白くて魅力的な彼女
《クリスト・ハルルクside》
……これは、どういう状況なのだろう?
現在、僕の目の前には彼女がいる。彼女はウルウちゃんと言って、一学年首席のヴォルティス・シェライザー様のパートナーの魔獣の仔だ。
ウルウちゃんとは情けなく泣いている時に庭園の花畑で出会った。
魔獣としては型破りなウルウちゃんは他人である僕の泣き言に付き合ってくれ、慰めてくれた。優しく美しい魔獣。
僕には彼女と出会い、触れることだけでも奇跡で幸運な事だったんだ。多分、いや絶対に一生分の幸せを使いきったと思える。
だから、そんな幸運は二度と来ないだろうなって思った。それに、もう騎士になることも諦めかけていたんだ。多くの同級生が学院を去っていく中、僕も去ろうと思ってたんだ。けど、未練たらしく授業を受けている自分がいた。どうして続けているのかなんて分からない。辛いと苦しいと思っているのにね。
だから今日も自分の気持ちも分からないまま授業を受けた。
そして……
『キュウ』
僕の目の前で首を傾げて見上げてくるウルウちゃんが座っている。
「ちょ、ちょっと!」
僕は内心嬉しく思っていても、焦った。だって、彼女はヴォルティス様のパートナーなんだ。僕なんかと付き合うほど易い身分ではない。
だけど、ウルウちゃんはそんな人間の都合なんて考えてはいない。アワアワと両手をさ迷わせていると、その手にスリスリと懐くウルウちゃん。
(う、わ~~……絹のような手触りだ……。)
理性を総動員させても、この極上の毛並みの前に塵にも等しかった。
『キュキュウ(どう?この毛並みの手触りは極上でしょう。)』
「だ、ダメなのにっ!で、でも止められない!」
終いにはウルウちゃんを抱きしめてしまった。軽くて柔らかくて、暖かい。何のシャンプーを
使っているのかな?とても上品で良い香りがした。
周りから嫉妬や好奇心に満ちた視線を受けるけど、今の僕には全く気にならなかった。今の僕には怖いものなんてなかった。
だから気がつかなかったんだ。
「あ~あ。ま、気持ちは分かるけどな。」
「……魔性め。」
首席のヴォルティス様と次席のライト様が近くにいることを……。
「あ……。」
僕は硬直してしまった。だって、憧れでもあるお二人がこんな近くにいて、僕に話しかけてくださっている。もう、頭の中は真っ白だった。
「よう!俺等の姫が迷惑をかけちまったみたいだな。けど、お前の事を気に入ったみたいだから大目に見てやってくれ。」
ライト様がニヤリと笑いかけてくる。燃えるような赤髪。両サイドには金髪が一房ずつあって、かなりの美形なのだ。青い瞳が凛々しく、将来を約束された容姿だ。
男の僕でもドキドキしてしまう。いやっ、僕には同性愛の趣味はないからね!
「す、すみません!すみません!すみません!か、勝手にヴォルティス様のパートナーを抱きしめたりして、不容易でした。」
ごんごん!と机に頭を打ち付け、謝る僕にライト様とヴォルティス様は笑って許してくださった。それどころか、ウルウちゃんが赤くなった僕の額を舐めてきたから、また慌てて謝罪をしたんだ。だけど、ヴォルティス様は「謝る必要はない」と僕の額を机に打ち付けるのを止めてくださったんだ。
「ぷっ。お前は面白いな。」
「お、面白い……ですか?」
「普通にしてくれればいいさ。ヴォルティスは貴族だけど、オレは平民だ。」
「……貴族だからと畏まることはない。ここでは騎士を目指す人間の一人に過ぎない。」
「けどよ、それは平民には酷ってものだぜ?貴族様には馴れ馴れしくできる訳がないしな。」
「それをお前が言うのか?全く説得力がないぞ。」
ライト様はごく自然にヴォルティス様と接していた。貴族であることなど気にしてない様だった。お二人は身分を越えて、とても仲が宜しいようだ。
「ふふっ。」
お二人のやり取りを見ている内に何だか面白くなって、つい笑ってしまった。