メイドのアイリ
王都に来てから3日経ちました。屋敷では未だに片付けが終わっていません。ヴォルとも寝るとき以外は会えない日々が続いています。貴族の引っ越しとはこんなに面倒なんて知りませんでした。
私はヴォルの手配してくれたメイドさんにお世話をされています。メイドさんの名前は「アイリ」。蜂蜜色のふわふわの髪をお団子に纏めている可愛い女の子です。笑顔が可愛い確り者のメイドさんなのです。
「籠から出ないで下さいね。」
『きゅ!』
私は常にアイリさんと共にいます。でもアイリさんだって仕事があります。ですから小さな木で編んだ籠に私を入れてアイリさんが肩に下げた状態で仕事をしています。
籠の中にタオルを敷いて私は中で大人しくしています。本来ならまだ親離れしてない子供の私なので魔獣専門家にこうするよう指示された結果なのです。そう考えるとヴォルの懐が落ち着くのも当たり前でした。
「次はお洗濯です。終わったら芝生で遊びましょう。」
『きゅ~!』
アイリさんはどんなに忙しくても私が遊べる時間を作ってくれます。運動も大事なので助かります。
パンパン!
洗濯物を伸ばす音が心地いいです。石鹸の香りが漂います。今日もいい天気で暖かい。最高の洗濯日和ですね。
「さて、洗濯は終わりましたよ。では遊びましょうか。」
『きゅ!きゅ!』
待ってました!
「今日はボール遊びをしましょう。」
アイリさん手作りの布のボールです。これをアイリさんが投げて私は走って取ってくるという単純な遊び。しかしこれが楽しくてハマるのです。犬が喜ぶのも分かります。
えい!と投げられたボールを追いかけ、私はコロンと転びながらもボールをくわえます。身体中草だらけでも気にしません。
「走るのが速くなりましたね。えい!」
狩猟本能が刺激されているのでしょうか。ボールだけに集中しています。身体中の血が騒ぐのを止められそうにないです。楽しくて楽しくて夕方になるまで私はボールを追いかけました。
その後はアイリさんにお風呂に入れてもらってやっとヴォルに渡されました。
「窓から見ていたが見事な走りだったぞ。あのアシルドがにやけていたのを初めて見た。」
アシルドさんが?
「滅多に笑わない堅物だから貴重な見世物だった。お前の可愛さは堅物にも効くようだな。次は是非とも笑顔が見たい。俺を笑わせてくれ。」
あんた、アシルドさんと私で笑いたいだけなんだね。本当にSなんだから。
「それと、明日から時間が出来そうだ。観光には警備が完全ではないから無理だが、庭で遊んでやる。」
『きゅ!?』
ヴォルが遊んでくれるの!?うわ~楽しみだよ!
でもまさかヴォルの遊びがあんな物騒だったなんて知るよしもなかった。




