第30話 3つの道
過去の呪い。
それを解かない限りはパトフォーには遠く及ばない。
パトフォーの呪いが1つ解けた。
だが、たった1つ。
まだ、何重にもかけられた呪いは、まだまだ強力なものだろう。
パトフォーは自らの黒い夢を実現させるために、無数の白い夢を壊していく。
テトラルは暗黒の地。
私を壊した地。
そして、この地には、また別の黒い夢が存在する――。
【封鎖区域テトラル 旧南部市内】
瓦礫で覆われた地上に35隻もの中型飛空艇が着陸し、そこから大勢の兵士や軍用兵器が降りて行く。向かうのは旧中央市内。10隻ものコア・シップが並ぶエリアだ。
連合政府リーダーの1人、ララーベルは大軍を率いていた。何百万体ものバトル=アルファやバトル=ベータといった軍用兵器が我が軍の攻撃を邪魔する。
テトラル本部要塞は首都グリードシティを守る強力なシールドと同じシールドで覆われていた。したがって空中から攻撃する事は不可能だった。
テトラル本部要塞を制圧するには、東西南北の旧市内から旧中央市内に歩いて行くしかない。だが、それを邪魔するのは連合軍の大軍。何百という軍用兵器だ。
「ディンター将軍、各部隊攻撃を開始しました」
「よし、一気に連合軍を攻撃するんだ!」
俺は部下に命令を下す。南部から攻撃するのは俺の軍。西部からはスロイディアの軍。北部からはピューリタンの軍。東からはクォットの軍。兵力はそれぞれ20万。援軍としてクラスタの軍。合計で120万。
これでも圧倒的に連合軍より少ない。ここの連合軍の総兵力は480万。約4倍の兵力だ。勝てない事もないが、犠牲が大きく、時間もかかる。あまり時間をかけると、ララーベルが逃げ出す可能性もある。
「パトラーの“いつもの策”。今回も通用するでしょうか?」
「さぁな。でも、成功してもらわねば、我々はヤバいな」
パトラー、クラスタ、ピューリタン、クォット、クロノス、トワイラル、ミュート。この7人が実はこの戦場にいないと知ったら、ララーベルはどうするかな?
俺は広大な“瓦礫平原”の先。下半球を地中に埋めたコア・シップ艦隊に囲まれた巨大なテトラル本部要塞を見る。砂煙が上がり、要塞は見えにくくなっていた。
「さぁて、今回は成功するのかな。パトラー准将お得意の“こっそり侵入作戦”は」
そう。あの7人は今、テトラル本部要塞の中にいるハズなのだ。
◆◇◆
【封鎖区域テトラル テトラル本部要塞】
私は廊下の曲がり角からこっそりと、先の通路を見る。バトル=アルファは……いない。私はそれを手で合図する。すると他の仲間達が音を立てないように素早く近づいてくる。
薄暗いテトラル本部要塞。これまで侵入してきた施設とは少しだけ違った。通路や天井の左右の端から放たれる不気味な白い光。まず明かりがこれしかない。これ以外の照明はなにもない。
グレーの壁を見ても、ずっと平らなまま。今までの連合系施設は何らかのパイプやら掲示物やらであれだけデコボコしていたのに……。
「見張りが全然いないところを見ると作戦は成功しているみたいだな」
クォット将軍が小さな声で言った。政府軍は120万の大軍。軍用兵器だって無数にある。ここの連合軍を全部投入しても防げないぐらいだ。
私は小さく頷くと、先に進んでいく。なるべく足音を立てないように歩いているのに足音が鳴る。この床の下は空洞になっているのか?
そんな事を思いながらしばらく進んでいく。廊下を進み、階段を上っていく。時々現れるバトル=アルファに見つからないように移動して。
しばらく進むと、広い空間に出た。3つのグレーの扉がある。真ん中の扉は一番大きく、左右の扉は少し小さかった。
「……ララーベルのいる“テトラル総帥エリア”への距離はどれも同じ。そんなに変わりない」
クラスタは真ん中の扉を開ける操作パネルに接続し、左腕に取りつけたコンピューターを操作しながら言う。
「真ん中のルートは軍用兵器製造工場。工場は今も稼働中で無数の軍用兵器を作っては即座に外の戦場に送り出している」
「作ったばかりのバトル=アルファとかを外の戦場に?」
「ああ、間違いない。そこまでしないと防ぎ切れないのだろう」
そっか……。工場を壊せば今も外で戦う政府軍の助けになるかな……? 私はそれを考えて工場を破壊しようと真ん中の扉を開けようとする。
「待て。工場を破壊していたら時間がかかる。それに壊してからテトラル総帥エリアに向かえば、ララーベルは逃げ出すかも知れんぞ」
扉の操作パネルに手を触れようとした私に、クォット将軍が言う。そうだ、私たちはララーベル逮捕が一番だ。彼を取り逃がしたら、何の意味もない。でも、工場を無視したら外の政府軍が……。
「……ここは一度別れて行動しよう」
「ピューリタン……?」
「そうだな。それしか手はあるまい。わたしとピューリタン、クロノスで軍用兵器工場に行く。3人いれば工場の稼働をストップさせれるだろう」
そう、か。クォット将軍とピューリタン、私の副官であるクロノスの3人が行けば工場の稼働をストップさせれるかも知れない。
「クラスタ、左右のルートはどうなってるの?」
私は左腕に取りつけた小型コンピューターで施設の状態と外の戦況を調べているクラスタに聞く。
「左のルートは一般のルート。ただ、改造されたウォプルやウォズプルがエリアを徘徊している。コイツらに見つからずにテトラル御座に行くのは不可能だろうな」
またウォプルか。ゼリー状のあの魔物がここにも。でも、改造されたってどういう事だろうか?
「ウォプルなら以前、プレリアシティで戦った事がある俺とミュートじゃダメか?」
トワイラルが言う。彼はクナによって重傷を負ったけど、その傷はもうだいぶ癒えたみたいだ。彼は2本の剣を握りながら言った。
「……そうだな。じゃ、トワイラルとミュートが左ルートから頼む」
「任せて! 行こう、トワイラル」
「ああ、ウォプルの討伐なら経験済みだ!」
若い2人は意気揚々と左の扉を開け、さっさと行く。これで残ったのは私とクラスタだけ。残された道も右のルートだけだ。
「んじゃ、行くか」
「うん、そうだね!」
私とクラスタは右の扉を開け、内部へと入って行った。バラバラになっても最終目的地は同じ。必ずララーベルを捕えるんだ!
【テトラル本部要塞 分岐】
◆左のルート[通常ルート]
・トワイラル(男性/17歳/准将)
・ミュート(女性/17歳/准将)
◆中央のルート[軍用兵器工場ルート]
・クォット(男性/47歳/将軍)
・ピューリタン(女性/25歳/将軍)
・クロノス(男性/34歳/大佐)
◆左のルート[研究所ルート]
・クラスタ(女性/24歳/――――)
・パトラー(女性/19歳/准将)




