第7話 優しい傭兵の参戦
【政府首都グリードシティ 軍事総本部 飛空艇離着陸場】
私はサブマシンガンという小型のマシンガンと、デュランダルという剣を腰に装備し、大型飛空艇プローフィビの艦内に通じる廊下を歩く。
1週間前、大勢の人が殺された。自爆テロ。家族連れの市民が多くいる場所や子供がたくさんいる場所を狙った自爆テロ。連合軍の無差別な攻撃だった。
そして、軍事予算は増額が決定した。あの補正予算案は元老院は執行部系会派の賛成多数で可決した。
「パトラー准将! 部隊の編制が完了しました。いつでも出撃可能です」
「ありがとう、クロノス」
私は左右にスライドする灰色の扉を開け、進んでいく。廊下に並んでいた特殊軍の精鋭兵たちが一斉に敬礼する。
連合軍との戦争はもう始まっている。アイツらは何の罪もない人でさえも殺していく殺戮集団。この目で見てようやく実感した。
首都でぼんやりしている場合じゃない。私も戦うんだ。連合軍を倒し、この無益な戦争を終わらせるんだ。そうしないと、多くの市民が殺されていく。
私は大型飛空艇の最高司令室に着くと、窓から外を見る。不気味な空。赤い血の色をした空だった。戦争が始まったあの日と同じ色の空……
「全艦、浮上! これより幻想都市ファンタジアシティへと向かう!」
私の副官であるクロノスが通信機に向かって言う。プローフィビの機体が赤い空へと進んでいく。戦争は嫌いだけど、もうやるしかない。そうしないと、多くの人が死んでいくから……
大型飛空艇1隻、中型飛空艇15隻。総兵力は7万9000人。構成員は特殊軍の精鋭部隊。これが私の部隊だった。
連合政府を倒し、フィルドさんと再会する。それが私の夢だった――。
◆◇◆
【政府首都グリードシティ 中央部 最下層】
私はフラフラと首都の最下層を歩く。広大な首都の中央部だけに存在する下層のさらに下の“最下層”。そこは無法地帯だった。
「なぁなぁ! 聞いたかよ、えぇ、オイ!」
「んだよ、今度はどこのだれがブッ殺されたんだ?」
「ちげぇちげぇ! あのパトラーが出撃ってよ!」
私はピタリと足を止める。パトラー=オイジュス……! あぁ、聞いた事のある名だ。財閥連合を大きく弱らせた英雄の1人だ……!
「可愛ええ女を戦争にとは勿体ねぇ! 政府はクソだぜ!」
虫けらのようなクズ共の会話。バカみたいな大声は、私に情報をくれる。あんなゴミ屑のような男が持っているのは、情報……
「殺したらいくら貰える?」
「財閥連合が首を欲してる」
「いぃ~女じゃねぇか」
「この最下層に連れてこいよ」
バカな男だ。パトラーの使い道を何一つ分かっていない。目先の利益だけを欲する財閥連合に売ってもそれだけのカネしか来ない。
あの女の使い方は、連合政府に直接売るんだ。連合政府はフィルドを欲している。フィルドを捕まえるにはパトラーが必要なんだ……。フィルドの唯一信頼する仲間のあの女が。
「おいおい、ねえちゃん」
「…………!」
「なに立ち聞きしてんだ? 情報料を頂こうか!」
下品な男の手が私に伸びてくる。私の被っていたボロボロで湿った布を掴むと、一気に引き裂く。私の汚れた身体がその場に晒される。
「ククッ、噂のザディスちゃんじゃねぇかよ」
「さ、わるなッ! きたない手でッ!」
私はそう言いながら男に噛み付こうとする。男は簡単に避けると、私を蹴ってその場に伏せさせる。別の男の手が私の脚に触れる。
「あの女は?」
「ザディス。精神が汚染された女さ」
「ははッ、この下の“暗黒層”に行くのも時間の問題だな」
下半身に激しい痛みが走る。フフフッ、またか。慣れないな、この痛みには。
私を犯す男に向けて指を突きだす。伸びて割れた爪は男の眼球を貫いた。悲鳴が上がり、彼は私から離れる。周りの男は笑い出す。
私は布きれを纏うと血の付いた手でそこから辺にあった酒瓶を手に取る。目を押さえて転げまわる男の頭に向けて振り下ろした。
「ハハハハハ!」
私は死んだ男に唾を吐き、その場を後にする。誰かが何かを投げて来たが、まぁ、いつもの事だ。気にするほどの事じゃない。
しばらく歩き続けた私は、ようやく住処まで辿り着く。住処は小型の飛空艇だった。その黒い機体はもう壊れて動かない。ただの鉄の塊だ。
私はゆっくりとその小型飛空艇内に入る。辺りは闇で静まり返っていた。この辺りはもう暗黒層に近い。魔物がうろついている。
「帰った……」
私は飛空艇内に敷かれた柔らかい布の上に崩れるように倒れ込む。
「おかえりなさい」
「大丈夫ですか?」
「よかった、ご無事で」
中には3~4人の子供がいる。元々は20人いたが、1人、また1人と減り、今はこれだけの人数しかいない。
彼らは私の子じゃない。私を慕って付いて来る連中だ。何が楽しくて私と一緒にいるのかは知らない。別にどうでもいいことだ。
「ご飯……おにぎりが1個ありますよ」
私は彼女の差し出した小さなおにぎりを無言で口に放り込む。冷えていた。
「……パトラーが出た」
「パトラー? あのフィルドの仲間の女性ですか?」
「そうだ」
「……パトラーを殺せば――」
「殺して連合政府に差し出すか?」
「そうすれば、もう一度――」
「うるさいッ!」
私は布きれを纏うと寝転がる。今更、連合政府の為に働く気は全くない。だからといって国際政府に協力する気もないが。
「僕たち、いつまでここにいるんですか?」
「知らない。イヤなら好きなところに行けばいいさ」
「そんなこと言わずに僕らも何かしましょうよ、“クラスタ将軍”」
「その名前で呼ぶなッ!」
私は頭から布団をかぶって潜り込む。もう、何も聞きたくなかった。
昔、私は連合政府の将軍だった。でも、今は違う。ごみ溜めの中で朽ち果てるのを待つだけの女。かつて、連合政府筆頭将軍と呼ばれた私はもう、どこにもいない。
アイツらは私を捨てた。アイツらの裏切さえなければ、今頃国際政府は滅び去っていただろう。そして、グリードシティのセントラルタワーの最上階にいるのはマグフェルトではなく、この私になるハズだった。
でも、それは夢となった。現実はドブネズミと変わらぬ存在だった……。