第8話 ファンタジアシティの危機
まだ、『私』が国際政府特殊軍の一般兵であった頃、
『彼』は私の師であった。
私は彼を信じていた。
彼は如何なる悪をも許さず、
その剣で断ち切るであろうと――。
だが、彼は悪に屈し、私を裏切った。
そして、悪は生き延び、遂には大戦を招いた。
お前、今どんな気持ちだ?
あの日、私を捨てて、悪を見逃し、今を招いた。
辛いか? 悲しいか? 苦しいか?
これがお前の背負う罪だ。
なぁ、私のかつての師――クォット。
【幻想都市ファンタジアシティ】
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
[攻撃セヨ! 破壊セヨ!]
わたしは美しいクリスタルの都――幻想都市ファンタジアシティの中心に建てられた警備軍要塞の屋上から外を眺める。何百体ものバトル=アルファの大軍が要塞に向かって侵攻していた。
城壁からわたしの軍の兵士とファンタジア警備軍の兵士たちが一斉に射撃・砲撃で対抗する。爆音が何度も鳴り響き、地面が揺れる。
「ぐぁッ!」
「うわぁぁぁッ!」
飛んでくる銃弾に兵士が血を流して倒れる。要塞に砲弾が飛んでくる。いつだって、わたしたちは気が抜けない。常に気を配ってなきゃいけない。
空を見る4隻もの軍艦が浮かんでいた。全部連合政府軍のだ。艦底にある無数の砲身から絶えず砲撃がなされる。連中、ここからの砲撃じゃダメージが当たらない高度で撃ってくる。
「クォット将軍! もう持ちこたえられません!」
「じょ、上空よりバトル=デルタ14機! 爆撃隊です!」
[こ、こちらエリアBD3! 敵戦車が侵入! 至急、うわっ! 援ぐ――!]
わたしはさっと近くの将校に合図する。彼は素早く頷くとその場を去って行く。彼なら侵入した連合軍の部隊を撃退できるだろう。
でも、時間稼ぎでしかない。もう、わたしたちは終わりだ。今日は持ちこたえられる。でも、明日は無理かも知れない。明後日には連合政府の旗がなびいているだろう。
圧倒的に兵力が足りない。武器も弾薬も医療品も食料もほとんどない。援軍は封鎖艦隊によってことごとくやられていく。
「クォット将軍! クォット将軍!」
[こちらデルタP。クォット将軍――]
[敵の分隊に侵入されました! 至急援軍を!]
わたしは絶える事のない部下の指令要求に応え続ける。わたしの指示は的確らしく悪展開を招いた事はあまりない。
でも、わたしは限界だった。重度の疲労と睡眠不足は確実にわたしから体力を奪っていった。今では足元がふら付くのが普通だ。
「クォット将軍!」
「今度は、どうした……?」
「援軍です! 援軍がファンタジアシティ郊外に現れました!」
今度は誰が死ぬんだ……? 連合軍はクリスタルの都を欲して大軍で攻めてきた。軍艦30隻に、コア・シップ3隻。総兵力30万体。圧倒的な差がある。
ファンタジアシティを封鎖する軍艦は全部で25隻。コア・シップが1隻(これが封鎖部隊の旗艦らしい)。使われなかった残りの兵力はここに投入されている。
「援軍はピューリタン将軍の部隊と新たに編制されたパトラー准将の部隊です!」
「な、に?」
パトラー……? まさか、彼女が遂に出て来たのか!? フィルドの唯一の弟子にして唯一の仲間の……!
わたしはぐっと拳を握る。なにか、希望を感じた。今まで無数の援軍が撃墜された。でも、今回は――いける。
「全部隊に告ぐ! 援軍が現れた! 今日を乗りきれば我らは勝ったも同然! 彼女たちと共に連合政府の機械兵器と生物兵器を叩き潰すぞ!」
「イエッサー!」
「任せて下さい!」
「やりましょう、将軍!」
「連合政府をぶっ潰すぞ!」
わたしは剣を引く抜く。これが最後だ。彼女らが負ければ我らはこの地で終わり。これが最後の希望だ。フィルド、“わたしの弟子だった”お前が育てた唯一の弟子の実力、見せて貰おう――!
◆◇◆
【ファンタジアシティ郊外の上空 コア・シップ 最高司令室】
朝早くに俺は無理やり起こされる。なんでも援軍が現れたらしい。
[現れたのはピューリタン将軍とパトラー=オイジュス准将です]
俺はバトル=コマンダーから報告を聞きながら最高司令室の椅子に座る。正面の大窓からは朝日をバックにした政府軍の艦隊が見える。
大型飛空艇2隻に中型飛空艇15隻。んん、割と大規模な援軍だな。政府の連中、ファンタジアを失う危機にチビったか。
[グラボー中将、指令を!]
「んんっ、そうだな。連中は艦隊を率いている。艦隊戦は避けよ」
[なんでですか?]
「負ける可能性があるからだ。それよりもバトル=スカイとバトル=デルタを全機解き放ち、メイン・シールドをカットしろ」
政府軍の飛空艇は、実はメイン・シールドを稼働させるシステムを破壊すれば終わりだ。機体を守るシールドは完全に消滅する。シールド消滅と共に艦隊から一斉砲撃を加えればいい。
連中の弱点はその大きな飛空艇にある。大型飛空艇はもちろん、中型飛空艇でさえ小型戦闘機には対応できない。
そして、我々は安い機械軍団(俺は人間だが)。アイツらは人間だ。味方を巻き込む攻撃が出来ないんだよな。
「パトラーだか、バカラーだが知らんが戦場には来るのは早すぎだな……」
俺はコア・シップ最高司令室の側を通り過ぎていくバトル=スカイやバトル=デルタを見ながら呟いた。ファンタジアシティも時期陥落する。クリスタルの都は我らの支配下に落ちるのだ。
もはや、勝ったも同然。援軍に何百機もの空中用軍用兵器になす術はない。例えヤケを起こして突っ込んできても、先頭の艦から順に一斉砲撃を加えればいい。俺らは今までそうやって勝ってきた。
経験はどんな戦闘データにも勝るのだ……!