誓約と役目
殿下は思いっきり私を堪能した末にやっとヴォルの所へ戻してくれました。因みに私のHPは底辺です。これがポ○モンのモンスターだったなら瀕死のアラームが始終鳴り響いていたでしょう。キズくすりの代わりに何か飲み物を飲ませて欲しいです。
さて、おふざけはここまでのようです。殿下がまた威厳ある王太子になりました。キリッとしていて、思わずライトさんに続いて背筋がピッと伸びてしまいました。
「さて、ヴォルティス・シェライザーとライト・ビザイルにここに呼ばれた意味を教えなければならない。君達が首席と次席になったからには避けては通れない問題だ。」
殿下は上に立つ者として非情な態度をとっていた。一体どんな問題なのだろうか?
「このイグドシア騎士学院は今や世界各国のどの学校にも追随を許さない。最高で最強の騎士を輩出する学校だ。だから君達生徒には過剰な期待を寄せられる。それは理解しているだろう?」
「はい。」
「オレ達は並みの騎士として卒業する訳にはいかないという事でしょう。それは理解しています。」
ヴォルとライトさんは臆することなく堂々と答えていた。二人は首席と次席としての覚悟と自覚を持っているんだと感じた。
「うん。でも、首席と次席の君達は更に過酷な期待を寄せられることになる。この学院では、首席と次席に各国の学校へ留学に行ってもらうのだよ。」
「留学ですか?」
「……だから三年の首席と次席が居ないのか。」
ライトさんはどうやら心当たりがあるみたいですね。三年の首席と次席が居なかったのですか。ということは三年生から留学に行くということなのかしら?
「殿下、留学するとなるとイグドシアでの勉学や鍛練は他の生徒より遅れてしまうのでは?」
「だからこそだよ。首席と次席は他の生徒より優秀で実力がある者を選んだ。そして、他国で外交も担う事にもなるから人格や家族構成、身辺調査も行った上での決定だ。」
「他国に留学すればそれだけ経験が積める。道中の暗殺や山賊、魔物の襲撃。他国の王族や貴族のいざこざ。それはもう、毎年混沌としているらしい。」
理事長、それは洒落になってないよ。特に他国の王族や貴族のいざこざってナニをやらせてるんですか?!
「あ、あの……他国の王族や貴族の問題まで首を突っ込まなければならないのですか?オレ、庶民なんですが……」
「フム。次席なら王族や貴族はこぞってお前を血筋に加えたいだろうな。優秀な人間の血を取り込めばその子供にも受け継がれていくものだ。そうすればその家は繁栄するからの。」
「要するにオレ達は彼等からすればブランドの種馬なのですね。」
「ライト、下品な言い方をするんじゃねぇよ。」
アーノルド教官がライトさんをたしなめた。確かに下品な言い方です。
「実際に我が校から数名は他国の婿になっている。隣国の公爵家に首席が婿になって我が国の外交に一役買っているぞ。」
うわぁ……。
分かってはいたけど、結婚も政略的な意味合いもあるんだね。その首席さんは他国の婿でありながらスパイ活動もしているって事なんだ。
「この国ではね、優秀な騎士を他国に留学させて人脈を作らせたり、婿に行ったりすることを推奨してきたんだ。お陰で外交に強く、軍事力も馬鹿に出来ないほどに成長してくれた。一重に彼等の変わらない忠誠心のお陰だよ。」
何だかゾッとします。彼等はこの国の為に愛する人をも利用しているのですから。
「……話は何となく理解しました。私達には留学先で経験を積み、人脈を作ることが任務として課せられる……ということですね。」
「結婚も政略的な条件付きで探せと。」
「うん。理解が早くて助かるよ。」
「別に無理して結婚はしなくてもいい。ただ、結婚するなら相応の対価を課せられると思ってくれれば良い。だが、お前達は恵まれとるぞ。一般の騎士なら例え他国の姫達と恋仲になろうとも決して結ばれることはないのだからな。その点、イグドシアの生徒は恵まれとることを忘れるなよ。」
理事長の言葉に成る程と思った。地球なら普通の大学の卒業生よりも東大とか有名な大学の卒業生の方が良いと思うもの。……私の友達も彼氏が高学歴の人を選んでいたみたいだしね。優秀な人間だとイグドシアが証明しているから血筋に関係なくお婿さんに貰ってくれるのよね。本当にブランド校なんだな。
「後は留学先で孤児を拾ってくる事も任務としてある。」
は?
「我が国では孤児を浮浪者にはしない。人間誰しも多くの可能性を秘めた原石なのだよ。例えば、アーノルドも隣国の孤児だったんだよ。」
驚いてアーノルド教官を見る私達。
「その当時の次席様に赤ん坊だった俺を拾ったんだよ。魔力が強かったらしくて連れ帰られた。」
教官はどうでもいい事だと言う風にサラッと自分の出生を話す。
「アーノルドのような人間は全て歴代の首席達によって保護されたんだ。だから君達にも金の卵を沢山連れてきて欲しい。」
ニコッと笑う殿下にライトさんは顔を引きつらせていた。ヴォルも若干引いていたわ。私もかなり引いたわ。政略結婚だけじゃなくて孤児の保護も国の利益の為だと思うと、良い事をしている筈なのに素直に頷けない何かがあった。
……慈善事業だけでは世の中が回らないと証明されているみたいで嫌だわ。
それから何点か役割を説明されて終わった。
最後にこの場のやり取りを決して外部に漏らさないこと、これらの任務を受けることを魔法の力で誓約させられました。
誓約は魔法の用紙に自分の血で署名をする事だった。
破れば自身の命で償うこと。つまりは死あるのみである。
そんな無茶苦茶な誓約だけど、ヴォルとライトさんは臆することなくスラスラとサインを済ませて退出していった。
部屋から出た二人はとても好戦的な表情をしていました。
「留学だってよ。何か楽しくなってきたな!」
「政略結婚には興味はないが、他国で実践ができるというなら歓迎だな。一生をつまらない訓練に費やしたくはないからな。」
「同感だぜ。」
おやおや、二人は戦闘狂なんですかね?
でも、恐怖や不安に駆られる姿よりは良いかもしれない。学生生活が二人にとって楽しいものになるなら良いと思う。
「三年になるのが待ち遠しいな。」
「なに、あっという間だろう。」
そうだね。楽しい時間はあっという間だよ。
それまでは沢山勉強して堂々と留学しようね!