王都観光~歴史ある時計台~
噴水広場の次に連れていってくれた場所は王都で唯一の時計台である。レンガに魔石の粉末を混ぜているらしく、七色に淡く輝いていて、とても幻想的でした。
ゴォーン……ゴォーン……ゴォーン……
煩いけど耳に心地良い音でした。
「この時計台は初代ライシルド国王の親友が建てた時計台で500年間変わらず立ち続けている。この国の象徴のようなものだ。」
それは凄いですね。昔の人ってそんなに高い技術を持っていたのでしょうか?持っていたならこの世界は地球のように技術力が高くなっている筈なのです。私の予想ですが、その親友さんは私と同じ転生者だったのかもしれませんね。
「今日の観光は時計台で終わりだ。もう夕方になりかけてるしな。」
時計台の時刻を見ると午後4時を過ぎておりました。空も少しずつ赤く染まっています。夕日です。綺麗ですね。
『きゅう』
「どうした?」
いえ、今日は観光楽しかったです!だからありがとうって伝えたいのです。でも、喋れないし何もできません。
シュンとしていると出店の方で何かざわめきがありました。何だろうな?って思っていると私達目掛けて透明の魔石が飛んできたではありませんか!
『キュウ!?』
「ヴォルティス様、お下がりください!!」
アシルドさんと護衛の方々が守ろうとしてくれましたが、小さな魔石は彼等を掻い潜り、私達の目の前で急停止したのです。……軽くホラーですよ!
「ウルウ、触るなよ?」
ヴォルは魔石を警戒してジリジリと後退しますが、魔石は一定の距離を保ったまま離れてはくれません。
私は怖いと思うのに、何故か魔石が気になります。よくよく見ると魔石には何の属性も感じられませんでした。だからでしょうか、何か物足りなく感じるのです。
『クゥ……』
この魔石に色を付けてあげればもっと凄い魔石になる。私だけの魔石になる。
ヴォルが慌てて止める間もなく、私は彼から飛び下り、魔石に近づきました。魔石は近寄っても避けることはしません。魔石の目的は私だったようです。
「ウルウ!!」
駄目ですよ、私はこの魔石を私の物にしなくてはいけないのですか。そうだ、ヴォルへのプレゼントにしよう!ならもっと凄い魔石にしなくては!
私の口からポアッと蒼白い炎が吐き出されました。これは狐火です。私の魔力が込められた炎。それを5つ程出して魔石に吸収させました。
その5つの炎に魔石に願いを込めました。
一つ、魔力増強
一つ、結界機能
一つ、瞬発能力増強
一つ、毒無力化
一つ、運の向上
この魔石は【九尾の勾玉】と名付けました。魔石は私のイメージ通りに変化しました。私の瞳と同じ色の勾玉です。自分でも驚いていますが、何故かこんなことが出来ると本能で知りました。作り方も本能で何となく。でも、初めてにしては良い出来上がりです。
出来た勾玉をくわえてヴォルに差し出します。これはヴォルの為に作ったのですよ!
「……お、俺にくれるのか?」
呆然と事の成り行きを見ていたヴォルは信じられない思いでいっぱいの表情でした。でも、私の勾玉を素直に受け取ってくれたのです。
ヴォルが手に持った瞬間、勾玉が光り、ヴォルのパートナーのネックレスに勾玉が追加されました。
「これはウルウの魔力……この魔石に自分の魔力を込めたのか。それに俺の身体能力に変化があるな。」
「お体の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、どうやらウルウが魔石にアビリティの追加をしたようだ。ウルウには驚かされる。魔石に自分の考えた機能を入れられるようだ。」
皆さんはとても驚いていました。もしかして私ってかなりヤバイことをしちゃったの?
ヴォルの顔色を伺うように上目で見上げます。不安で耳をちょっぴりヘタレて。
「うっ!」
ヴォルは口に手を当てて頬を赤く染めてしまいました。そして私を素早く抱き上げたと思うと、周囲で悶えていた野次馬の人達を睨み付けてから時計台を後にしました。
馬車の中、私は今日1日の楽しかったことを思い出しながらヴォルの膝の上で眠ってしまいました。ヴォル達がそんな私を複雑そうに見ていたことも知らずに。
~ヴォルティスside~
今日、ウルウが見せた能力に俺達は驚きを隠せなかった。
「魔石にアビリティを付けられる魔獣など聞いたことはありません。出来るとしたら聖獣か神官、後は魔族くらいでしょう。」
その通りだ。未だかつて魔獣が魔石に能力を使うなどあり得なかったからだ。魔獣にとって魔石は餌であり、能力増強のアクセサリーであるだけの代物だった。決して魔石を生成したり人間のように魔石を操ることはしない。
「面倒な事になったな。これを貴族共が知ったらどうなることか……」
「もう知られていることでしょうね。ですからこれまで以上に目を離してはなりませんよ?」
これからの事を考えると嫌気が差すが、これもウルウと共に生きる為ならばと気を引き閉める。
膝の上で安らかに眠るウルウに、これからは何があっても守ってやろうと決意を新たにしたのだった。
~ヴォルティスside end~