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差し込んでいた光が、急に陰り出し、授業中にも拘わらず、意識をそちらに持って行かれる。雨が降り出すのも時間の問題だろう。
「な、りたさん」
相変わらずクラス委員長の友井さんは、挙動不審な感じだ。相手が緊張しているみたいだから、こっちも緊張してくる。
「何かな?」
「あの、えと…」
彼女ははっきりと言わない。じれったくなるけれど、立場が逆なら私だって、そうなったと思うから話すまで待つ。
笑顔の一つでもできれば、和ませることもできたかもしれないけれど、作り笑いさえできそうにない。
中学入りたての頃、作り笑いに失敗して女の子に悲鳴を上げられた。確か、それなりに話もしていたクラスメイトで当時は新しく友達ができたと喜んでいた。でも、お昼一緒にしようと誘われて「いいよ」って、笑顔で返したら「ひゃあー」とかって悲鳴あげられちゃって―――。
そんなこんなで、私は作り笑いを禁じている。自分じゃ分からないけど、よっぽど怖い顔をしているのだろう。芳野は「笑っていろ」なんて簡単に言うけれど、私にはできないよ。特に女の子の前では…。芳野が言うように笑っている方がいいとは思えないし。
「あの、その班別行動……一緒に…その、どうかな?」
一瞬言われて固まってしまった。何の話かと思えば来月に行く修学旅行の班別行動の話だ。そう言えば、この時間はそう言う時間だったことを遅ればせながら思い出した。
「私が入ってもいいの?」
「も、も、もちろん」
頭を何度も縦に振り、何かを小さく囁いたがうまく聞き取ることができない。
委員長としては、はぶられている私をほっとけないよね、やっぱり。班別行動を一人でって訳にはいかないんだし。
「無理させたみたいで、ゴメンね」思わず口から漏れ出た言葉。友井さんは、さっきの勢いで首を横に振った。
「無理だなんて、そんな―――」
窓に叩きつけるような雨が降り出して、彼女の可愛い声を聞き逃してしまう。




