王都観光~文具店は脅威!?~
アシルドさんの腕の中でウトウトしていたらヴォルに「浮気者め」と虐められた私。本来、魔獣とはパートナー以外に心を許さない性質なのだそうだ。愛玩用魔獣も主人になった者以外に懐かない。それを私は丸無視してるのだから規格外の存在と分かる。でもね、言い訳させてもらえばアシルドさんはヴォルが信頼する人だからで、彼がヴォルを裏切らないと思ってるから身を委ねられたんだよ。これがさっきのお店の人達ならウトウトなんてしてないもの。
『きゅうきゅう!』
だから機嫌を治してよ。
ヴォルの頬を舐めたり、首筋に頬擦りしたり、極上の9本の尾で顎をモフモフさせたりと、破格のサービスを使いまくりました。結果、モフモフの魔力に負けたヴォルが私の肉球と尾に触りまくってご機嫌になったみたい。ふふっ、モフモフは正義なのよ!
「今度浮気したら許さんからな。」
とか言ってるけど、ヴォルだって本当は理解してるんじゃないかな?私が懐くのはヴォルの身近な人だけだって。でもね、私の一番はヴォルなんだから信じて欲しいな。
そうこうイチャイチャしている内に次の目的地に辿り着いた模様。
シャキン!ジャキン!
「ぎゃあああ~……!!」
ヒュンヒュン……ザク!グサ!
「ひいいいい!?」
その店の中から何やら不穏な音と断末魔のような悲鳴が轟いていました。道行く人々は何やら拝んだり哀れんだり……様々な方法で犠牲者?の方々の心配をしておられました。
『きゅ……きゅうぅ?』
ねぇ、ここに何の用があるの?ここって何の店なのかな?
「相変わらずのようだなこの店は。」
「はい。変わった店ですが、どの店より品物は確かですから刺されようと斬られようと客は来ますからね。」
「刺されようと斬られようと」だと!?どんな店だよそれ!?
看板には【怪奇の文具店 文暴具】と書いてありました。文暴具ってダジャレですか?
ヴォルが勇敢にも店の中に入ってしまいまして、私は拒否する間もなく恐怖の文具店に足を踏み入れてしまったのです。
中には地球で見たことのある文具が沢山ありました。でも不可思議な光景がそこにあったのです。それは先程の悲鳴の人物と思われる二人がハサミやペーパーナイフに壁に縫い付けられた状態で気絶していたのです。キリストのように十字に張り付けにされたその姿は処刑でもされたかのようでした。ハサミ達が彼等の体に沿って所せましと突き刺さってるので余計に怖いです。
「全く気性が荒い文具だな。」
気性が荒い文具ってどういうこと?
怖くて懐から出られなかったけど、「フヒヒヒ……」という不気味な笑い声が近くから聞こえてきて更に体を震わせました。
「ようこそ……我が文暴具店へ。」
フヒヒヒ……と不気味に再び笑う。彼は長い灰色の長い前髪を貞子のように垂らして口許だけがニイッと三日月に持ち上がっていた。
『きゅ!?きゅううう!!!』
わ、私っホラーはダメダメなんです!全身の毛が逆立つのが分かります。この人は無理です、怖いですよ!!
「シュベル、あまりからかわないでやってくれ。」
「フヒヒヒ……余りにも良い反応してくれるから脅かし甲斐があってね。いい怯えだ。何か胸の奥がムズムズするよ。」
こ、この人変態ですよ!?ドSの変態バージョンだ!
「ウルウをからかって良いのは俺だけだ。」
「フヒヒヒ……ヴォルティス様にもようやく子羊をパートナーに選ばれたのですね。貴方様は私と同属の性癖の持ち主だ。苛め甲斐がある子羊がいれば……本能が疼く。フ、フヒヒヒ、ヒャハハハ!!」
こ、この人は本当に狂ってるよ!何なんですか一体。
「……お前と一緒にされたくない。それより文具が欲しい。」
「ではご自身で見つけてください。私は待っております……」
どうやら彼は手伝うつもりはないらしい。まあ、一緒にいられるよりマシだけど。
「ヴォルティス様、慎重にお選びください。」
「分かっている。あの者達の二の舞になりたくはないからな。」
たかが文具を選ぶのに何を慎重にしなければならないの?それにあの張り付けにされた人達ってシュベルさんに襲われたからじゃないの?
ヴォルが羽ペンやインク、用紙など様々な文具を手早く籠の中に入れていった。すると、近くの文具が独りでに宙に浮いてヴォルを襲ってきたのです!!
『きゅうう!?』
「ちっ!」
な、な、何事ですか~!!?
ハサミやペーパーナイフ、針などヒュンヒュンと襲いかかってくる。それをヴォルが結界でガードしたので何とか無事でした。
「全部揃いましたか?」
「ああ、問題ないようだ。」
『クゥゥ!!』
問題ないですって?ありまくりでしょう!?何でそんなに平然としてられるのさ!
「ここの文具にはある一つの意思が宿ってるんだ。シュベルだけが造り出せるのだが、この文具達は使い手を選ぶんだ。力量不足の使い手が触れてしまうと襲いかかってくるんだ。」
それって勇者を選ぶ聖剣のようだね。
「先程俺を襲ってきた文具は俺の力量では扱えない。結界で弾き飛ばさなくては怪我をしていただろう。」
「会計をお願いする。」
アシルドさんが会計を済ませてくれたみたい。もうこんな店は嫌よ。
「こんな恐ろしい目に遭っても、シュベルが造った文具は一流の品だから無視できないんだ。」
成る程、納得です。でも、シュベルさんの趣味と実益を兼ねた素晴らしい商売だと思いますよ?彼は変態ですから皆さんの悲鳴と反応を見て楽しんで商売をしてるでしょうから。
「フヒヒヒ……また来てくださいね。キミみたいな可愛い子なら格安にしとくよ。」
冗談じゃないですよ!私を見ないでください!
『きゅ……』
早く行きましょう?ここから迅速に素早く!!
シュベルさんのねっとりとした視線での見送りを受けながらやっと文暴具店からの脱出に成功したのでした。
……二度と来ませんからね。