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やっと最初のシーンに戻りました…
「誰がそんなことを?」
彼が真剣な顔で私に問いかける。
「みんなそう思ってる」
「みんなって誰なの?」
彼は私の言うことを信じたくないのか、詰め寄ってくる。どんな顔をしても、直視する勇気がなくて顔を背ける。その度に立ち位置を変えて、目を合わせようとしてくる。
「クラスのみんなとか…」
曖昧な返事をする。私たちを見知っている人なら誰だって思うよ。『美女と野獣』だって。
「具体的に誰なの?」
「誰って……」
そんなこと言えやしない。どうしてそんなこと言わそうとするのか、彼の真意が分からない。
「釣り合わないからダメなの?」
「はい」
悲しげに瞳が揺らぐ。
「僕が野獣だから……」
「えっ?」彼の言っていることが分からず、聞き返す。
「そう言うことでしょ?野獣っていうのは僕のことなんだから」
「何か勘違いしてるみたい…です」
彼の言わんとしていることが分かった。彼は思い違いをしている。でも、それをあえて口にするのは、ちょっと勇気がいる。
「美女って言うのは、真尋さんのこと。野獣は私」
「えっ?」
彼は納得できないのか聞き返す。でも、誰もが認めるほど、真尋さんは美青年なのだ。男とは思えないほど、きめ細やかな肌、長い睫毛に、くっきりとした輪郭。それに引き換え、私と言えば校内一の長身(もちろん女子の中で)、目つきが悪いし、粗野で可愛らしさなんて欠片もない。
「美女が僕?それってどういうこと?」
自分の美しさに鈍感なのだろう彼が尋ねる。それとも、女と言われたことに戸惑いがあるのだろうか。
「真尋さんは、みんなが認める美人です。だから…」
「ねぇ、もう一度聞くよ。みんなって誰なの?」
「どうして、そんなこと聞くんです?」
「失礼だよ。君はこんなにキレイなのに」
そう言って、彼は私の頬に手を伸ばす。暖かな感触を頬に感じて、硬直してしまう。
綺麗だなんて、どこを見ればそんな言葉が出てくるんだろう。手はごつごつしているし、髪もさらさらじゃなくて、荒れている。筋肉質な身体は女性特有の丸みもない。男の子みたいなのに。
「―――うそ」
「嘘じゃない」
やっとの思いで発した言葉に彼は即答する。
「一海ちゃんは、キレイで可愛いよ」
彼は優しく微笑む。自分より幾分も綺麗な人に言われると居た堪れなくて、きっと私は酷い顔をしている。
「ど、どこが?」
「花を愛しむところとか、そう言うところがね」
彼は少し照れたように顔を伏せる。
「そう言うところが、好きなんだ」
朱に染めた顔を彼は持ち上げた。直視することを避けていたのに、視線が絡んで目を外せない。彼の真剣な言葉に、私まで茹でダコのように顔が赤くなっているに違いなかった。
「ねぇ、返事は?」
自分にここまで言わせたんだから、答えてくれるよね。という雰囲気で問いかけられる。先程の返答以外の答え。つまり好きか嫌いかの二択という意味だ。
「そんなこと言われても……」
自分に自信がない。どんなに彼が私を好きだと言っても、私が自分を好きじゃない。彼が綺麗だと形容する心でさえ、私は醜く歪んでいるような気がするのだ。
「僕のこと嫌いなの?」
彼は私を覗きこむように見上げる。瞳は潤み子犬のよう。通常この攻撃は女がするもんじゃなかったっけ?
そんな瞳で見られて、「うん」なんて頷けるはずないじゃないか。
困った私は返答できない。
「嫌いなんだ」
「嫌いじゃないけど」
あまりの悲痛な声に返してしまった言葉。
「なら、好きなんだ」
嬉しそうな声に、しまったと思うが後の祭りだ。
「どうしてそうなるの」
「嫌いじゃないなら好きってことになるでしょ?」
私のぼやきさえ、彼は聞き逃さない。それほど近くに彼がいることに改めて気付く。
「ねぇ、もし君が野獣なら悪い魔法を解く方法を知っているよ」
「へっ?」
急に何を言い出すんだ。という私の戸惑いなど完全に無視される。
「魔法を解くには、お姫様がキスしなくちゃね」
「そ、それ、話違うから!」
そんな私の突っ込みさえ彼は無視してくれちゃって、強い力でひかれて、気がついたら……。
唇を思わず抑えてしまう。先程感じたものが現実だと解って、顔に酷い熱を感じる。
彼はしてやったりといったように、不敵な笑みを浮かべる。
「あれ、まだ解けてないのかなぁ?」
私は茫然とすることしかできない。
――ねぇ、誰かお願い教えて。悪い魔法が解けるのは一体いつ?
まだ、続きます!