わたしの世界に入ってきて、わたしを変えてくれた。
歴史人物のねつ造があります。
苦手な方はご注意ください。
悪いことを、していたのだろうか。
彼らは、反逆罪なのだろうか。
倒れ伏す大尉を見下ろしながらただ茫然と突っ立っていた。
安藤大尉の意志はまっすぐで――、あまりにも純粋だ。
民衆をひたすら思い、目の前で苦しんでいる人がいたら、放っておけないような、そんな人。
きっと彼は、優しすぎた。
それだけなんだ。
わらわらと集まり、連絡をしたり泣き叫んだりする者。
それをただ見る人外。
さあっと血の気が下りていくような気がした。唇がわななく。
「あんど、……たい…………」
名前を呼ぼうとしたけれど声が掠れ、力が入らなかった。ゆっくりと暗転していく視界の端っこで、鬼灯がまた、辛そうな顔をした。
***
「……ここは」
「目を覚まされましたよ、良子さま」
涼やかな音と、少しひんやりした空気が頬に触れた。
ながこさまと呼ばれた人らしき人物が、向こうから歩いてくる音が聞こえる。
さまをつけて呼ばれるくらいだからきっとえらい人物なのだろう。それよりも先にここはどこで、わたしは何をされるのかが知りたい。
しゃり、というような音が聞こえたような気がした。
「おはようございます、佐和、千早さん。お噂はかねがね」
鈴の成るような声が頭上から聞こえ、そちらに目をやると、ひとり、女性が立っていた。
そばに控えていた女性全員が頭を下げている。これはなんだろう偉い人なんだろうな。
「あの……、あなたは」
「わたくしは、久邇宮第一王女、良子です。今は、香淳皇后と呼ばれていますわ」
香淳皇后。天皇の后。……ちょっと待って。なんなの、ここ、ロイヤルファミリーが住んでる場所なの⁉
わたし殺されたりしないよね⁉
びくびくしながら、とりあえず、口を、きいてみる。
「皇后……さま……」
皇后さまはくすりと笑うと、わたしが寝ているベッドに腰かけた。無遠慮な、とか言ってる場合じゃない。
なんだか今の動き、現代の女子高生から女子大生っぽかったよ⁉
「皇后とか呼ばないでいいわ。あなたのこと知ってるの。……鬼灯から」
「はあ?」
『由依、そんなことを言うんじゃない』
由依と呼ばれた皇后さまはにっこり笑った。
「千早さん、ここで少しゆっくりしていかれたら? あんな痛ましい事件の後だもの、心の休養が必要ですよ」
あんな痛ましい事件……、その言葉で、わたしはベッドから飛び起きた。
「行かなきゃ」
『どこへ行く』
鬼灯が非難がましい口調で言った。
「安藤さんが死んじゃうかもしれないんです」
鬼灯がわたしの前に立った。行く手を阻むように。
『止めろ』
「千早さん、やめて」
『後悔しか生まない選択をさせるほど俺は莫迦ではない。ここにいろ』
最初に、昭和時代に来るっていう、後悔しか生まないかもしれない選択をしたのは、紛れもないわたしだ。
それならいっそ後悔の中に身を投げてみるのも、いいかもしれない。
何よりわたしが良いと思う道を進まなきゃ。
安藤さんを、できるなら助けたい。
「……決めたんです。それがどんな結果を生むことになっても、わたしはわたしが良いと思った道を進むんだって。それで、この世界に、何もかも捨てて来たんです」
鬼灯は屈みこむと、わたしの耳元で囁いた。
『それがお前の選択なら、俺は何とも言わない。好きにやれ』
「ありがとう鬼灯」
「……にゃう」
「紅ちゃん! 一緒に来ちゃだめだよ」
紅がわたしを見上げていた。可愛い。けど、今からはもう一緒に連れていけない。だからやんわり引き離そうと思ったんだけど、なかなか離れてくれない。
「みゃぅ」
名残惜しそうな目で見られたら……、置いていけないです。
しぶしぶ溜息をついて、紅を抱き上げた。
「……危ないって思ったらすぐに逃がすから」
「にゃっ」
『……ハァ』
鬼灯が盛大なため息をついた。
「お上に申しあげてきますわ」
そっとわたしに手を添えたあと、皇后さまが走り出した。――と思ったら転んだ。
ドジっ子なんだろうか。
「ここは、吹上大御所ですわ。ここから少し行ったところに、お上の御所がございます」
丁寧に説明してくれる。
「一緒に行きましょうか」
にこりと微笑まれ、思わず頭を深く下げた。
「ありがとう、ございます」
「それと、……これから入用になるでしょうから……、ほんの、好意ですわ」
そう言いながら、皇后さまはわたしに大きなバッグを持たせた。
「中身は、泊まるところが見つかってから、お開けください」
「何から何まで……本当に、感謝します」
そう言いながら、御所を出る。
曇り空の下、雪が舞っていた。
その向こう、豪奢な、とは言わないまでも綺麗なつくりをしている御所が見えた。
