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黒い夢と白い夢Ⅰ ――過去の呪い――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 ある女性軍人の再起 ――政府首都グリードシティ――
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第2話 訓練? 拷問?

※ケイレイト視点です

 【連合政府・ティト本部 特別訓練エリア】


 薄暗い広い空間。冷たい空気の立ち込める空間。白い壁と床で覆われた空間。――子供たちの“訓練場”だった。


[レベル6 スタート]


 広く、暗く、冷たい空間に人間型生物兵器が投下される。身長が3メートル近くもある巨体は黒衣を着て、頭には後頭部までを覆う黒色のヘルメットのような装甲。目には黒色のサングラスをしていた。生物兵器ハンター=アルファだった。


「やだっ、やだよぉっ……」


 1人の青いワンピースを纏った女の子が逃げる。そこから見える体――腕や脚は傷だらけだった。切り傷や打撲の跡。それ以外にも、鞭で打たれたような傷跡まで。

 ハンター=アルファは空間に響き渡る低い雄叫びを上げ、彼女を走って追う。その表情に感情はなかった。そりゃそうだ。生物兵器なのだから。感情や理性は存在しない。頭に埋め込まれたチップでコントロールされるだけ。


「やだぁっ! もうやだよぉっ! 助けて、助けてぇッ!」


 赤茶色の髪の毛をした14歳ぐらいの女の子は途中で、自分の脚につまずきながらも逃げる。だが、すでに傷の多いその子の体力は限界だった。

 女の子は倒れる。ハンター=アルファはすぐそこまで迫っていた。空間が暗くても彼女に気配を感じ取る力がある為、どれだけ迫ってきているのかすぐに分かった。


「いやだ、いやだッ……!」


 ハンター=アルファが彼女のすぐ目の前に立つ。彼は雄叫びを上げると、彼女に拳を振り下ろす。それとほぼ同時に彼女はハンター=アルファに向かって手をかざす。その瞬間、白い尾を付けた白い弾が飛び、ハンター=アルファの胸に直撃する。爆発。ハンター=アルファは吹き飛ばされる。魔法の衝撃弾だ。


「痛いよォ、痛いよォ……!」

「グォォッ……」


 砕けたヘルメットとサングラス。ハンター=アルファはフラフラと立ち上がる。口の端から血が出ていた。それでも、痛がる素振りを見せない。

 女の子は泣きながら扉の所まで行き、何度も叩いて助けを求める。その姿をハンター=アルファの灰色の瞳が捉える。そこに感情はない。


「もうっ、もうっ、許して……! 私、もう痛いことされるの、イヤだ!」


 ハンター=アルファが彼女の頭を掴み、空中に放り投げる。彼女の体は宙を舞う。怪物は後を追うようにして飛び、宙を舞う彼女の体をしっかりと握り締めた拳で殴り、硬い床に叩き落す。


「がッ、ハッ――!」


 背中を強く打ち、彼女は口から血を吐く。ハンター=アルファが彼女の胸を目がけて空中からの飛び膝蹴りを喰らわす。

 私はそこで目を背ける。ハンター=アルファが泣き叫ぶ彼女を殴る音が立て続けに聞こえてくる。――訓練場を見下ろせるように設置された管理室。そこに私はいた。


「ケイレイト将軍、ナンバー419797の“勝利”です」


 椅子に座り込み、訓練場から目を逸らしていた私に、黒い服を着た兵士が言う。私はフラフラと立ち上がると訓練場を見下ろす。

 惨劇――。電気が灯され、明るくなった白い訓練場は血まみれになっていた。あらゆる場所に血が飛び散り、まさに地獄の地獄だった。


「うぅッ、痛い、痛いよォ……」


 座り込み、泣き声を上げる女の子。彼女の服もまた血まみれだった。まるで赤い服を着ているんじゃないかと思わせるような状態だった。

 ハンター=アルファは消えていた。いや、彼女の周りにある血や肉片に成り代わっていた。さっきまで、彼女を圧倒していたハンター=アルファは無残な残骸と化していた。


「す、すげぇ……。あのハンター=アルファが木端微塵だぞ」

「…………」


 これが彼女の持つ、いや、彼女“たち”の持つ能力――“高度魔法”だった。相手を斬り裂き、ズタズタにする力……。


「“クナ”の……ナンバー419797の訓練を終了して」

「し、しかし、まだレベル7のテストが……」


 私は彼らの言葉を無視して部屋の扉を開け、出て行く。白い廊下を歩き、階段を降りる。もう、見ていられない。いくらなんでも酷過ぎる……!

 私はIDカードをスキャナーにかけ、ロックを解除する。扉上部の蛍光灯が赤から緑に変わり、銀色のスライドドアが開く。


「クナ……」

「……“ママ”?」


 血まみれのクナが立ち上がる。だが、その瞬間、彼女はその場に倒れる。脚が折れてるのかも……。

 クナは痛みを堪えながら、折れた脚に手をかざす。蒼色に光る魔法弾を自身の脚に向けて撃ち込む。回復魔法だ。

 私はクナのそばに行き、彼女を抱き締める。私の戦闘用の黒いレザースーツに血が付く。


「ごめんねっ……!」

「ママ、私レベル6まで連続で出来たよ……。強くなったでしょ?」

「……うん」

「フフッ、まだまだこれからだよ……。いつか、世界で一番強くなって見せるよ!」

「…………」


 ……クナは私の本当の子供じゃない。私は今年で22歳。まだ、子供を持ったことはない。

 私はクナに背中に連合政府のマークが施された黒色のコートを着せ、訓練場から出る。廊下には黒い装甲を着た男が待ち構えていた。


「ティワード政府代表……」


 連合政府の代表ティワード……。クナや私よりも強大な力を持つ男だ。高度魔法は使えないが、それでも相当の実力者だ。クナと私が力を合わせたら恐らく勝てるだろうが、そんな事をしたら間違いなく、反逆者として追われるだろう。


「……訓練兵を大切にするのはよいが、お前の為の訓練兵じゃないぞ。連合政府の兵器だ。そこを忘れるなよ……」

「……はい、閣下」


 ティワード政府代表はそれだけ言うと、銀色に光る鋼の鎧を纏った親衛用の軍用兵器バトル=パラディンを率いて去って行く。


「ママ……」

「…………」


 そう、クナは生物兵器。戦う為に生み出された人間。――フィルドという女性をベースに生み出された“戦闘用クローン人間”だった。

 彼女は無理やりその体を傷つけられ、鍛え上げられる。望みもしない訓練を受けさせ、瀕死になるまで続ける。それが戦闘用クローンとして生まれた彼女の運命だった。

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