あなたが生きている世界が
未成年はお酒を飲んではいけません。
「君は、どう思う?」
猪口を机に置いた大尉が私を見る。
「わ、私ですか」
膝の上に居た白猫ちゃんが、みゃぁと鳴いた。
「ああ、君の考えを聞いてみたい」
「うーん……」
小中高と2.26事件の大筋は習った。けれどそれで私がイメージすることといえば、こんな事件が起こったから、軍部は力をつけ戦争へと走っていった……。こんな感じだ。
だからあまりいい気はしない。
だけどこんなことを言うわけにはいかない。
「……東北の方、ですよね」
当たり障りのないことから、始めないと。
「ほう?」
「東北の方で、作物が駄目になったと、聞いたことがあります」
大尉の目が少し開いた。
「農家の方々は苦しんでいて……、身売りに出される娘さんもいたとか」
私は大尉の肩章を指差した。
「父親、長男は徴兵。女手、それと小さな子供だけで農業をやるには無理がある」
「……ああ、そうだな」
「私は、国のあり方を変えようとするのは難しいと思います」
安藤大尉はまた、猪口に口をつけた。目だけで続きを促す。
「例えば、……例えばですよ、……大規模な紛争が起こったり、………………戦争に、負けたり、して」
語尾が縮んでしまった。
「強制的に、システムを変えさせられたり、とか。そんな、感じだと思うんです」
世界的に見ても、国のシステムが変わるのはそのくらいしか思いつかなかった。
安藤大尉はふむ、と頷くと、
「君は、……この維新でこの国が変わることは難しいと、思うわけだな」
「ええ、……失礼かもしれませんが、そう思います」
大尉は眉を下げた。
「時期を、誤ったかもしれないな」
かたん。
猪口を机に置く音。
大尉はふと私を見ると、
「愚痴りすぎだな、俺は……」
自嘲気味に笑った。無言で席を立つ。
「お酒、かなり残ってますよ」
机の上に残された一升瓶。まだ全然なくなりそうにない。
「毒なんて入っていないから、警戒せずに呑むといい。私はこれで失礼する」
「大尉!」
靴を履く大尉の後ろから声をかけた。
「なんだ」
振り返らずに答える。
引き止めるための話題。話題……。
「っか、」
「か?」
「海軍は、お嫌いですか?」
何てこと聞いてるんだ私は!!
陸軍と海軍は犬猿の仲だとか知ってるのに!
「嫌いといえば嫌いかもしれんな」
安藤さんも真面目に答えなくていいから。
「どうして?」
「国力として比べられるのは、陸軍ではなく海軍だからかもしれんな」
くつりと笑う大尉。
正面衝突、はきっとない。きっと、ないだろう。
でも、私がここに紛れ込んだせいで、その事実でさえも曖昧になってしまった。
歴史は、違えさせてはならない。
「海軍が、向かって来ているんです」
「何?」
表情が曇ったが、次の瞬間に笑い出した。
「これは陸軍の問題だぞ。海軍の出る幕などないだろう」
むぅ……。
未来人の言うことは信じるのが得策なのに。未来人だと明かせないからもどかしいんだけど。
「永田町一帯に砲門を向けるつもりで、長門以下第一艦隊の艦船が! 海軍と陸軍の武力衝突なんて冗談じゃないですよ! これから第二次せか――んぐっ!!」
後ろから口を押さえられた。
黒い袖が視界の端に映る。
『余計なことをべらべら喋るな馬鹿』
息を押し殺すような、そんな声で。
私は無言で小さく頷いた。
鬼灯が手を離す。
「すみません、つい興奮して」
「いや、こちらこそすまなかった。では失礼する」
ふっと笑うと、小さくお辞儀をした。
お辞儀をし返したけれど、足元が少しふらついた。
「はい……、お気を付けて」
からからと扉が閉まる音がして、部屋は静寂に包まれた。
『お前な……』
上座には胡座で座る鬼灯(目力で殺されそうです)。
「は、はい」
『誰にでもべらべら喋るんじゃない』
声がぼやけて聞こえる。
「いや、でも……」
『長門以下第一艦隊出撃はまだ海軍の上層部くらいにしか知らされてないことだ。一般人のお前が知ってどうする』
頭がぐるぐるする……。
「す、すみませ……」
視界が真っ白になった。
あげいんあとがきこーなー
作者:おひさしぶりです。
鬼灯:そうだな。
作者:まずは褒めてくれ。
鬼灯:んー?
作者:春休み明けの実力考査で国語1位とった。
鬼灯:ふーんそうか。合計は?
作者:21位です。
鬼灯:まぁまぁじゃね?
作者:400人中だよ! 褒めてよ!
鬼灯:ここは作品のバックグラウンドを語る場であって、
お前の個人的な相談や自慢をする場ではない。
作者:はぁーい……。
鬼灯:ではまた。
作者:うん……。またね……。