名前をくれました
彼……ヴォルティスに拾われてから一週間経ちました。その間、私は体を休めることに専念し、ミルクを沢山飲みました。今では皿から飲めるまでに回復しましたとも。
さて、ヴォルティスは予想通り人間の貴族でした。しかも王家に次ぐ地位の公爵。王族の血の近しい一族です。ヴォルティスの家名はシェライザー公爵家らしいですが、ヴォルティスは家名をどうやら嫌っている模様。私が思うにファンタジー小説によくある設定と同じだろうと思うのですよ。まあ、今のところは知りたいとは思わないけど。
あ、そうそう。私ね、ヴォルティスに名前を貰ったのよ!
「その蒼い瞳に因んで『ウルウ』にしよう。ウルウ石というお前の瞳の色のような宝石がある。お前の名に相応しいだろう。」
それから私は『ウルウ』になりました。
「ウルウ。」
ヴォルティスが呼んでいます。私は小さな4本の足を必死に動かして彼の元へ急ぎます。
「今日は入浴の日だから一緒に入ろうか。」
『きゅっ!?』
お風呂!いいですね。私はお風呂が大好きです。
嬉しくてはしゃぐ私をヴォルティスは苦笑して抱き上げてくれました。そして優しく頭から背中を撫でてくれます。彼はとても暖かいので、ついウトウトとしてしまう魔法の手の持ち主です。
ザバァー……
ここの屋敷のお風呂は大きいです。と言っても小さな旅館のお風呂くらいの大きさしかありませんが。でも、天然の温泉を引いているだけあって毎日お風呂に入れるのだから十分でしょう。
「お前は本当に風呂が好きだな。」
そういう貴方だってほぼ毎日お風呂に入ってるじゃないですか。因みに私は体の皮脂が人間と違って弱いから毎日は入れないんです。残念です。
「ほら、泳いでないで洗うぞ?」
『くぅ!きゅ!きゅっきゅっ!』
ヴォルティス……いや、ヴォル!尻尾をそんなに弄らないで下さいよ。くすぐったいです!
ジタバタするけど子供のヴォルの手で簡単に抑えられる程に小さい私の抵抗なんて無駄でした。
ヴォルはそれはそれはいい笑顔で、S気質があるのでは?と私は青ざめましたとも。
執事のアシルドさんにお世話されてモフモフに戻った私を再びヴォルが抱き上げて頬擦り。
「ウルウの毛皮はやはり極上の絹のようだな。」
この毛皮をお気に召されて良かったですよ。どうか、刈り取るなんて言わないですよね?
「ウルウ、あと一月位したら共に王都へ行くぞ。そこで俺は騎士の学校に行く。王に仕える騎士になりたいんだ。だからお前は俺のパートナーとして共に来てくれないか?」
え?ヴォルは騎士になりたいの?だってヴォルは公爵の跡取りなんでしょう?あ、もしかして騎士になりたいから公爵家を嫌っているのかしら?
それよりパートナーって私も一緒に連れていってくれるの?
そんな私の問い掛けに答えるように「お前を置いていくなんてするわけがないだろう。」と頭を撫でてくれた。
『キュ!』
私は喜んで返事をしました。ヴォルの懐に飛び込んで胸にスリスリした。
「これで俺達はパートナーだな。明日は神殿に行って正式に契約しよう。お前に合う耳飾りか首輪……腕輪もいいな、用意しなくては。」
パートナーってそんな面倒な手続きが必要なのね。それに耳飾りとか必要なのか。だったらヴォルの瞳のような碧色の飾りが欲しいわ。きっと寂しいときもその色があれば我慢出来ると思うの。
明日が楽しみだな。