初めての出会い
ふと、良い匂いがして目が覚めた私。
「やっと目が覚めたか。」
子供の声がする。それもかなり近い位置で。視線を向けると金髪と翡翠色の瞳を持った絶世の美少年が私を見下ろしていました。なんだか乙女ゲームに出てきそうな玲瓏な雰囲気の美少年です。年の頃は10才位でしょうか。気品がある貴族風……いや、お貴族様なのでしょうね。
「執事に用意させたミルクだ。お前はまだ乳飲み子だそうだな。これしか用意されなかった。」
彼は私の事を何とも思わないのでしょうか?優しく抱き上げてくれ、そのミルクを少しずつ指先に掬って飲ませてくれました。
チロチロ……
彼の指先に付いたミルクを舐めます。小皿から直接飲めばいいのでしょうが、今の私にはそんな体力はありませんでした。
「大人しいなお前は。野生の魔獣は子供でも歯向かうというのに。」
え?魔獣……だったんですか私は。
「それに九本の尾がある魔獣なんて見たことがない。お前のような魔獣は確認されてないしな。新種か或いは突然変異かもな。」
彼はそう言いながらも私にミルクを与え、そして優しく口を拭ってくれました。
「よし、全部飲んだな。いい子だから大人しく寝るんだ。また後でミルクを飲ませてやる。」
それは大変ありがたいです。でも、どうして見ず知らずの魔獣なんかを助けてくれたの?人間を襲うんでしょう?……でも、ま、いいか。こうして優しく撫でてくれるのは悪い事でもないし。それに彼は私に優しくしてくれたもの。
そして私はまた眠りについた。
魔獣の子供が寝た。そしてタイミングよく入室してき執事のアシルドはメイドに小皿を片付けさせて俺と向き直った。
「ちゃんと飲んだようですね。しかし、ヴォルティス様、幾ら子供でもこれは魔獣ですよ。手ずからミルクを飲ませるなど、指を噛み千切られでもしたらどうするつもりですか。」
こいつは過保護で口煩い執事のアシルド。年齢は後1年で20歳になる。茶髪の髪を後ろに撫で付け、鋭い眼差しがその美貌を冷たく見せている。だが、アシルドは外見とは裏腹に情に篤い男だ。現にこの魔獣の子供を保護することを協力してくれたのだから。
「これだけ弱っていれば噛み千切られることなどないさ。それにまだ子供だ。乳を吸う以外の事など考えもしないさ。」
「それでもです!貴方に何かあればこのシェライザー公爵家はどうなりますか。」
シェライザー公爵家とは俺の家の事だ。俺はシェライザー公爵の嫡男であり、唯一の跡取りだ。しかし、父上は後妻との子供に跡を継がせたいらしく、妹ばかり産ませては落胆している。
「あの愛に生きる父上が後妻殿と弟を産めば用無しの嫡男だろう。」
俺は前妻の母上の一人息子だ。父上とは政略結婚で母上は父上の事を愛していたが、父上は後妻の「メアリーナ」の事が忘れられず、母上を蔑ろにして愛人のメアリーナだけを愛していた。母上は心労が祟って俺が5歳の時に亡くなった。
父上はこれ幸いとばかりに喪が開けないうちに非常識にもメアリーナと再婚した。しかも愛人時代に出来ていた俺の一歳年下の妹を連れて。
「俺は騎士として王に仕えるつもりだ。あんな人間の屑の跡など継ぐつもりはない。この屋敷の使用人を養う事は出来るから王都に共に連れて行く。後は父上の頑張り次第だ。後は知らん。」
「……もうそこまで準備をなされたのですか。」
当たり前だ。このまま何もしないでいれば勝手に婚約者……自分の腹違いの妹の誰かと婚約させられ、結婚させられるではないか。この国では異母兄弟、異父兄弟との結婚が認められているのだから。誰が愛人の血を引く女と結婚などするものか。父上の血をこれ以上濃くしてたまるものか。
「分かりました。ですが、この魔獣はどうするおつもりですか?」
「簡単なことだ。俺のパートナーにしてしまえばいい。」
「貴方というお人は……」とアシルドは呆れていた。
「それにこんな美しい魔獣は見たことはない。ユニコーンやペガサス、ドラゴンより優美で美しくなるに違いない。」
しかもこの毛艶。メイドに洗わせれば白銀に輝く真っ白な毛だ。尾も柔らかく何とも触り心地の極上なことか。更に目を覚ませば愛くるしいこと。
「何れはパートナーを選ばねばならない。ならば俺はこいつにする。」
出会ったのも何かの運命だ。
「どんな魔獣になるのか、楽しみだ。」




