あなたに逢ったら
更新が遅れています。申し訳ありません。
今回は新たな登場人物が!
「なあ、水曜だってよ」
「はい?」
遠慮も何もなく入って来られた部屋の中で、霧ヶ峰さんがぽつりと言った。
「賭け」
「ああ……そうでしたか」
「大丈夫なのか」
らしくもなく眉を下げてわたしを見下ろす。何かあったんだろうか。
「じゃあ、要件はこれだけだから」
「あの」
「なんだ」
「何でそんなに元気ないんですか? 桜子さんに振られましたか?」
内心、そうだったらざまあみろと思ってしまった。
霧ヶ峰さんは一瞬、ぽかんとした顔をしたが、すぐに笑いだした。
「あいつと俺は何でもないんだけどな。心配?」
「いいえ全く心配ではありません。むしろ桜子さんの方を心配しています。良かったです、桜子さんが可哀想ですけど」
「よかねぇよ。別に桜子は可哀想じゃねえだろ」
照れているのか、ふいと顔を逸らした。
「お似合いですよ」
「うるせぇ。それより、だ」
「はい?」
霧ヶ峰さんはどかりと腰を下ろした。ベッドの上に。ふざけんな。
足を踏んでやったけど、にやりと笑われるだけで退いてくれません。
「勝ったら出てくんだろ? いつ出て行く予定?」
嬉しそうに言わなくたっていいじゃないかと、少しだけ思う。
「……考えてませんでした。遠洋航海演習の時になると思います」
霧ヶ峰さんは小さく頷いた。
「成る程。そんなにすぐって訳じゃないのか」
「ですね。わたしの出立が気になるんですか」
「あー、まあな。ほら、俺優しいから酒の一本や二本くらい送ってやろうって」
「いりませんよ。わたし呑みませんし」
「ふーん」
そういうと立ち上がり、わたしの頭を撫でた。
「じゃーまたな」
「はあ」
『みゃあ』
どこに隠れていたのか、紅が出て来た。
「よしよし、どうしたの」
『みゃ……』
わたしの手にすり寄って、膝の上で目を閉じてしまった。動くなと言うことらしい。
「もう……」
紅の背を撫でているうちに眠くなり、うっかり目を閉じてしまっていた。
*
「起きろ」
「いやああああああああああ‼‼‼」
真正面、視界いっぱいに霧ヶ峰さんの顔が広がっていた。うえぇ。
「何叫んでんだ、起きろって!」
「出て行ってください!」
枕や何やらを投げつけ撃退。そのままベッドに潜り――こめなかった。
視界の端に時計を捕えてしまった。デジタル時計が指し示すのは、1030。
まっとうな人間ならもう働いている時間だ。
「きょ、今日は……水曜日じゃないですかー‼‼ 何で起こしてくれなかったんですか!」
「俺起こしたけど」
「もっと普通の方法で起こしんしゃい!」
「無理。がたがた抜かしてる暇があるなら着替えろ」
「分かってますよ‼」
左右の髪を上でまとめ上げ、軍帽に仕舞う。軍服にそでを通すと、なんだか背筋がしゃんとした気がした。制服効果みたいなものか。
「すみません。着替え終わりました」
「ああ、遅かったな、佐和くん」
「わーイソROCK☆さんがいるーどうしよーげんかくみちゃってるー」
「現実逃避するんじゃない」
ぱし、と軽く頭をはたかれる。見上げると、嬉しそうな顔をした霧ヶ峰さんが私を捉えていた。
「……ほら、挨拶」
せかされるように背中を押されて、一歩前へ出る。
「……おはようございます。山本さん」
「おはよう、佐和くん。そんなにふてくされなくてもいいじゃないか」
「安眠をこの方に妨害されましたので。なにとぞ減給処分をよろしくお願いします」
「ははは、手厳しいことを言うなあ」
五十六さんはにこりと笑うと、ぽんぽん、と頭を撫でた。
はずみで軍帽が落ちた。結い上げた髪が落ちた。
「……あ。すみません」
「いいさ、気にするな。海軍では長髪でも坊主でもパーマネントをしていても大丈夫だ」
「緩いんですね」
「まあそう言うな。好きな格好で闘う方が気合が入るだろう?」
面白い考えをしているな、と思った。が、今日はこの人に勝たなきゃいけない。
「そういえば、ここでするんですか」
「ああ、するよ」
「で、何で競うんですか」
五十六さんは唇に指をあてた。意地悪そうににやりと笑う。
「ここだ」
「は?」
「しりとり」
「何言ってるんですか?」
「私は真面目だよ。ただし条件がある」
「条件……」
「そう。使っていいのは兵器の名前のみ」
「あ、そうですか……って勝てるわけないでしょうが‼‼」
ばん、と机をたたく。痛い。
「おや? 君は士官学校のようなところに通っていると聞いたが?」
「現代の防衛大の兵器出しても分からんっちゃろ!」
「ああ、そういえばそうだな。まあ御託はいい。やろう」
「はああああああああ!?」
驚くわたしを尻目に始まるしりとり。不利なの分かってて言ってるのがむかつく!
