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AGAIN…  作者: 昆布もぐもぐ
AGAIN…/第一章
17/21

もといた世界を捨てて、この世界に来ました。

少しずつ重めになっていきます。





「……へえ、で、佐和さんは女性だった……と?」

額に青筋を立てて言う桜子さん。怖いです。

「え、ええ……申し訳ないです……」

「霧ヶ峰さんは佐和さんとお付き合いされているのですか」

「していません」

「しています」

両方違う答えを出すと桜子さんがさすがにキれたらしく立ち上がって叫んだ。

「ふざけないでくださいませんか!」

それわたしの台詞です。

「それに佐和さん? あなたのそのスカートの丈、なんなんですはしたない!」

「は、はしたないぃ⁉」

膝より三センチくらい上の丈のスカートです。長めなんですけど。

「いいじゃないか、色気あって」

「色気なんか求めてませんから。あと触らないでくれます」

太腿に手を乗せてきた霧ヶ峰さんの後頭部をぶっ叩いた。

「浮気は認めません。いいですね霧ヶ峰さん」

「浮気もくそもないだろ。恋人でもないんでしょ俺達」

「なななな何勘違いしてるんですか、あんたじゃなくて佐和さんの方です」

「わ、わたしですか?」

真っ赤な顔しててもまる分かりなんだけど……、思いながら桜子さんを見る。

「恋人がいらっしゃるのになんでこいつと手なんか繋いでるんです!」

恋人がいると言った覚えはないし、そもそも恋人なんていないんだけど……。

と思いつつも、彼女の後半の台詞で、右手の違和感の正体が今やっと掴めました。

「離してください」

「いや」

「いやじゃありません離してください変態」

「嫌だっつってんだろ、喚くな」

なんだかふざけた雰囲気から一変して、桜子さんがいるのにも拘らずわたしを膝に乗せようとした。この方……軍人さん以上の変態だ。

どうにかしないと桜子さんが可哀想。

「喚いていません、ついでに言いますけど脚怪我しても知りませんよ」

鞄の中から取ったカッターナイフを突きつける。

「やめてください!」

血相を変えた彼女が、霧ヶ峰さんに掴みかかる。

「……桜子さん、それはわたしの台詞です。ほら、彼女が見ているんですから離しましょうよ」

「……別に、彼女じゃないし」

このツンデレカップルがと怒鳴りたくなったけれど、素直に腕を離してくれたからよしとしよう。

「…………すみません、用事を思い出しましたので、これでお暇させていただきます」

すこし震えた声で桜子さんが言った。

わたしが彼女を見上げると、彼女は憎悪? 嫌悪? 丸出しの顔でわたしを睨んだ。

「佐和さん、わたしあなたのこと嫌いです」

「あ……そう、ですか……」

初めて知り合った同性の方だから、大切にしたかったのになあと思いながら、揺れるおさげを見送った。

「桜子さん、霧ヶ峰さんのこと好きなんですよ。あなたなら気づいてますよね」

なぜかわたしの部屋にいる霧ヶ峰さんの横に腰を下ろした。霧ヶ峰さんは髪をぐしゃぐしゃと掻き回すと、

「…………あー、まあ……」

歯切れ悪く言った。

「どうして気づかない振りをしてるのか、訊いてもいいですか」

「……千早が好きだから」

「冗談はやめてください」

「本当のことだと思う」

思う、ってなんてあやふやな。

じっと彼の顔を見つめると、大きなため息を一つついて話し始めた。

「……何となく、何となくだが、あいつは俺と関わらない方がいい」

関わらない関わるは別として、あなた方は戦争で亡くなるんですとは、言えるはずもない。

「んで、千早は俺と関わった方がいいと思えた。確証はないけど」

「そうでしょうかね」

こうやって笑っている人が、と思うとなんだか居たたまれなくなってそっと視線を逸らした。

「さらっと否定したなあ。そういえば訊きたいことがあったんだが、訊いていいか」

「答えられるなら」

霧ヶ峰さんは人懐こく笑うと、その笑顔のまま言った。

「千早は何になりたかったの」

「……薬剤師です。船か飛行機に乗って仕事が出来たら、最高だと思ってます。無難なことを言えばお嫁さんですかね?」

