騎士学校からの手紙
王都に来てから5日経ちました。屋敷の方もやっと落ち着きを取り戻し、警備の問題も解決されたようです。だから明日辺りには王都の観光が出来るかもしれません。
トントン……
「ヴォルティス様、アシルドです。入ってもよろしいでしょうか?」
「入れ。」
失礼します……とヴォルティスの私室に入ってきたアシルドさん。今日も隙のない身だしなみです。格好いいです。
「学校から手紙が来ましたよ。」
「!そうか。」
どうやらヴォルが入学する騎士学校から手紙が届いたようですね。ヴォルは手紙を待っていたんだね。
いそいそと手早くペーパーナイフで手紙を開けた。中からは数枚の手紙が入っていた。
「入学許可状と必要事項の手紙だ。……丁度明日に街へ行く予定だったからついでに必要な物を揃えるか。」
「その方がよろしいでしょう。私もお供させて頂きます。」
観光はどうなったの?買い物になっちゃうのかな?
「この王都には様々な場所がある。だが、楽しいと思える観光スポットは商店街と近いから回れる。そんな心配そうな顔をするな。」
『きゅう……』
ご、ごめん。だって約束を忘れられちゃったのかなって思って……。楽しみにしていた分、残念に思ってしまったの。
しゅんと落ち込んでしまった。耳がヘタレたのが分かる。そんな私の態度にヴォルは苦笑して私を懐に入れてくれた。
「お前、観光を楽しみにしてたんだよな。それなのに俺の用事が入ってしまったから忘れられたと思ったのだろう?」
『きゃう。』
全くその通りです。ヴォルって私の考えていることちゃんと分かってくれるから大好きなんだよ?ただの魔獣ごときと思ってない所がヴォルの優しさなんだよね。普通は無視するのに……。
『クゥ……』
私ってばいつの間にか我が儘になっちゃってる。こんな私をヴォルが嫌いになったら……
「……暗いな、明日はお前が楽しみにしていた観光だぞ?」
「どうしたのでしょうね。いつもなら跳び跳ねる位に喜びそうなのに。」
……自己嫌悪してるだけなので気にしないでください。
~ヴォルティスside~
懐の中で大人しくなってしまったウルウを気にしつつ、再度手紙を確認する。
俺が入る騎士学校は「イグドシア騎士養成学院」という一流の学校だ。貴賤問わず、実力がある者なら誰でも学べるのだ。
「ウルウ専用の物を買わないとな。」
「パートナーの魔獣は学校の職員に預けられるようですが……」
「ウルウは俺が面倒見る。考えてもみろ、巨大な魔獣の中で子供が一匹、喰ってくださいと言ってるようなものだ。まだ生肉も食せないんだ。」
クッキーとかは食べるくせに生肉はまだ食べられないようで、体の大きさも拾った当初から変化は見られない。気が早すぎるのかと思うが……不安もある。
「学校で暮らす間に成長して、無事に成体になってくれれば臆病だろうが、弱い個体になろうが構わない。」
「それでは貴方のパートナーが務まりませんよ?愛玩としてパートナーにしたわけではないのですから。」
そうだが、神殿で知ったウルウの力を考えると好戦的な性格より好ましいと思うのだ。それにウルウは世間知らずだから世の中を理解し、自信がつけば強い魔獣になると思っている。
「ウルウがこのまま育つ事が俺の一番の望みだからな。」
呆れた表情のアシルドをあしらい、俺は懐の中のウルウを優しく抱き締めた。
「可愛いな。」
このまま小さいサイズを維持できないかと考えてしまうのだった。
~ヴォルティスside end~