長距離マラソンとウルウの舞
おはようございます。現在は早朝の4時を過ぎた頃。まだ辺りは薄暗く、キンとした冷たい風が吹いて寒いです。
「オラオラ!ちんたら走ってんじゃねぇーぞ!!」
アーノルド教官の監視の下、ヴォル達一年生は基礎体力作りの為に長距離を走らされていました。
「はぁっはぁっ、あ、あり得ねぇよ。こ、こんな朝っぱらから走るなんてよっ!」
「……無駄話をするな、体力が持たない。」
ライトさんは少し辛そうに走っているのに、ヴォルはいつもの無表情で余裕そうに走っていました。
「はぁっ、ウルウが、羨ましいぜ!」
ギロッと遠くからライトさんに睨まれる私。目が血走っていて恐ろしいです。
「お前は大人しいな。」
『キュ!』
私はというとですね、走る彼等に踏み潰されないようにアーノルド教官の隣でちょこんとお座りして大人しく見学してます。
本当なら隣のグランドで他の魔獣達とトレーニングしなくてはいけないのだけど、もう少し育ってからと理事長に止められました。
それでも体を鍛えられるようにって四肢に約20gの重りを付けて歩いています。たかが20gなんて思わないで下さい。ちょっと歩くだけで以外にズシッとくるの。足腰がプルプルして筋肉痛に苦しみます。今や私の体はゼンマイ仕掛けの人形のような動きなのですよ。初日なんかライトさんに爆笑されるという屈辱も味わいました。
さて、私の黒歴史は置いといてヴォル達を見てみましょう。
そろそろ走り込みも終わる時刻になります。3時間も走らせる訓練ですからね。ヴォルとライトさんは前列で頑張っているようです。そして、注目すべきは最後尾の少年ですが、彼はとても苦しそうに走っていました。
少年は橙色の天然パーマの可愛らしい容姿で、年の頃は……見た目は年下って感じです。ヴォル達は12歳なので年相応に見えます。でも天然パーマの少年は良くても8歳にしか見えません。いや、実際に8歳かもしれませんが。
その少年は皆さんからどんどん離されてしまい、一人で最後尾を走っていました。
「クリスト・ハルルク!!ペースを上げろ!何のんびり走っている!?」
彼はクリストという名前らしい。アーノルド教官に叱られて「ハイッ!!」と叫んで走る速さを上げた。根性はあるみたいだ。
「あと一周で終了だ!死ぬ気で走れ!!」
「「ハイッ!!」」
ようやく終わると聞いた彼等はどこにそんな体力が残ってるの?って思うほど速く走っていた。
「よっしゃ!オレが一番をとってやるぜ」
「……悪いがトップの座は渡さん。」
ヴォルとライトさんはどちらもトップの座を譲らず、お互いを睨みながら走っていた。全く元気な二人である。
その後ろには3人の少年達が走っていました。何か曲者の予感がします。だってあの二人のスピードに遅れながらも着いてきているから実力はあると思う。きっとヴォル達も彼等に気づいた筈。彼等に対してヴォルがどう接触するのか楽しみです。できれば友達になってくれると嬉しいな。
よし、そろそろヴォルがゴールに近づいている頃でしょう。私はヴォルを応援しなければなりません。きっとライトさんと1位を勝ち取るために競っている筈。
「うおおおお!負けねぇ!!」
「………………。」
ほら、来ましたよ!
「元気あり余ってるなライトは。」
アーノルド教官は呆れていました。まあ、私もライトさんのパワーには驚いています。
二人の距離は並行です。どちらも1位を譲りませんから、このままでは同着になりそうです。
しかぁ~し!!
私は優秀な九尾の狐です!ヴォルが勝てるように勝利の運を上げる舞を踊りたいと思います。
霊的な呪術はこの世界にありません。恐らくこんな事が出来るのは神様か私くらいでしょう。魔法で身体強化するのは反則ですが、運を上げたり、心を奮い起たせるのは問題ない筈。パートナーとして相方をサポートするのは当然ですからね。
先ずは狐火を6個出して私を囲むように配置します。
「ウルウ、何する気だ?」
『キュウ!キュウ~♪』
アーノルド教官。貴方にも見せて差し上げますよ。私の「勝利の舞」を!
狐火を青から赤に、赤から青に色を変化させてゆっくりと回ります。私は左右に小さく跳び跳ねます。
ピョン!ピョン!
狐火が真っ赤な色に輝き、私の頭上で半円に並ぶ。
ここからが本番!
『キュウ~♪キュキュ~♪』
メロディーは心のままに歌う。体をメロディーに合わせてステップし、上下左右に飛び跳ねる。
狐火が増殖し、私の回りを左右斜めに列を作って周り出す。余った狐火が私の足下を通り、私はそれを避けるようにステップする。
『キュキュウ~♪キュウ~♪キュウ~♪』
9本の尻尾を扇状に開き、狐火が照す。
祈るはヴォルの勝利。頑張って勝ってほしい。それだけをただひたすら祈る。
一方、ウルウの舞を見たヴォルティスはあまりの可愛らしい躍りに心が浮き立つのを感じた。何を思ってあんな躍りを披露したのかは分からないが、ウルウが自分を応援してくれているのではないかと感じた。
(ならば、期待に応えなくてはな。)
チラリとライトを見る。ライトもウルウの躍りに夢中になっていた。時々、「やべぇ~」「何だよあの可愛いさはっ」とか「あんなに尻尾を振って!」「今ウィンクしたっ!?」等々、ウルウの行動に夢中になっていた。
これはチャンスだった。残りは後500mだ。一気に加速すればライトより速く走り抜けるだろう。
グン!と脚の筋肉のバネを使う。大地を強く蹴り、その反動を上手く利用する。脚を素早く動かし、両腕を大きく動かす。
「なっ!?」
追い抜いた俺に驚いたライトは一瞬呆然としていたが、直ぐに意識を切り替えて加速してきた。だが、そう簡単に追い抜かせはしない。
しかし、何故だろうか。体が軽く感じる。そして負けると思えないのだ。心の底から「自分は勝てる」と沸き上がってくるのだ。何の根拠もないのに馬鹿のように感じる。
もしかすると、ウルウのあの躍りに身体強化か心に作用する効果があるのかもしれない。
ウルウの能力はまだ未知数だ。あの躍りも何の効果があるのか、これからは調べていく必要がある。
(後は、もっと可愛らしい躍りがないか見たいしな。)
「1位ヴォルティス・シェライザー。2位ライト・ビザイル。」
そして俺は1位となった。
『キュウ~♪』
喜びを醸し出して飛び込んでくるウルウ。
「お前の応援のお陰で1位になれた。ありがとう。」
『キュウ!』
本当に最高のパートナーだ。




