティス君!ウルウちゃん!」
『キュウ!』(はい!これから宜しくね。クリスト君。)
こうして私達は友達になった。
まさかこの三人組が後に英雄として後世の歴史に残るなんて今は想像も出来なかった。
この出会いがこれから私達にどのような日常を与えてくれるのか。それはこれから知っていくのでしょう。
歓迎しますよクリスト君!