表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 ある女性軍人の再起 ――政府首都グリードシティ――
5/43

第4話 軍事予算案

※前半はパトラー視点です。

 【首都グリードシティ 元老院議事堂】


 私は元老院議事堂の会議場へと入る。会議場は、政府代表席を中心にその周りを取り囲むように議員の席があった。

 各議員のスペースは凹の字のようになっている。そのスペースの中央に議員本人。その左右には議員本人が選んだ2人の人間を置くことが許可されていた。

 私はお父さんのいるスペースまで歩いて行く。議員は基本的に左右に置く人間の内、片方は代議員。もう片方は秘書を置いていた。

 でも、お父さんは秘書をつけていない。だから、椅子が1つ空いていた。そこに私はそっと座る。


「軍事費を増やし、兵力と軍用兵器の追加投入。これしかありません!」

「そうです! 連合軍の“クラスタ筆頭将軍”は失脚したとはいえ、彼らはより過激な手法で攻撃を行っております!」

「反対! 軍事費の予算追加は更なる借金を増やす事となる! そんな事をすれば国際政府は破綻してしまう!!」


 今、議題として上がっているのは軍事費の追加を行うための第7次補正予算案だった。なんとなくしか分からないけど、戦いに使うおカネが足りないから他から削って増やそう、という事らしい。それを巡って元老院議会は今、大いにもめているらしい。


「おカネをどこから調達するつもりだ! また、国債でも発行する気か!? それとも増税ですかな!?」

「失礼ながら、おカネの調達でしたら、我々、“財閥連合社”にお任せを……」


 私はじろっと財閥連合選出議員の方を睨む。2年半前、私は彼らの不正を暴こうと、財閥連合が管理する施設に乗り込み、拘束され、違法な尋問をされた。その時の記憶はまだ鮮明に残っていた。

 財閥連合は民間企業。元々は世界経済を支配するほどにまで上り詰めたが、2年半前、違法な軍用兵器・生物兵器開発でその地位を失っていた。その開発・製造した軍用兵器・生物兵器が今、連合政府軍によって使われ、戦争を世界中に撒き散らしていた。


「賛成! 今すぐにでも軍事予算を追加し、軍事力を強化するべきだ!」

「わたくしも賛成だ!」

「反対! 財閥連合社の利子は25パーセントまで引き上げられている! もし借金をすれば、戦後確実に破綻し、世界を支配するのは財閥連合社となる!!」

「いえいえ、国際政府様でしたら、特別に利子の方は23パーセントとし、分割でお支払頂ければと……」

「ぼったくりじゃないか!」

「いや、賛成だ! 今すぐ予算追加を可決するべき!」


 私は小さくため息を付き、そのイスに座り込む。もう、何日もこの話し合いを続けている。やがて、この議案は多数会派「エコノミーズ」や「シールド」の賛成多数によって可決されるのだろう。言ってしまえば茶番だ。それに、「エコノミーズ」には財閥連合系議員が多く在籍している。


「おおっ、あちらに見えるのは、オイジュス議員の一人娘、パトラー=オイジュス准将ではないですか!」


 いきなり財閥連合選出議員のトーテムが私を指差す。こっち見んな。


「あなたは、かつてのお仲間が戦場で戦う姿を見てどう思いか!? 一時期、世界を飛び回っていたそうだが、世界はどうだったか!? 罪なき市民が、連合軍の恐ろしきバトル=アルファに殺される姿を見て、憐れみを感じたでしょう!?」


 そのバトル=アルファを作った“張本人”が何を言ってる事やら。決定的な証拠はないが、財閥連合と連合政府が裏で繋がっている話は知っている。財閥連合が軍隊を連合政府に提供している。連合政府に対しても法外な額で売っているんだ。


「あなたに問おうではないか! この予算案――」

「反対です。以上」


 私は立って一言、そう返すと再び椅子に座る。トーテムが呆然とする。全く予期しない反応だったかな、財閥連合さん。

 トーテムは黙り込んで座る。私も座る。次に出て来た声は反対の声。それに対する反論。会場は再び“話し合い”の場に戻った。そして、財閥連合選出議員は二度と私に話を振らなかった。



◆◇◆



 俺は議題書と資料データの入ったメモリカードをカバンに放り込み、秘書に投げ渡す。クソッ、あんなバカ女に話を振るんじゃなかったぜ! クソッ!!


