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それから、それから…どうだったんだっけ…。


町が緑色に溢れ返り、鳥のさえずりが優しく響いている。

里穂子さんが庭に植えている、紫陽花やペンタスに水をやり、一息つき空を見上げる。

今日もいい天気になりそうだ。

雲ひとつない晴天。穏やかな風。とてもいい朝の始まり。

ジョウロを片付け家の中に入ると、とてもいい匂いが鼻孔をかすめる。食卓にはご飯とみそ汁そして卵焼きが鎮座している。

「いただきます」

里穂子さんの作るご飯は美味しくて、顔が綻ぶ。家にいたころは、弁当の残りものとかトーストだけとか手抜きの朝食。昼食だって夕飯の残りものとかご飯とふりかけだけとか、何も言わなかったら手抜き弁当だったのに、この生活を始めてから一度も手抜きを感じたことはない。だから、恐縮してしまう。

 「一海ちゃん。これお弁当ね」

「ありがとうございます」

 私は里穂子さんからお弁当を受け取ると、椅子に立てかけたカバンに詰め込む。

「それにしても、ひろはいつまで寝ているつもりかしら」

「私が起こしてきましょうか?」

「朝練、大丈夫?」

「起こすぐらいの時間はありますよ」

私は少し苦笑いをする。

 汐野家での生活も一年経って、里穂子さんともだいぶ打ち解けてきたと思う。

 真尋さんは朝が弱いのか、朝彼を起こすことが日課になりつつある。

 私は二階に上がり、奥の部屋の襖を軽く叩く。返答はなく、静かな呼吸音が聞こえる。「真尋さん、朝ですよ。起きてください」

襖をゆっくり開けて、声をかけるが返答はない。私は仕方なく部屋に入っていく。

部屋は整理整頓されていてとても綺麗だ。朝日が障子越しに差し込んで、真尋さんに当たっているが、眩しくないのかそんなこと気にもかけずに寝入っている。

「真尋さん、起きてください」

布団を引っ張り、反応をうかがう。

「もうちょっと…」

布団の端を引っ張り再度自分に掛けようとしているので、軽く布団の引っ張り合いになる。

「早くしないとご飯抜きになりますよ」

「うー」

真尋さんが嫌そうに唸る。

「一海ちゃん、時間大丈夫ー?」里穂子さんの声で、机に置かれた時計に目を向ける。そろそろ出かけた方がいいかもしれない。

「今、行きます」

彼をどうすべきかと思ったのも束の間、のっそりと体を動かし、長い睫毛を瞬かせた後、微笑む。

「いってらっしゃい」

今までしぶとく起きそうになかったのに、どうしてと少し面食らってしまう。

「い、いってきます」

 私の言葉に、真尋さんは軽く手を振る。時計の音色が階下から聞こえてくる。

 ――もう、行く時間だ。

 真尋さんに背を向けて、廊下に出る。

私はまだ、真尋さんの行動の意味も笑顔の奥に隠されたものもなにも知らなかった。

あっと言う間に一年経ってます…

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