「ふうん」

霧ヶ峰さんは一転して口元を歪めて笑うと、部屋を出ていった。

――千早は、何になりたいの。

「むずかしい、質問するなあ……」







*    *    *  







「そういえば、ベルリンオリンピックがありますよね」

「……ああ、そうだな」

季節も変わり、5月が過ぎた。

霧ヶ峰さんの部屋でテキストを広げていたわたしは、何の気なしに呟いた。

「ドイツ、行きたいな……」

「どうして」

不思議そうに聞いてくる霧ヶ峰さんに、曖昧に笑う。

「……会いたい人がいるんです」

「相当の旅費がかかるぞ」

「ええ。でもそんなお金、わたしにはありませんからね」

「だろうな」

一部の金持ちしか無理だと、にやりと笑って言った。

「ところで、その会いたい人ってのは男か?」

「ええ、まあ」

「恋人か」

にやりと嫌な笑みを浮かべて訊いてくる。悪趣味な。

「違います」

「でも好きなんだろ」

驚くほど、冷静な声が降ってきた。

ゆっくり見上げると、まっすぐわたしを射抜く目線に、圧倒された。

「…………分かりますか」

ため息とともに吐き出した本音に、霧ヶ峰はため息で返した。

「ああ。分かるさ。だけど理解できないな」

「何が、ですか」

あーとかうーとか唸って、ばつが悪そうに頭を掻くと、ぼそりと吐き捨てた。

「その男に会って、千早は何をしたいのか」

「単純ですよ。お礼が言いたいだけなんです。助けてくれてありがとうって」

「そのあとは? 帰ってくるのか」

「……さあ。本心としては、留まりたいですけれど。でも、」

ぐっと口を噤んだ。続きを促す霧ヶ峰さんに向き直り、口を開く。

「でも、その方は飽きっぽくてですね、わたしのことなんか、覚えてない、かも、しれないん、です。むしろ、覚えてない、確率、の方が、高くて」

「……泣いてるのか」

声が掠れているだけです、そう言おうとしたけれど、一言でも声を発すれば嗚咽が漏れてきそうでできなかった。

霧ヶ峰さんはわたしの顔をぐっと掴んだ。

「千早。お前は、薬剤師になりたいと言ったな」

「言いました」

「でもそれは不可能だ。そうだろう。資格を取るにはまた一から学校に行く必要がある。学校に行くには学費と、それから戸籍がいる。それを持たないお前には不可能なんだよ」

「……知って、います。それが、どうしたんですか」

霧ヶ峰さんは嫌な笑みを浮かべていた。

「そんなお前が身一つでドイツに行って、できることはなんだ。その男を探すにも情報は必要だ。軍内部に入り込まなければならない。そもそも、その男が今生きているかどうかすら怪しいだろう」

「…………っ」

「考えたくもないよな。もしその男が死んでいたら、お前の存在する意義がなくなってしまうからな」

ああ、正論だ。

正論過ぎて、何も言えない。

「お前なんかいなくたって、そいつはうまくやっていけてるさ。むしろお前は未来から来た異端者なんだから」

ぐらぐらと景色が回る。もう何も考えたくないと、頭痛と吐き気を訴える脳。

瞬きを一つすると、途端に両眼から涙が零れ落ちた。

「……すみ、ません、失礼、します」

ふらりと立ち上がると、霧ヶ峰さんはにやりと笑った。

「ゆっくり考えな」

ひらひらと手を振る、彼の首元の黒い輪が、部屋を出た後も焼き付いて離れなかった。

「確実に、ひとが傷つく言葉を選んで……」

霧ヶ峰さんの前で泣いてしまった自分が、ひどく情けなかった。


あげいんあとがきこーなー


作者:霧ヶ峰さんのゲス化現象。

鬼灯:馬鹿か。あいつはもともとゲスだった。

作者:げすがみねー♪

鬼灯:エアコン会社に謝れ。

作者:以下、ちょっとネタバレ↓






作者:霧ヶ峰くんは、女好き、軽薄、変態、そして人が一番言われたくないことをグサグサ言う子です。

鬼灯:言われて一番傷つく言葉を本能的に理解できる人間だという設定だな。

作者:そう。お豆腐ハートな千早さんも粉々☆

鬼灯:作者、お前も相当ゲスだな。






作者:それではまたお会いしましょう。

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