第5話 首都爆破作戦
コイツ……正気か!? この首都を爆破するだと……!?
「お前、何を言ってるか、分かってるのか!?」
「おやおや? トーテムさんは市民がお好きでしたか? さすが、元老院議員でありま――」
「違う! 首都爆破の方だ! そんなことが、出来ると思っているのか!?」
グランは澄ました顔で小さな通信機を取りだすと、それを机の上に置き、ボタンを押す。すると、小さな立体映像が表示される。そこに映っているのは連合政府代表のティワードだった。
なるほど。首都爆破は我々がやるのではなく、連合政府の人間がやるというワケか。だが、どうやって……? バトル=アルファなんか送り込めんぞ。それに首都の警備は万全だ。
「これは、これは……。ティワード閣下」
[グランより、首都爆破の話は聞いたかな?]
「ええ。しかし、その方法が……」
[首都爆破は我々に任せたまえ。君らは爆破後に元老院議会で脅威を伝え、軍事予算の追加案を可決させるがよい。脅威が自分らのすぐ近くまで迫ってることが分かれば、直ちに可決しても世論の反発は少ないだろう]
「……はい、閣下」
我々は立体映像に向かって頭を下げる。それを見たティワードは満足そうに笑うと、姿を消す。
あの男がなぜこの軍事予算追加案を可決させたいのかは分からない。彼は連合政府のリーダー。この予算案が可決されれば、連合政府にとっては不利になるハズなのだが……。
まぁ、他人の損得など知った事ではない。法案が可決され、政府が我々に借金をすれば、我々は組織の立て直しが図れるのだ……。
◆◇◆
【元老院議事堂 オイジュス・オフィス】
私はベッドにぐったりと倒れるようにして寝転がる。窓からは無限に広がってるんじゃないかと錯覚しそうな首都グリードの街並みを見渡せる。
何千メートルもある巨大な建物が遥か彼方まで立ち並び、無数の窓からは光が見える。その建物群の横には大きな歩行用道路。青色に光る緩やかな坂道。そこを大勢の人々が歩いて行く。
3億人以上もの市民が住むこの都市の警備体制は万全で、戦争が始まる前までは攻撃を受けたことがなかった。戦争が始まっても、この都市は2回しか攻撃を受けていない。
「パトラー、体調はいい?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
「ピューリタンって将軍なんだよね」
「ああ、お前の師であったフィルドさんの後任だ。正直、私って将軍の器じゃないと思うが、もう頑張るしかない」
「今度はどこへ?」
「さぁ……。今は首都に留まってるが、その内また出撃命令が出るさ」
私は目を窓から見える街に移す。この都市は攻撃を受けていない。だが、他の都市や街は今も連合軍の攻撃を受けている。
連合政府の狙いは国際政府からの分離・脱退。新国家の設立だった。彼らは元老院議会の機能不全と完全に自由な社会の創設を訴えている。
「……今もたくさんの人々死んでいるんだよね」
なのに私はぬくぬくと暮らしている。世界一安全な都市の最も安全な場所で。何もしないでご飯だけ食べて、ぼーっとしてる。この瞬間にも大勢の人々が嘆いているのに、殺されているのに、私は元老院議員の娘というだけで首都で守られていた。
◆◇◆
【コスーム大陸 某所】
わたしは手を後ろにし、ゆっくりと歩きながら言った。私の方を向いて整列した40名のクローン兵に。
「お前たちはこれより首都グリードシティに向かうのだ……」
首都爆破作戦。子供を中心とした一般市民を巻き込んだテロ工作を行う。その作戦の実行部隊が彼女たちだった。皆同じ顔つき、同じ髪や瞳の色、同じ背丈。――クローン人間。
白い肌に赤茶色の髪の毛に赤い瞳、170センチほどの身長をした彼女達は身体能力の高いフィルドという女をベースに造られた生命体だった。彼女たちの身体能力は政府特殊軍の精鋭部隊にも匹敵する。
「お前たちの身体には爆弾が埋め込んである。夜の9時になれば爆発する。それまでに指定の位置に迎え。……お前たちの犠牲が、我ら連合政府に大きな勝利をもたらすのだ」
わたしは黒いマントを翻し、彼女たちの方向を向く。ほとんどが怯えたような表情をしていた。だが、異論を言う者は誰もいなかった。
そりゃそうだろう。彼女たちの身体には細工がしてある。万が一、我らに逆らえば、脳に埋め込んだチップから全身に激痛が走るようになっている。強烈な精神攻撃は耐え難いモノだが、死に至ったり、気絶することはない。
「早く死ねて、よかったな。……行け」
「はい、ティワード政府代表……」
クローンたちは俯いたまま、用意されたトラックの中に入って行く。トラックは全部で10台。各トラックに10人が乗り、その内1人は運転を担当する。
首都潜入後は全員がバラバラに散る。そして、なるべく人通り、それも子供の多い場所へと行く。時間になれば、彼女達の命と共に作戦は終わる。周りの人間を巻き込んで……。
地上に着陸した軍艦からトラックが出て行く。わたしは口の端でニヤリと笑った。たくさんの命と共に多くの夢は散り失せるのだ……。