「はい、はじめー。しりとり」
『 リュッツオウ 』
微かな声が背後で聞こえた。
「り……り……り……リュッツオウ……?」
「う、……畝傍」
『 ビスマルク 』
今度は確かに、硬い女性の声だった。
「び……ビスマルク……」
言われたとおりに口にすると、ほう、と山本さんの口からため息が漏れた。
「く、クールベ」
「それって人名ですよね」
「フランスの艦だよ」
「ベ……って……ありますかね……」
「へ、でもペ、でも構わない」
『 ペンサコラ 』
「……ペンサコラ……って……」
聞いたこともない。後ろの声が誰なのか、振り向きたいが振り向けない。
「ほう、アメリカの艦か。では、ラングレーでどうかな」
「それは、レ、ですか、エ、ですか」
「どちらでも構わんが……レ、にしようか」
「レ……」
『 レーベレヒト・マース 』
「れ、レーベレヒト……」
「ほう。新しい艦だな。レーベレヒト・マースだったか。では、す、だな。鈴谷」
後の声を頼ろうと思ったが、もう声は聞こえてこなかった。
や。何かあるだろうか。何か、「や」がつく船があった気はするんだけど……。
「や……や……矢矧……?」
苦し紛れに答えたそれは、はっきりと山本さんの耳に届いたようだった。
「なんだ、その艦は?」
……しまった、そうか。矢矧はまだ建造されていないんだ。だからこの人でも分からない。
そのことを考えてなかった。
「……て、訂正させていただいてもよろしいでしょうか」
「駄目だ。艦をでっち上げようとした君の負け! いいな! ははは、勝ったぞ」
「知らないのが悪いと思いませんか!」
「でっち上げはでっち上げだろう。そんな艦は、“存在しない”。よって君の負けだ」
「ふざけんなもう一回お願いします‼」
『 諦めろ 』
「っなんなんですか!」
『 五月蠅く騒ぐな、小娘 』
「……誰と話しているんだ」
いつの間にかわたしの傍に立っていた霧ヶ峰さんがぼそりと言った。
「あんたは黙りんしゃい、うちはこの人と喋っとーと! それから少し席をはずします!」
自分の部屋に引っ込むと、女性はすう、と浮きながら入ってきた。
明るい茶色のショートヘアに、深い青色の服を着ている。この人も、魂ってやつだ。
「お名前は、なんですか」
『 貴様から名乗れ。良いか、礼節を重んじよ 』
「そうですよね……ごめんなさい。わたしは、佐和千早です。あなたは」
女性は、ふと微笑んだ。釣り目が柔らかく細められる。
『 金剛型戦艦一番艦、金剛 』
「え……ぇぇぇぇえ⁈」
『 見当はついていたのではないのか 』
「そりゃあ、何かの魂かなぁーとかは、思ってましたけど……。金剛さんほどの方だとは思ってませんでした……」
『 今改装中なんだ。長門や陸奥からは聞いている 』
「あの、助けてくださってありがとうございました……」
『 ふふ。構わんよ 』
ふと微笑まれる。忠誠的な顔立ちをしているのか、男性に見えなくもない。
「そういえば、金剛さんの髪、茶色なのは不思議ですね。日本の艦は黒髪だと思ってました」
『 私の髪は金のはずだが……何だこれは。胸がついてる 』
「何言ってるんですかれっきとした女性ですよね⁈」
『 ……英国時代は男だったし、こちらへ来てからも男のままだった 』
「そ、そうですか……」
『 身体の変化は気にしてはおらんが、英国時代の古き友を忘れてしまうのかもしれないと思うと、少し悲しい 』
寂しい目をしていた。なんとなく、金剛さんを抱き締めたかった。
手を差し出すと、金剛さんは緩やかに首を横に振る。
『 ああ、私には触れない。私に触れられるのはただ一人だけなんだ 』
「なんだか、羨ましいですね。その人」
『 そうだろう? ふふん、有能な男だ 』
得意げに笑う頬は仄かに赤くなっていて、ああ、この人も人間らしいなあと思う。
けれど、髪と服の間から、黒い線が見えた。
この人は、艦だから、沈むんだ。金剛さんの想い人も、一緒に艦内に居れば、きっと。
「あの……、今、しあわせですか……?」
『 しあわせだよ。とても。皆が私を必要としている。私も皆を必要とする。私の中に居るのは、有能な男達だ 』
自慢げに言うその口ぶりからして、本当に船員を愛しているんだなあと思った。
「生き残ってくださいね……」
『 勿論だ。生きて母港まで戻り、全員を家に送り届けるまでが闘いだろう 』
「なんだか、家に帰るまでが遠足、みたいな言い方ですね」
金剛さんはくつりと笑い声を漏らした。
『 まあ、そんなものだ 』
あげいんあとがきコーナー☆
作者:ふう……疲れた。
鬼灯:今回はWikipedia駆使しまくってたな。
作者:固有名詞を覚えられませんどうすればいいんだ!
鬼灯:覚えろ。
作者:んな、酷なことを言っちゃいけません!
では、金剛山のプロフィール行きます。この作品初の、(元)男性艦魂さんです。
金剛型戦艦一番艦 金剛
身長 175cm(男性時 185cm)
体重 お察し
茶髪、青いドレス。胸、腕、足、首には金属製の飾りがある。
筋肉質。堅い雰囲気。
戦争はあまり好きではない。
船員を何よりも大事にする情に厚い人。
紅茶が好き。(金剛デース!)
作者:……こんなもんか。
鬼灯:適当すぎやしないか?
作者:こんなもんだろ。こんなもんです!
鬼灯:作者が匙を投げたのでここまでだ。ではまた次回。




