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プロローグ
今、言われた言葉が嘘だと思ってしまう。
だってそんなことあるはずがないと思うから。
でも、彼は私の心の内を否定するかのように再度告げる。
「好きだよ」
と、とびきりの笑顔で。
私は唖然とするしかない。
それを不思議に思って、彼は首を傾げた。
そののちに何かに思い当ったように、手を持ち上げて私の顔の前で左右に振る。
「ね、返事は?」
顔を近づけて問いかける。
いちいちそんなことをしなくてもちゃんと聞こえているのだが、どう返事すればいいのか思い当らない。
「あ、あり得ないから」
顔を背ける。
ずっと顔を見ているのはいろいろとしんどい。
自分の顔の造作と正反対なものだから。
「あり得ない?どうして?」
切なげな声音で問われる。そんな声を出しても否以外の返事を返す気はない。
「どうしてって、私たちがどう呼ばれているか知っているの?」
私は逃げるように一歩彼から離れた。
「汐野家の『美女と野獣』だよ!」