「おい、トーテム議員」

「……ナード議員とディルメン議員か」


 スーツをしっかりと着た2人。ナードとディルメン。彼らは同じ財閥連合選出の元老院議員だった。つまり、俺の仲間。どちらも40代後半の男だ。


「わざわざ俺を笑いに来たか?」

「そんなつまらん用じゃないわ。……ヴェブ議員とグラン議員が面白い事を言い出してきたんだ」

「面白いこと? アイツらの面白いことは大抵腹黒い事だな。あのバカ女でも襲撃する案か?」


 ヴェブとグランも同じ財閥連合選出議員。この2人はかなり性格が悪い。考える事がクソだった。特にグランは酷い。アイツの口が開けば、全部悪い事だ。


「まぁ、まずはグラン議員の部屋へ行こうではないか……」


 俺はナードとディルメンの後について行く。アイツら、今度は何を考えたかな。面白いこと……ワクワクしてくるわ。

 ……おっ、あそこに見えるのはバカなオイジュス准将とピューリタン将軍じゃねぇか。チッ、今に見てろ。俺を怒らすとタダじゃ済まさんぞ。



 【元老院議事堂 グラン・オフィス】


 俺たちは用意された高級な椅子に座り込む。うわっ、座り心地いいな。さすが、グランのヤツだ。準備だけはしっかりなさってる。……その本人がいねぇな。

 しばらく待っていると、扉が左右に開き、長髪をした黒髪の男が入ってくる。24歳にして元老院議員のグラン。爽やかな男ではあるが、考えることは全部エグい。


「あ、どうも、こんばんは。グランです。皆さまをお待たせして、すみませんね」


 笑顔でグランは近寄ってくる。いつもの爽やかな“表の顔”だ。今度は何を思いついたんだ?


「今日の議会は大荒れでしたねぇ~。パトラーさんの発言には僕もビックリでしたよ、あははは」

「すみませんがね、要件を言いたまえ。わたしはこの後、ディナーに呼ばれているんだ」


 ブェブが用意されたお茶を一気に飲みながら言う。クロント地方産の高級茶か。戦争で物流が悪いから、最近何でも高くなってきているな。


「そうですか。じゃ要件言いますよ」

「早くしたまえ。もうすぐなんだよ」


 ヴェブの野郎、今日の議会じゃ沈黙しやがって。ここでも沈黙してろ。ついでにディナーとやらでも沈黙してろ。

 グランが席に座ると、彼は我々を見回した後、口の端で少しだけ笑うと、淡々と言った。それは我々の頭をストップさせるのに、十分すぎる内容だった。


「首都グリードシティを爆破して、市民をたくさん殺そうと思うんです」


 ……は?

 【国際政府の機関】


◆元老院議会

 ◇人数:1800人

 ◇選出方法:民選(小選挙区・1700)+特別枠(100)

 ◇会派

  ・「エコノミーズ」:576名(政府執行部系)→トーテム、グラン、ナード、ディルメン、ヴェブ

  ・「シールド」:288名(政府執行部系)→ライト、パトラー

  ・「ファンタジア」:540名(政府執行部系)

  ・「ソーシャル」396名(非執行部系)

 ◇概要

  ・国際政府の唯一の立法機関。1800人もの元老院議員から構成される。

  ・政府代表(今はより権限の強い政府総統)を選出する機関でもある。

  ・現在は「エコノミーズ」、「シールド」、「ファンタジア」が執行部系会派となり、国際政府を運営している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