「お上に来客だとお伝えくださいませ」
「こ、香淳皇后! 直ちに伝えて参ります」
暫くして、天皇に会えるとの報告があった。しかし皇后付で。
「お上、失礼します」
「ああ、良宮。どうされました」
「この方、わたくしが最近言っていたでしょう、未来から来た方ですわ」
お二人ともにこやかに話してるけど、未来人ってばれてるの⁉
そしてこの天皇、皇后さまが未来人って知ってて結婚したの? そうだとしたらとんでもない夫婦ですよ。
「未来からか、面白いことを言いますね。で、お名前は」
「佐和千早さんです」
「はじめ、まして……」
流されないように、しないと。
わたしは、安藤さんたちの処分を、少しでも軽くしてもらうために、ここに来たんだから。
「なんの、お話かな」
「2.26……いや、昭和維新かな、そのお話です」
ぴしりと天皇陛下の顔つきが固まった。
その気迫は恐ろしいくらいで、やっぱりロイヤルファミリーの威光、半端ないです。
帰りたいなーとぼんやり頭で思いつつも、
「首謀者、首魁と呼ばれる方々を、どうされるおつもりですか」
天皇陛下は皇后さまの顔をご覧になった。皇后さまはにっこり笑った。
「銃殺刑に処する。これは決定であり、覆すことはできない」
「……せめて、殺さない方法は……、選択できないんですか」
天皇陛下は首を振った。それは固い意志の表れのようで。
「できない」
「どうして……!」
「決定は覆らない」
天皇の言葉の重みは、ここに、色濃く表れているように、感じた。
人を殺したのは、そりゃあ悪だ。大臣とか、陸軍の偉い人とか、総理大臣まで殺そうとしたんだから、それは、悪だと言われれば否定はできない。
だけどこの人たちを殺したら……、もっと、もっと悲惨な結果を巻き起こすのに。それを知らないから。
知らないからこそ罪を平気で犯せる、なんて……。
「あなたは……、人殺しです」
びしりと空気が固まった、でもそのことにわたしは気づけなかった。
「彼らはきっとあなたを生かしてくれる。国のことを本当に思い、行動したのはどちらか考えれば明瞭でしょう? 今の日本を、あなたは肌で感じたことがないから、そんな風に椅子に座って偉そうにしてられるんですよ。……飢えに苦しむ子供をご存知ですか? ……家族を食べていかせるために、二束三文で売り払われた娘の行く先をご存知ですか? あなたはそんな、日本を背負って立つ子供たちの未来を、奪ってるんですよ……!」
わたしだって、何も知らない子供だった。
この時代が飢えと差別と……それから、のちの日本に根深く残る自虐思想、自嘲壁につながることは、頭では理解していたけれど。心では理解できてなかった。
けれど彼らと共にいて、……話を聞いて、助けたいと思った。
わたしは歴史を歪めちゃいけないけれど。
歪めることは禁忌だと言われたけれど。
でも、……少しでも良くなって欲しいと願うのは、いけないことなんだろうか。
「あなたは何も知らないかもしれない……。わたしも、何も知らなかった。だけど、だからこそ知る必要があるんです。あなたはとんでもない間違いを起こそうとしているんです。彼らを殺すことによって……! 人殺しです。あなたは……! あなたが、未来ある多くの若者たちからそれを奪い、後々、地べたに這いつくばって許しを請うことになるんです……!」
長い長い、沈黙。
わたしは、泣いていた。横を見れば、皇后さまも、泣いていた。
同じ未来人同士だけれど、言いたいことは分ってくれたのだろうか。
……天皇陛下は、きっと無理だろうな。
「………………佐和、千早と言ったな。この者を牢に入れ、即日、処せ」
あげいんあとがきこーなー
作者:お久しぶりです。
鬼灯:作者、男性艦魂を書こうとしたんだって?
作者:うん。
鬼灯:理由は?
作者:作品に、めったうちにされる女の子って出したくないんですよ。
うちの艦魂は、霊魂のような設定だから一部の戦艦、空母を覗いて有機物には触れられないしいくら艦が壊れようが、彼女たちがダメージを受けることはありません。
それに戦って男がやるもんでしょ。
鬼灯:それは一概には言えないけれども、まあ大体男がやるな。
作者:でもうちの作品、主人公女の子で、かなり女の子出てくるんですよ。
鬼灯:そうだな。
作者:男のキャラが追い付かなくてバランスとれないんだよ!
泣いていい⁉
鬼灯:すげえ現実的な理由だなオイ!
作者:予定では、あの艦とあの艦の艦魂が、最初は男の子設定でててくる……つもり…………。
鬼灯:つもり?
作者:過激なバッシング受けたら取り下げるから。
鬼灯:バッシングもほどほどに頼む。作者メンタルクッソ弱いから。
作者:うん。よろしくお願いします。
鬼灯:ではまたお会いしましょう。




