第6話 首都爆破事件
※後半はパトラー視点です。
【政府首都グリードシティ】
「アレが首都グリードシティか……」
私は窓から世界最大の大都市を見る。カラフルな無数の明かりが見える。横にも縦にもデカい巨大なビルが何本も立ち並んでいる。外延部でもあんなに大きな建物群。でも、中心に行くと、もっと凄いらしい……。
空を見れば、政府軍の大型飛空艇が何機も飛んでいる。首都を守る政府特殊軍の部隊だ。首都は常に大型飛空艇40隻と中型飛空艇80隻で守られている。
首都防衛はそれだけではない。目には見えないが、首都全体がキャンセル・シールドと呼ばれる強力なシールドで守られている。これがあるせいで連合軍の軍艦や戦闘機は入る事ができない。
「パスポートを提示して下さい」
グリード・ストリートの一番奥にあるグリードゲートに着くと、首都の警備軍兵士がやって来る。パスポートがないとここには入れない。私は事前にティワード総督から貰っていたパスポートをその兵士に見せる。
「運送会社か。よし、行け」
「ご苦労様です」
私は彼らに向かって優しく微笑むと、再びトラックを発信させ、グリードシティへと入る。華やかな大都市が視界に飛び込んできた。凄く高い建物。華やかに無数の光を放つ建物群。歩道を歩く大勢の人々……。
「ここが首都グリードシティ……!」
今まで見てきた無数の都市や街とはレベルが全く違った。外延部でさえ、これほど華やかとは。普通、大都市の中心部でしか見れない。
さすが1800年以上もの間繁栄と成長を繰り返しただけはある。人口3億人以上というのも納得がいく。まさに、世界最大の首都。
――私たちはその世界最大の都市を傷つけに来た。命と引き換えに、たくさんの人を殺し、連合軍に勝利を……。
◆◇◆
【首都グリードシティ 中央部 上層エリア】
私はピューリタンと一緒に首都のレストランで食事をすると、外で夜景を眺めていた。この都市の光景を見ていると本当に世界は今戦争をしているのか、と疑ってしまう。美しい景色、平和な景色だった。
「……ピューリタン、次の出撃は?」
「ん? さぁ…… でも、また収集がかかるかもな」
「…………」
「一緒に行っていい?」って言うおうとした。本当は一緒に行きたかった。でも、私なんかがついて行ったら迷惑かけちゃう。足手まといになる。
「以前の任地は?」
「幻想都市ファンタジアシティ。あそこの復興も終わったから今は別の人間が防衛してる」
「へぇ……」
私は何も知らなかった。それだけぼんやり暮らしてるってことだ。私はやっぱり…… そんなこと考えているとまた涙が出そうになった。ぎゅっと拳を握り、素早く目を擦る。泣くな……!
私は目を手で押さえ、立ち上った時だった。低音と轟音が鳴り響いた。すぐ近くで爆発が起きたんだ!
「な、なんだ、今の音……?」
私はピューリタンの方を向いた瞬間、また別の所で連続して爆音が鳴り響き、空気が大きく振動する。お腹に響く轟音!
周りの市民がパニックを起こし、バラバラに一斉に逃げ始める。悲鳴と絶叫が辺りに響き渡る。
「みんな、落ち着い――」
私がそう叫ぼうとした時、また爆音が鳴り響いた。遥か遠くの歩行用のスカイロードが爆発した。炎と煙と共に瓦礫と化した道路と人が遥か下に落ちていく。その光景を見ている間にも次々と爆発が起こる。
「連合政府の攻撃か……? パトラー、お前は下がって――」
「爆弾テロだ! 不審な物に近寄るな!」
爆弾だ。どこからかの砲撃なんかじゃない。あらかじめ仕掛けられた爆弾が作動したんだ。目的は……混乱か?
私はサブマシンガンを取り出し、辺りを見渡す。怪しい紙袋とかリュックサックは爆弾テロの定番だが……。
「パト――」
「…………!」
私は群衆の中におかしな動きをしている女性を見つけた。この混乱なのに何もせずに突っ立っている。腕に付けた時計をじっと見つめている。まさか、連合軍の兵士?
私は群衆に突っ込む、無理やり人の流れを掻き分け、進んでいく。その間に自身に物理シールドを張って行く。……自爆テロかもしれない。
「何をしている?」
私は突っ立っている女性の頭にサブマシンガンの銃口を突きつける。赤茶色の髪の毛。フィルドさんと同じ髪の毛の色。
その女性はさっと振り向く。驚いていた。私は飛びかかり、彼女を押し倒す。だが、私は押し倒しながら驚いた。
「フィ、ルドさん……!?」
なんで、ここに……!?
その瞬間、彼女の身体が爆発する。空気を切り裂く様な爆音。血と肉片が飛び散り、私の体は宙を舞う。抱き締めていたせいか、周りにいた人々は無事だった。
私の体はスカイロードのフェンスに打ち付けられる。もう少し爆発の規模が大きければ空中に放り出されていた。何千メートルも下の下層エリアまで転落していくところだった。
「パトラー!」
「ピューリタン!」
私は彼女の手を取って素早く立ち上がる。
「何があった!? 紙袋か!?」
「自爆テロだ! 身体の中に爆弾を持ってるっ!」
私はケガした人を向けて回復弾を撃つ。魔法発生装置。スタンロッド型をした装置。政府軍人が持てる特殊な武器だった。
「連合政府の兵士か……!」
「……フィルドさんの姿をしていた」
「クローン・フィルドだ。噂の……」
私はぎゅっと魔法発生装置を握り締める。そうか、フィルドさんのクローンを使って自爆テロを起こしたんだ。無理やりやらせたんだ。
狙ったのは家族連れの一般市民。子供も大人も関係なしに殺したんだ。何のメリットがあってこんな事を……許さない……!
「また、アイツらクローンの命を踏みにじった……」
心の中でどす黒い感情が動く。連合軍はクローンを人として扱っていない。自分たちの都合のいい奴隷人形のように扱っている。
「もう、許さない……」
大勢の泣き声と引っ切り無しに空中を飛び回るレスキュー機の音を耳に挟みながら、私はポツリと言った。